最終戦8
何週間も休んですみません
気がつくと俺は白一色で埋め尽くされた世界にいた。
「いったいどういうことだ?魂を体に戻すだけで元に戻ると思ったんだが」
傲慢によって、強引に魂を剣として生成し、それを突き刺すことによって魂を戻す。そういうプランだった。ただ、魂を本体に戻せばそれで終わりだと考えていたので、この状況は想定外すぎた。
とりあえず何かないか歩いて探してみることにする。しかし、どこまでも続く白の世界に、自分が進んでいるのか分からなくなる。
「状況から考えて、ここは俺の魂の世界か?」
それが分かったところで、何もないこの空間ではどうすることもできないが。
「……と、あれは?」
近づくまで気づかなかったが、小さな鍵のようなものがひとつ浮かんでいた。
「鍵?これはいったい……」
それに触れた時だった。
突然地面に赤色の大きな魔方陣が浮かび上がり、ばちばちとスパークし始める。
次の瞬間、引き裂かれるような痛みが走り、俺の意識はそこで一旦途切れた。
▽ ▽ ▽
目が覚めると、目の前に一人の男が立っていた。
そいつは、前に記憶で見た、俺に魂裂きの秘術をするよう指示した人物だった。
「あぁ、目が覚めたか。それが主人格といったところだな」
男が声をかけてくる。
「お前は……どうしてここにいる」
「……まぁ、教えても構わんか。どうせ何をすることも出来ないのだから」
何をすることも出来ないという言葉で、自分が十字架のようなものに縛られているのだということに気づく。
「まずは名乗ろうか、飛風練君。私はタルーア・ディ・タリア、タリア神国の最高司教だ」
俺の記憶を持っていたホムンクルス以外で、初めて正しく名前を呼ばれた。
「まず、だいたい予想はついているだろうが、ここは君の体の精神世界だ」
「だというのにお前はここにいて、俺はこうやって拘束されている。いったいどういうことだ」
「まぁ、まて。ゆっくりと行こうじゃないか、どうせ時間は余り過ぎるほどにあるのだから」
そう言うと、タルーアが背を向けて離れていく。
目の前にタルーアが居たために気づかなかったが、自分以外に6つの十字架が並んでいて、その全てに『俺』が縛りつけられていた。
「おい、あれはいったいなんなんだ」
というのに、俺の心は一切揺らがない。まるで始めの頃に戻ってしまったように。
「最初に魔方陣見ただろう?あれは魂裂きの秘術だ」
ということは。
「そう、後は最初と同じだ、お前の魂を7つに分割してこうやって拘束しているだけだよ、ついでに言うとお前は怠惰と勤勉だったはずだな」
「それだけだとお前がここにいることの説明にはならない」
「まぁ、そうだろうな。聞くか?結構苦労したんだぞ?お前の体を言うこと聞かせるようにするのは」
「一方的に人の体を奪っておいて苦労とは、笑わせてくれる」
「笑えないくせして何言ってるんだか。んで、魂を抜いたばかりのお前の体は全く動かなかった訳なんだが、どうやって動かしたか分かるか?ヒントはお前自身だ」
「俺自身だと?いや、動かなかったものが動き出すというのはどこかで聞いたことが……」
(やっほー、それは僕の事だね。あ、こっちは向かないで)
いきなり、背後から聞いたことのある声が聞こえてきた。
(その声、ゼロワンか?)
(正解。君が魂を剣として生成したときに一緒にこっちに来たみたいでね。魂裂きの秘術ってのに巻き込まれなかったからこうやって、こそこそ動けてるって訳)
「分からないか。なら教えてあげよう、魂裂きの秘術を自分に使って、その魂を君の体に入れたのさ」
ゼロワンと話ていた間を、答えが分からないことに対する沈黙、あるいは独り言ととったか、タルーアは急に話し始めた。
「それにしては随分と感情豊かだな、それとも笑うことしか出来ないか?」
「あぁ、それはだな、魂裂きの秘術は最小分割単位が七分割以上じゃないと駄目ってだけで、分ける種類は関係ない。つまり、七分の一ずつ各機能ごとに持ってくればいい、そうすれば普通の人間っぽくはなる」
「なるほどな、神国のトップも人を辞めるのは怖いのか」
「そりゃあな」
「そういえば、あんたはどうやって俺の体を動かしてたんだ?」
「別に能動的に動かせてた訳じゃないがな。行動方針ぐらいしか指示はできてないしな。それで、どうやったかというとコレだよ」
タルーアは、先ほど見たあの鍵をどこかから取り出した。
「この鍵がお前の体を動かすための文字通りの鍵だ。これを使うことでお前の体を動かせる」
「へぇ、丁寧に教えてくれて有り難いことだ」
「どういたしまして」
(おーい、拘束解けたよ)
(ありがとう)
(はいはーい、じゃあこのまま三カウントで撹乱するために姿晒すから、君はあの鍵しっかりと奪ってよ)
(分かった)
なるだけ速く駆け寄るために、体を準備させる。
(3……2……1……今!)
ゼロワンが、俺から視線を離させるために大きく円を描くように飛び出した。
「何!?誰だお前は!」
意識が逸れたことを確認してから走り出す。
後少しで鍵にたどり着くというところで、何かに横合いから蹴飛ばされて転がされてしまう。
「なぜ」
そこにいたのは、メリッサの姿をした人形のような何かだった。