店主達1
メリッサに手をひかれたまま、町を行く。
「メリッサ、これはどこへ向かっているんだ?」
「とりあえずは大通りに出ようかと」
「大通り?」
「そう、大通り。町の中央を枝が二股にわかれた形で通っていて、左の先が王都、もう一方が大砂漠に向かっているんだ。たくさんの人が通るから、色んなお店が並んでいて、困った時はそこに行けば、どんな店でも見つかるはずだよ」
「成る程、Yの字の左上が王都、右上が大砂漠か。残りは何処に繋がっているんだ?」
「ワイの字がなんだかはよくわからないけど、残りは私達通ったことあるんだよ?」
「通ったことがある?......遺跡からの道ということか?」
「大正解!この町は、枝の交点を中心に重要な所へ行くための宿場町として、円状に広がっていった町なんだ、だからこんな形になったんだよ」
「そうか」
「そして、ここが大通り遺跡方面だよ」
メリッサの声とともに、今通ってきた道よりも少し広い道に出る。遺跡方面なためか、雑貨屋や、武器防具の店が目につく。
「遺跡の為の道具や、食料はここでそろうんだ」
俺の見立て通りだったらしい。
「あっちが遺跡だから、今日はこっちだね」
またも、メリッサにひかれていく。
やがて、さらに大きな道との交差点。つまり、町の中央へといたる。
交差点の広場には、この町に来て初めての量の人。しかし、働かない記憶が告げる。お前のいた場所は、こんなものではないと。
「すごい人でしょう。でも、王都だとこんなものじゃないらしいよ」
メリッサの言葉に、どう返せばいいか分からなくなる。
「ほら、呆けて無いで行くよ?」
「あぁ」
連れられて眺める交差点の広場には、目につく大きな3つの建物。それぞれが、広場を挟んで道の反対側に立っている。
「メリッサ、あれは?」
「あれはこの町の主要施設。遺跡方面の反対に建っているのは冒険者ギルド。王都方面の反対に建っているのが王国兵の詰所。大砂漠方面の反対に建っているのが町役場だよ」
「冒険者ギルドか、大きいもんだな」
「まぁ、遺跡が近いからね」
遺跡か......なぜ俺は、あんなところにいたのだろうか。
「レン?ぼーっとして、どうしたの」
「いや、何でもない」
「本当?何かあったら言うんだよ?」
「大丈夫だ」
「それならいいけど......」
一先ず、メリッサの追及が止む。
「それじゃあ次は、セッカイさんとこの八百屋とか生活でよく行きそうな店に案内するよ」
そういうとメリッサは、王都方面への道へと歩き出した。
▽ ▽ ▽
メリッサの隣につきながら歩くと、町中からの視線が刺さる。特に男からの目線が痛い。門兵の時にも受けた、呪い殺すような視線。
俺は何か恨まれるようなことをしたのだろうか。
「やぁ、メリッサちゃん、こんにちは。いつ見てもメリッサちゃんは可愛いねぇ」
俺が思慮していると、メリッサが近づいていた肉屋の店主から、声がかけられた。
「こんにちはベッケスさん、何かいい肉でも入りましたか?」
「丁度、屠殺してから5日寝かせた牛の肉があるよ、これを食べてメリッサちゃんももっとグラマラスに......もとい、もっと健康になってちょうだいな」
メリッサは気付かなかったみたいだが、今この親父、グラマラスだとか溢したよな。
もしかして、こっそりいい肉与えてメリッサの成長を楽しんでいるのか?
「じゃあ、それをください」
メリッサは気付かず買い進める。
「あいよ、いつもの量ね?」
「え......っと、三人分ください」
「三人分?」
「この人の分と、教会の神父さんへのお礼分も合わせて三人分で」
「ほぅ」
メリッサの紹介に合わせて、ベッケスの視線がこちらに向く。
柔和だった瞳が、こちらに向けられた時だけ鋭さを増す。
この目、町の男達と一緒だ。そして今分かった。
こいつら、メリッサと一緒にいる俺を妬んで、あんな視線を送って来ているのか。
理解した途端、より周囲の視線が分かるようになった。
メリッサと歩けば、毎度この視線に晒されることになるのか......面倒だな。
「あ、ごめん、紹介がまだだったね、この店が私が贔屓にしているお店、ベッケスさんの肉屋だよ。ベッケスさん、こっちはレン、トラップに引っ掛かっているところを助けてから、ちょっと面倒をみているんだ」
「そうかい、よろしく。レンとかいうの、後で一人でもう一度来な。そんときにしっかりともてなしてやるぜ。あと、はいメリッサちゃん、注文のお肉だよ」
「ありがとうございます」
「期待しておくよ」
もてなし......か、なにをされるのやら。
「それじゃあ、次行くよ」
またも視線に晒されながら進む。
「ここは、セッカイさんの八百屋だよ」
少し進んでメリッサが止まった店は、八百屋。
その店の奥から、体格の良い女性が出てきた。
「おや!メリッサじゃないかい。ん?なんだい?男連れかい?」
「違うよ!セッカイさん!」
セッカイと呼ばれた女性に対し、顔を赤くして言い返すメリッサ。
「あら、隠さなくても良いじゃないかい。ほら、おばちゃんにだけでも打ち明けてご覧なさいよ」
「隠して無いよ!この人は......えっと......この人は私が面倒見ている人なの!」
「なんだいヒモかい?あんた、さっさと仕事見つけなきゃだめだよ」
大半が勘違いの言葉の中で、唯一否定できない言葉が俺を穿つ。
「えっと、この人はダメな人じゃないよ!頼りになる人だよ!」
「そうかい、それならいいんだけど。あんた、早めに仕事見つけとくんだよ?」
「そうしよう」
俺は、とっさにそう返す事しか出来なかった。
「それじゃあほれ、しっかりと動けるようにこれもっていき」
セッカイさんが渡してきたのは、色とりどりの野菜。
「こんなにいただけないよ」
「いいから、いいから。気にしないで。あ、これもいるかい?こっちのも入れとくよ?」
見る間に野菜が積まれていく。
「これで充分ですから!これ以上は戴けないですよ!」
物足りなそうなセッカイさんを尻目に、少しだけの野菜を持ってメリッサは歩きだす。
「またくるんだよ!」
背後からかけられるセッカイさんの声。
店の店主二人は、とても濃いキャラクター達だった。メリッサがあと何軒回る予定かはしらないが、この先もあんな濃いキャラクター達かもしれなと思うと、少しげんなりしてくるのであった。