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副会長と土井と俺

何とか自分の中できりのいいところまで、書き終えられました。

 それから少しして、控えめなノックが部屋に響いた。短く返事をすると、女性にしては低めな耳触りのいい声が届く。

「土井です。こちらにいらっしゃいますか?」

「あぁ、今開ける」

 内鍵を開けてドアを押し開くと、はたして土井が立っていた。なんだろう、この安心感。来栖とは違う安心感プライスレス。

「お疲れさん」

 見回りへの労いの言葉を掛けながら、体をずらして土井を部屋に招き入れた。

「……失礼します」

 土井はそう言うと、中に入って田所の側に立った。


「……?」


 なぜわざわざ田所の横? 


委員長室という続きの部屋とはいえ、資料室の意味合いも兼ねているからそこそこ広さはある。現に、会議などで使うような長机の二個分の大きさのあるテーブルがど真ん中に置いてあっても、壁面にスチール製の本棚が並んでいても圧迫感は感じない。

 

 それを不思議な気分で見ながらドアの内鍵を閉めて座っていた椅子に腰を下ろすと、土井はそれを待っていたかのように頭を下げた。

「お待たせして申し訳ありません」

「ん? 職務なんだから気にするな。まぁ座れ」

 同じように首を傾げていた田所も、普通に会話が始まったからか気を取り直すように笑った。

「そうだよー。お疲れさまだったねぇ」

 土井の言葉に各々が反応を返すと、土井は促されるままに座ることなく田所に視線を移した。


「……」

 

 なんだどうした、土井のがおかしい。


 田所も怪訝そうな表情で土井を見上げている。困ったように視線をこちらに向けるが、俺も何がなんだかよく分からない。

 そのまま土井が何かを言い出すのを待っていたら、いきなりに田所に向けて頭を下げた。それはもう、がばりと。そしてその勢いのまま、謝罪を口にした。

「副会長。昼はご迷惑をおかけして、大変申し訳ございませんでした」

「……へ?」

 飲み終わったペットボトルのキャップを閉めていた田所は、いきなり言われた謝罪にぽかんと口を開けた。何が起きたのかわからないまま、ただ目を真ん丸に見開いて土井の頭を見上げている。


 けれど土井はそんな田所の表情を見る事もなく、頭を下げ続けたまま。


「例え副会長がそこまで抵抗せず嫌がらなかったからといって、していいものではなかったと思います」


 ……。


 どうしよう。全然違う内容に聞こえるのは、俺が男子高校生だからか? いや、それは全男子高校生にド突かれそうか。ごめんなさい。


 田所はまだ意味が解らないのか、開けた口を閉じないまま土井の頭を見上げている。いや、俺も何に対しての謝罪なのか分かると言えば分るけど、いきなり謝罪するその意味が解らない。

 土井は田所からの反応がなかったからか逡巡したように唇をかみしめると、あの……と口を開いた。


「昼の事……、あの時は突然すぎて何も考えられなかったんですが……。よくよく考えてみれば、来栖さんの言葉にも一理あったかと思います。仮にも一年生の私が上級生の頭を撫でるなんて、とても失礼な態度でした。申し訳ございません」

「え、いやちょっと待って。いきなりなんなの?」


 やっと意味が分かったのか、それでも突然謝罪を申し出られて混乱しているらしい。立ったままの土井を前に、慌てて立ち上がった。その反動で、キャップを閉めたばかりのペットボトルが、机の上から床へと転がる。軽い乾いた音が耳についたけれど、それどころではない。


「待って待って。来栖さんのどこに一理あるのっていうか土井さん、一体どうしたの?」

 意味が解らないとばかりに困惑した表情を浮かべながらも、とにかく頭を上げて……と懇願するように土井の肩に手を置いてぐいぐいと上体を持ち上げようとする。けれど、頑なに土井は体を二つに折ったままだ。


 そんな二人のやり取りを見ていた俺は、小さくため息をついて椅子から腰を上げた。


「土井」

「はいっ」

「頭を上げろ」


 いつもは出さない、命令口調と低めの声。それは偏にこういう場面で効果を発揮させる為。規律を守らない生徒や、風紀委員に対して強く指示する時などにもだが……強制力を働かせるときだけに使うもの。


 それをこの場面で使うのは、土井の態度に何かを感じたからに他ならない。

 土井はびくりと肩を震わせながらも反射的に返事をした後、迷いを吹っ切るかのようにゆっくりと頭を上げた。その表情は硬く、強張っていて。


「……土井。何があった?」


 この状態で聞きだすのは些か可哀そうにも思えたけれど、状況がまったくわからない。なぜいきなり謝罪にまで突き抜ける? 大体昼のアレは俺がけしかけたようなもので、もし謝らなければならないなら俺の方だろう。


「土井」


 何も言い出さない土井にもう一度名前を呼ぶと、一つ瞬きをして俯けていた視線を上げた。


「見回りの際に、二年生の生徒から助言されて気が付いた次第です」

 二年……、来栖と同じ学年。

 何か嫌な予感がして、思わず田所と視線だけ合わせる。

「何を言われた」

「……来栖さんの、態度を窘める言葉を」

 ならば、田所への謝罪にはなるまい。その続きがあるっていう事か。

「それで」

「……その」

 視線を固定して言い淀む土井に、続きを促す。逆にそこが一番の重要ポイントなのだろうから。

 土井は一・二度口を開けては閉めを繰り返してから、やっと続きを口にした。


「その……。来栖さんはやりすぎだとは思う……けれど。副会長に対しての私の態度も、あまり良くなかったのではないかと。非難をするわけではないけれどちょっとだけ気になったから……と、言われました。現にその生徒は決して不快な表情を浮かべてはおらず、親切心で指摘してくれたのだろうという事が伝わってきました」



 背筋を、何かが這い登ってくるかのような恐怖感。

 来栖という存在が、どういう風に受け止められているのか……そしてどうしてそう受け止められて行ったのか。



 ――――その一端を、見せつけられた気がした。

大変申し訳ございませんが、今月は週一更新は出来なさそうです。

なるべく頑張りたいと思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


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