副会長と俺の現状把握時間開始
ちょっと説明ばかりで長めです。すみませぬm--m
満身創痍(主に心が)になりながら見回りを終えて、風紀委員室へと向かう。
終了報告した際に職員室にいた木ノ本先生に聞いたが、まだ土井とそのパートナーの見回り組は帰ってきていない様だった。今月の土井の担当は、二号館という名の二年生の教室と文化部部室棟。各学年の教室が担当に入ると、どうしても時間がかかる。
まぁ、土井は内容を知ってるからな。先に田所と始めているかな。
そんなことを考えながら、途中なに事もなく目指す部屋へとついた。ちょっとホッとした。いや、また何かの拍子に来栖が出てきたりとかありそうで怖いんだもの。
変な風に疑心暗鬼になりながら溜息をつくと、俺がいる少し先で窓から外を見下ろしていた男子生徒が顔をあげた。
「お疲れさまー」
のんびりとしたその声に、ほっと肩の力を抜いた。
そこには、昼ぶりの田所の姿。早めに来ていたのだろう、持っているペットボトルの容量はだいぶ減っている。
「待たせて悪かったな。土井はまだ戻ってきてなかったから、先に入ろう」
「おー」
壁に肩をつけていた恰好のまま頷くと、よいせっと呟いて反動をつけて体を起こす。そうして俺の後ろに続いた。
「失礼します」
一応ノックをしてからドアを開ける。基本、機密事項は風紀委員室の中にある続きの部屋……委員長のみが使える委員長室……に保管されているからノックとか確認とかはいいんだけど、規律としてね。そうなってる。
中に入ると、がらんとした部屋。
まぁ、当たり前だろう。最終見回りを終えた後は、職員室にいる木ノ本先生もしくは月番の教師にリストを渡せば職務は終了。そのまま直帰していい。わざわざ風紀委員室に来て、余分な仕事を言いつけられたくはないだろう。
「田所、こっちだ」
あまり来ることのない風紀委員室を物珍しそうに見回している田所を促して、委員長室のドアのかぎを開けた。
「そっちで話すの? そんなに重要案件?」
はっきり言って、生徒会会長でさえ入った事がないだろう俺の城、委員長室。俺が中に入れたことがあるのは、土井と2年の一人だけだったりする。
興味深そうにドアから中を覗く田所を中に促して自分もそれに続くと、すぐに鍵を閉めた。
「重要案件っていうか、どこに来栖にとって都合のいい生徒がいるかわからないから」
さっきの女子生徒を脳裏に浮かべて、がくりと肩を落とす。まだ何も話していなかったからか、田所は盛大なはてなマークを顔面に浮かべていたが、簡単に説明した後はものすごく憐みの視線を頂戴した。
「何そのタイミング。来栖コワイ」
「だよな」
昼の逆バージョン、田所に頭を撫でられながら溜息をついた。
「大体おかしいんだよ、いろんなことが。今の件だって、あんな人気のない所に女子生徒がわざわざ一人で来る理由がわかんないし。よしんば来ることがあっても、あんな絶妙なタイミングで三階まで来るか普通」
「うん、確かにそうだよね」
俺のため息交じりの言葉に、田所が頷く。
そうして何か考えているような仕草の後、ゆっくりと口を開いた。
「大体さ。あそこまで我を通したら、普通に考えてクラスで生活しにくくなる気がするんだけど。ホント、何でもなく登校してくるもんね」
「そう、まずそれ。かなり不思議」
さっき特別教室棟へ向かう途中に俺自身が考えていたことを、田所が口にする。それに頷きながら、やっぱりおかしいと思うところは皆同じなんだと改めて確信した。
土井に調べてもらっていた内容が、実はそれ。
来栖が転校してきてから二ヵ月間、目立った事象とクラス内の様子。俺が把握していたよりも細かいものを含めると相当数の項目があったが、一番目立ったのはやはりというか生徒会の三馬鹿を落としたこと。
今はあんな腐抜けたような感じになってるけれど、元々は仕事もちゃんとする人望のある三人だった。それがたった一か月で、来栖に纏わりつくお馬鹿さんに成り下がるとは……。
最初はチャラ議長。こいつは自分から噂の転校生を見に行った口。確かに来栖は見た目だけ取れば、十人中八人位が可愛いというだろう容姿をしている……と思う。客観的に。
あの性格を総取替えしてくれればいいのにと思う生徒も、少なくないだろう。ふわりとした栗色の髪は鎖骨辺りでくるりとカールして、形の良い口はいつも笑みをかたどっている。黒目がちの大きな瞳に、ばっさばさのまつ毛。
一見可愛らしい容姿に騙されそうになるが、風紀委員がチェックしてきた噂は性格の悪さばかり目立っていいものはない。報告もそうだけれど態度を見ていれば、容姿の良さを自覚して行動しているのだろうと推測された。
――だというのに。
何があったのか、数日後にはチャラ議長は来栖に対して本気になった。チャラ印象を持たれる様な恰好をしてはいるが、実は意外と冷静な性格をしているはずだったのに。生徒会の職務が疎かになる程、来栖に傾倒した。
その次が、会長。生徒会の会議に度々遅れて来るようになったチャラ議長を連れ戻すべく来栖と一緒にいる時に突撃して、なぜか自分まで遅れて来るようになった。少し落ち着きすぎのきらいはあるが、器の大きい穏やかな性格だったのに。チャラ議長と来栖を獲り合うようになってしまった。
最後が、くせっ毛書記くん。会長を尊敬していた彼は、そんな会長が惹かれた来栖に興味を持って近づいた。恋愛感情がそこにあるのかどうかは分からないが、ペットのようなマスコットのようなそんな状態でその三人の中にいる。
土井の報告書を掻い摘んで説明しながら、手元にあったファイルを田所に差し出した。昼にすべて読み終えていた俺は、田所がファイルを読み始めるのを何とはなしに見ながら口を開いた。
「これだけの事を転校生がしたのに、クラスで何事もなく生活できているのが本当に不思議だ」
確かに来栖を毛嫌いしている生徒もいる事はいるのだが、思っている以上に総数が少なく感じる。特にクラスでは孤立、もしくは男子生徒のみと話していそうなのにそういうわけでもない。
同じクラスの風紀委員によれば、元々仲が良く纏まっていたクラスの中心的グループと一緒にいつも行動しているらしい。そこには女子生徒も数人含まれていて、来栖が除け者にされたりいじめに遭っているような様子はないようだ。
田所はぺらぺらと斜め読みをしながらページを進め、そうだよねぇと呟く。
「他のクラスや学年には嫌がっている人たちがある程度いるけど、それがある程度ですんでるのも不思議だよね」
「あぁ」
「同じクラスの風紀委員が書いてる通りなのかな? 一緒にいるグループがクラスの中心的な存在で、その人たちに護られているから来栖さんに何かしようとしてもできない。むしろそのなんでもない姿に、おかしいと思いながらも来栖さんはそんな人でだから仕方がないっていう唯それだけの認識になってしまうみたいな」
田所はペットボトルを引き寄せてキャップを開けると、一気に残りを呷った。
「その人達が大したことないような雰囲気を出すから、騒ぐこともできないってことなのかな。普通の指摘も大げさに映るっていうか……。まぁ、クラス内とか……クラスが違ってもそのグループと近しい人限定かもだけど」
田所の言う推察に、こめかみを押さえながら呻く。
言いたい事もわかるし、確かに状況からその理由くらいしか思いつかないわけだけど。
「なんつーか、そんな体制をほんの二ヶ月で作った来栖の存在が怖い。そのグループもよく受け入れたよな」
両腕をさすって大仰に肩を竦めると、田所は、だよねぇ……と溜息をついた。
「まさか俺も、生徒会がここまでになるとは思わなかったしね。今まともに機能してるのって、俺と会計だけだよ。仕事進まないよー」
お互いに目を見合わせて、崩れるようにテーブルに突っ伏す。
うん。もうホント、来栖どっか行ってくれないかな……。
来週なのですが病院での検査が入りまして、もしかしたら次回の更新はお休みするかもしれません。
大変申し訳ございませんが、ご了承のほどどうぞよろしくお願いいたします。
篠宮
……その検査……痛いらしいんだorz