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ジャンル恋愛、始めます。……多分?

さぁさぁ、やっと恋愛になるよ!多分!←正直

 今日の俺は、絶不調だ。むしろ魂あたりが何処か飛んでくれたらいいとも思う、飛ばれたら困るけど。


 あの、昼休み攻撃からはや一週間。あの日一気に、噂は下火になった。

 俺の友達で生徒会副会長の田所が来栖の取り巻き達に釘を刺してくれたらしく、同時刻に自ら墓穴を掘っていた俺とは違ってこの騒ぎを治める方向に作用してくれたようだ。

 田所、さすがすぎて何もいえねぇ……じゃなくて本当にごめんなさい助かりました。


 それ以来、来栖はちょこちょこ俺の前に姿を見せるけれども、取り巻き達が何かすることもなく噂も下火になって、静かな学園の雰囲気になっていた。

 とても嬉しい、とても嬉しいのだがこれはどう考えても嵐の前の静けさ。その一言に尽きるだろう。

 来栖は、絶対何か仕掛けてくるはず。それが俺対象なのか木ノ本先生や他の男子対象なのか分からないけれど。大体なぜ、俺に構うのか。他でちやほやしてくれる取り巻きがいるんだから、そこで楽しく遊んでいればいいものを……。


 はぁ。


 終えたばかりの放課後の最終チェックの報告書を職員室に預けて、風紀委員室の鍵をもらおうと木ノ本先生に声を掛ければすでに土井に渡した後だった。

 うん。俺が集合掛けたんだもんな。俺より早く終われば先に行くよな。

 

 覇気のない俺を表情に、木ノ本先生が苦笑する。そして頑張れと肩を叩いてきた。

「お前、あいつ苦手だもんなぁ。でも、諦めて頑張れ」

「……」

 俺の無言の圧に手を肩に乗せたまま、木ノ本先生の視線が横に反れる。


 ……正直、その手も振り落し……がふげふ。


 溜息をついて、木ノ本先生の前を辞した。そのまま廊下に出ると、後ろ手でドアを閉める。

 その軽くも鋭利な音に背を押されるように、一歩足を踏み出した。



「さて、行くか」


 はぁ。


 溜息ばかりで不甲斐ない。

 物凄く、足が進まない。

 

 でもきっと学園全体を治めるためには、仕方がない。

 あの後、木ノ本先生と話し合ってこうすることに決めたんだから。




 最近自分の思考が「風紀委員長」から離れて来てしまったなと反省しつつ、物凄く嫌で嫌でたまらないドアを開けた。

「委員長、お疲れ様です」

 そこには、土井と田所の姿。既に放課後の見回りを終えていた土井が、田所を風紀委員室に招き入れたのだろう。田所は手元にあったペットボトルを両手の内でコロコロさせながら、おつかれーと気の抜けた笑みを浮かべた。

 俺はそんな二人に挨拶を返しながら、ぐるりと部屋の中を見渡す。

 うん、まだ来てない。


 知らず緊張していたみたいで、ほっと肩から力を抜いた。

 いつまでもドア付近で立ち止まったまま動き出さない俺を、二人が不思議そうに見ている。いかんいかん、これじゃ俺が不審者だ。とりあえず、椅子に座ろう。


 そう思って、足を踏み出した瞬間――


「俺の事、探してたんでしょー?」

「……っ」


 後ろから肩越しに腕を回されて、反射的に右手を掴むとそのまま背負い投げの要領で前へと放り投げる。向こうが受け身を取ることを見越してはいたが、ちゃんと怪我しないように勢いを殺しつつ床に放り投げた。

「いってーな、蒼ちゃん!」

「蒼ちゃん言うな、気持ち悪い」

 放り投げられたその勢いのまま楽しそうにごろごろと床を転がった奴は、上体を起こして胡坐をかくと頭をさすりながら声をあげる。俺はそれに一瞥くれると、ドアを閉めていつもの席に腰を下ろした。


 いざ顔を合わせてしまえば、冷静になれるのは不思議だな。


「ホント蒼ちゃんてば、怖いよねー」

「お前が崩れすぎてんだろうが。あと、先輩にはちゃんと敬語を使え」


 へらりと笑った奴は、痛みなんて何もなかったかのように立ち上がると、俺の横に立つ。

「蒼ちゃんがデレてくれたら!」

「一生ないな」

 唾棄する勢いで否定すれば、奴よりも呆気にとられている二人の姿に気が付いた。

「えーっと、二年の桑島くんだよね?」

 田所が困惑した声音で、恐る恐る問いかける。隣で土井も首を縦に振りながら、けれど信じられないものを見るかのように目を真ん丸に見開いていた。


 だろうな、だろうな。

 特に土井、お前の気持ちは痛いほどわかる。


 俺の隣に立つ奴はにんまりと笑みを浮かべると、腰に手を当ててふんぞり返った。


「その通り! 風紀委員二年の桑島秀人ですけど何か……って、いってーっ!!」

「何かじゃない」


 思わず裏拳でツッコミしてしまった俺を許してくれ。


 



 

 桑島 秀人。風紀委員所属二年。

 落ち着いた性格で仕事も早く、スカウト組の多い風紀の中で持ち上がり組の生徒。

 次期委員長なのではないかと噂されている。






「桑島……先輩ですか……? ホントに?」

 強制的に椅子に座らせた桑島を、まじまじと土井が伺っている。それもそうだろう。通常の桑島は、こんな奴じゃない。とっても冷静で落ち着いた、硬派な男なのだ。

「そうだって言ってんじゃん。土井ちゃん、素も真面目なんだねぇ」

「お前が違いすぎるんだ、ちゃんと言葉遣いを改めろ」

「蒼ちゃんも堅物だしねぇ。はいはい、直せばいいんでしょう。風紀委員長」

 そろそろ俺の眉間のしわの深さに気付いたのか、桑島がぴっ……と背筋を伸ばした。

 それはいつもの桑島秀人の佇まいで。そのギャップに土井が再び目をまん丸くさせたけれど、まぁこれで本人だという事は納得できただろう。


「土井。風紀委員長が指名制だっていうのは、以前話したな? そして決まったら、一年時は委員長と一緒に職務を覚えていくっていうのも。覚えているか?」

 まだ桑島の衝撃が抜け切れていないのか、ぎくしゃくとした動きで土井が頷く。

「もちろんです、委員長」

「で、二年時は一年時に学んだことなどを念頭に、一人で行動する。ちなみに、誰が指名されたかは本人以外、三年で委員長に就任するまで秘密にされる」

 土井の場合は初めての女性委員長という事もあって、「もしかしてそうなのかも?」っていう雰囲気だけは流してたりするんだけどね。


 まぁ、食堂で話してたりもしてるから、知ってる人は知ってるって感じかな。

 噂にならないのは、女性風紀委員長っていうのが「冗談でしょ?」で済まされてしまう位ありえない事だからだ。


「で。うちの風紀委員は、富裕層と一般生徒の混ざるこの学園の特色が影響して、ある程度誰からも「風紀委員長」として認められるような立ち居振る舞いを求められる。故に俺も、ある程度性格や言葉遣いを作ってる」

「え、そうなんですか?」

「まぁな。でも……、」

 素もほとんどこんな感じだけど、と口を開こうとした俺を遮るように桑島が声を上げた。

「蒼さんは、普段もあまり変わりませんよ。田所先輩の前でヘタレる時だけ、蒼ちゃんになりますけど」

「俺の行動を監視してるんじゃない。桑島は、見ての通りだ。素と今と、まったく違うからよく覚えといて。来年は、噂通りこいつが風紀委員長だから」


「土井ちゃん、頑張ろうね!」


 ばちこんっとウィンクされた土井は、数秒呆けてました。


 ……だろうな、頑張れ来年の土井。

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