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ヒロイン登場

キラキラネームに対する描写があります。お気を悪くされる方がおられるかもしれません。大変申し訳ございません。

どうぞブラウザバックをお願いいたします。

2話目を飛ばしてしまうと話が繋がらなくなってしまいますが、次回3話目の前書きに簡単なあらすじを載せさせて頂きますので、そちらをお読みいただければと思います。

 その女生徒は、名前を来栖 姫冠といった。


「くるす……ひめ……かんむ、り…?」

「やだ! ティアラって読むの! 君って面白いね!」

「……てぃあら……」


 名前を読めないのは非常に失礼ではあるけれど、仕方がないと思ってほしい。可愛いと言えるのか男の俺ではわからないが、両親は何か意味があってつけたのだろう。

「姫って呼んでくれていいよ!」

 いや、漢字を使っていても読み方に「ひめ」のひの字も入っていないだろう。俺は非常に面倒な気配を感じて、さっさと話を逸らした。


「……来栖。それで、なぜ食パンを食べながら走ってきたんだ」

 口の中の水分を奪う食パンを、飲み物なしにしかも口にくわえて走るってある意味高等技術すぎるだろう。


 後輩の一年生は少し苦笑いしながら、話に加わることなく通用門を閉める。話している間に五分を過ぎたらしい。後ろから担当教師が近づいてくる足音がする。

「姫だってば! あのね、寝坊して遅刻しちゃったから、朝ごはん食べてくる時間がなかったの!」

「ならば、登校後教室で摂ればいいだろう。危ないし、何よりも見目が悪い」

 どこの高校に、食パン齧りながら登校してくる女子生徒がいるというのだ。そんなものは漫画の中だけで……、いや今時漫画でも見ないか。

 少し溜息交じりにそう伝えると、なぜか来栖の目が輝いた。


「やだ、私の事心配してくれるの? ちょ、イベント発動? 風紀委員長だし……。やだもー、無自覚ヒロインとか私困っちゃうー」


 最後の方は小声過ぎて聞き取れなかったけれど、まぁ眉を顰めることで返答は避けた。突っ込んではいけないオーラがぷんぷんとする……、本能もしくは野生の勘だきっとこれは間違っていない。


「おーい、風紀委員。お疲れさま、後は俺が引き継ぐ」

「木ノ本先生。よろしくお願いします」

 そう応えて後輩を振り向けば、なぜか目の前に来栖が立ちはだかっていた。

「もういっちゃうの!? 蒼くん!」


「……は?」


 蒼、くん?

 なぜ、俺は下の名前で呼ばれるんだ?

 俺も驚いたが、後輩一年生も驚いたんだろう。目を真ん丸にして、来栖を見ている。


「せっかくだから、もう少しお話したいなっ」

「……」


 なんだろう、この未確認生物を目の前にした感じ。つちのことかUFOとか、その手のものに会ったらこんな気分になるのだろうか……? いや、違う気がする。そもそも初めて会うだろう女生徒なのに、なぜもう名前で呼ばれるんだ?

「清宮、どうした? ぽかんとして」

 お前のそんな表情見られるの珍しいなぁ……と、ぽんと俺の肩を叩いた担当教師は次の瞬間、俺と同じ表情を浮かべることになる。

「やだ! 樹先生に会えるなんて!」

 しん……と、再び静まり返った。

 同じ生徒同士ならあり得るだろう、名前での呼び合い。けれど、さすがに対教師はありえない。


「は?」


 案の定、ぽかんと口を開けている担当教師の姿。彼は、木ノ本 樹。ここ数年、風紀委員を担当している教師だ。あたりに流れる「何だこの子」な雰囲気を、当の本人が気づかないまま視線の向う対象が移り変わる。


「あら、あなたは確か……土井さん……よね」

「は、……はい」

 瞬きを何度か繰り返した後輩一年生……土井 砂羽は、すぐに凛とした声で返事をした。

 っていうか、彼女は名字呼びなのか? いやその前に、なぜ俺達の名前を知ってるんだ?


「うふふ、お疲れさま。もう行った方がいいんじゃないかしら。一年校舎は遠いし遅れると思うわ」

「は、え? あ、あの……でもリストを職員室に持っていかないといけないものですから……」


 戸惑いながらも答える土井の声は、最後に行くにつれて小さく聞こえなくなっていった。それは偏に、来栖が視線を強くしたからだ。

「いいわよ、職員室から私の教室は近いから持って行ってあげる」

 そう言って、右手を土井に向けて差し出す。けれど、それを拒むように土井はリストの挟まっているバインダーを胸に抱いた。

「私の仕事ですので……、お気遣いありがとうございます」


 風紀委員の職務は、秘匿すべきことが多いのは先ほど言った通りだ。故に、土井の対応は正しいのだが……。


「せっかく親切で言ってるのに、嫌な感じ。ね、蒼くんもそう思うでしょ?」

「は?」

 いきなり話を振られて、上手く返答ができなかった。それを都合良い様にとったのか、勝ち誇ったような表情で来栖は土井に視線を向ける。

「だったら早く職員室に行けばいいと思うの。間に合わないわよ、授業」

いやいや、お前の対応で遅れてるんだけどあれ?

「……はぁ。えっと……、はい」

 理不尽に剣呑とした雰囲気をぶつけられて戸惑いながらも、土井はちゃんと返事をして俺を見上げた。俺の担当リストも、一緒に持っていくと言いたいのだろう。

 その仕草にやっと我に返った。


「……来栖、その言い方は自分の品位を貶める。気を付けるべきだ」


 冷静に、けれどいつもより語気を強めにそう言って、土井の背中を軽く押す。さっさと立ち去って、木ノ本先生に任せよう。

 そう思って踵を返し歩き出した俺の背後で、なぜか甲高い声が上がった。

「蒼くんってば! 私の為に窘めてくれるとか、本当に優しいんだから!」


……私の為……?


 思わず足を止めようとしたが、得体のしれない雰囲気にそれはやめた。ちょっと、彼女から離れたい。


「……、委員長……」

 その代わり、土井の方が気になったらしい。ちらちらと後ろを気にする土井の背中を押したまま、俺は足を止めずに少し屈んで耳元に口を寄せた。

「振り向くな……。なんか、言っちゃいけないとは思うんだが……怖い。このまま先生に任せよう」

先生に放り投げるのが吉だ。

「はっ……。……はい」

最初大きな声を出してしまった土井は、慌てて口を押えるとこくりと小さく頷いた。その姿はまるで小動物の様で可愛い。思わず頭をかいぐりしたくなるくらいだ、俺さ小動物好きなんだよやらないけどさすがに。


「清宮、お前俺を見捨てる気か……」

 木ノ本先生の横を通り過ぎる時に、何かを察したらしく縋るような声が聞こえてきたけれど目礼で流した。

 俺は、俺が可愛い。この場合。



「樹先生、何かお手伝いしましょうか? 二人とも行っちゃいましたし!」


 そんな声が、後ろから聞こえてくる。

 何を言ってるんだろう、風紀でもない来栖が手伝えることはない。その前に、木ノ本先生が今やるべきなのは来栖の取締りであって、お前は自分の取締りを自分で手伝うのか意味わからん。


 ……っていうか、来栖はどの委員会に入ってるんだ?

 入学当初から登校時チェックを請け負っているけれど、あのような女生徒は見た記憶がないんだが。でも俺達の名前を知ってるという事は、やはりうちの学校の生徒なんだとは思うけれど。

 色々考えを巡らせながらも、昇降口に辿りついて土井と共に校舎へと入る階段を上がる。



「はぁ。……生徒手帳、没収。さっさと出しなさい」



 木ノ本先生の疲れた声が、後ろで力なく響いてすぐにかき消された。

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