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姫の戦略time-3

な、なんとか間に合った;; 

ちょっとというか、いつもより長くなっています。

お時間のある時に、久しぶりの姫の恐ろしい(笑)脳内お花畑を覗いてやってください(▼∀▼)ニヤリッ

「え? そんなことがあったの?! やだ、なにそれ」

 オレンジに沈む誰もいない放課後の教室に、きん……っと甲高い声が響く。

「あー、ごめんなさいね。まさか反撃を喰らうとは思わなくて」

 目の前で椅子に座ったまま片手をあげて軽く謝罪をするクラスメイトの話を、私は苛立たしい気持ちで聞いていた。



+++++++++++++++++



 昼休み、上手い具合に蒼くんの外堀を埋め立ててやったわ―ってホクホクしながら帰ってきたら、クラスメイトで仲のいいグループの男女三人が、「昨日の話って、転びそうになった姫を風紀委員長が受け止めただけって本当?」とかいきなり聞いてきて、さすがの私も一瞬焦ったわ。

 三人の後ろに立っている皆川の表情で何かあった事を察して、表面取り繕えた私って生まれながらの大女優だと思う。うん素敵。

 

 とりあえず瞬時に状況を理解して、口元を手で押さえて俯く。すると困惑から心配そうな声へとうって変わり、気遣う様に背中に女子生徒の手が伸びた。



「姫? 大丈夫?」


「……」



 これだけで私への心配の方が「真実の暴露」より勝るんだから、ホント困っちゃうくらい愛されてるわ。さすが私。


 宥める様に背中をさすってくれる女子生徒に、「ありがとう」と呟く。

そうして少しだけ出来た考える時間を駆使して、どう話を持っていけば上手く治められるかを考えて……心を落ち着かせるように胸元を手で押さえると気持ち掠れた声で話し始めた。

「えっと……蒼くんと二人で(・・・)会ってる時に、慌てて躓いちゃってね。それをしっかり(・・・・)受け止めてくれたの。その場面を知らない子に見られてしまって私説明してくるねって蒼くんに言ったんだけど、余計なことするな(・・・・・・・・)って言われてそのままにしちゃって……」

「風紀委員長がそう言ったの?」

 伺う様に問いかけてくる男子生徒の言葉に、小さく頷く。

「きっとね、私の事気遣ってくれたんだと思う、蒼くん。私、ほら……馬鹿な事ばかりしてるから。だからこんな噂になっちゃってびっくりしたけど、私何も言わなかったんだ。でも本当は―」 



 ふっ……と、声を失くす。



 目の前の三人だけじゃなく、クラス中の注目を集めているのがわかる。

 少しの沈黙の後、私はゆっくりと言葉を零した。



「本当は、ちゃんと私が言わなきゃいけなかったんだね。……私って馬鹿だよね。蒼くんに迷惑かけちゃった」



「そんなことないよ!」

 私の言葉が終わるか終らないかのその時、もう一人の女子生徒が声を上げた。

「だって、風紀委員長の気遣いを素直に受け取っただけでしょう? 悪い事なんてしてないよ」

「そうだよ。姫が噂をばら撒いたわけじゃないんだから、気にすることないって」

 次々に慰めてくれる三人の顔を、順々に見て悲しそう(に、見える)顔で目を細める。すると、つ……と目尻から涙が零れた。(もちろん、準備は万端です)


「皆、ありがとう」


 ふわり微笑むと、皆も切なそうに笑う。そして「大丈夫」と慰めてくれる。


 なんて良い人達だろう。とても大切な私のお友達。



「姫がそんな性格ってこと位、皆分かってるから。なんか、余計な事しちゃってごめんね?」


 そこでずっと黙っていた皆川が、申し訳なさそうに謝ってくるのを慌てて頭を横に振って応えた。

「ううん。皆、私の為にしてくれたんでしょ? ありがとう!」

 渾身の笑顔を皆に向ければ、「私もごめんね」「俺も……」と口々に言いながら謝ってくれる素敵で優しいクラスメイトのお友達。「そんなことないよ」と私が言えばいうほど、比例するように「自分達が余計な事をした」という事実が意識に……そしてこの教室にいる皆の意識に膨れ上がっていく。


 私は何も言っていない、あなたたちの所為だとは。

 蒼くんの事も、嘘は言っていない。

 ただ……「言うべきこと」と「言わなくてもいいこと」を、選んで言葉にしているだけ。そこから相手がどう取るかを想像して。そう、それはまるで……。



 

 ……まるで、乙女ゲームの選択肢。

 



 サポートしてくれる皆川がいてくれるからこそできる、ある意味集団心理を逆手に取った策。

 それを考えて遂行できる皆川は、本当に凄い。ていうか怖い。ま、皆川の一言に反応してちゃんと期待通りの言葉と行動を実行できる、私がいてこそのその力だけれど。


 

 グループの仲の良い人達に向けて話せば、それは教室にいる人達へと伝播する。なぜなら私がクラスで属しているグループは、クラスの中心に位置する人達ばかりだから。しかも性格が良くて面倒見がよくて、目立つ人達なのに周囲に嫌われていない。それどころか憧れていたり、仲良くなりたいと思っている人達が多い。

 私がぼっちにならないで済んだのはグループの皆のおかげ。



 そして……



 ――私が目的を達成する為に、一番大切で重要な人達。





 ここはあの日あの男からもたらされた、現実に自ら作る乙女ゲームの世界。

 決まった筋道は存在してなくて、選択肢もルートも自分で考えて、自分で決めたエンドに向けて進んでいくっていう……セルフでリアルな乙女ゲーム。

 ヒロインな私が存在するに足る、素敵な世界。あのモブだらけの学校じゃ、私の存在価値に気付く人がいなかっただけ。


 現に見てみなさいよ。

 この世界(がっこう)の人達は、こんなにも私に優しい。私を愛してくれる。 


 

 だから私は……




 ふっと脳裏を過ぎる、あの男との約束。


「……」


 それに挑むように、視線に力を込めた。






 ……私は、この世界(ゲーム)を攻略する。





+++++++++++++++++++



 昼休みを何とか乗り切って、放課後、やっと皆川から事情を聞けたのだけれど。



「せっかく私が蒼くんを上手く嵌めてきたっていうのに、びっくりしちゃった」


 思い通りに行かない風紀委員長をやっと自分の手玉に取る算段が付いてきたというのに、よもや私のいないところで「真実」を暴露されているとは思わなかった。

 何とか乗り切ったけど、私に反感を持つ人達だっているわけで。直接文句を言ってこないだけで、我関せずの人達だって多い。

 今まで私や噂の事を「どうでもいい」や「嘘なんじゃないの?」と思ってた人達は、さっさと話すことをやめてしまうだろうし否定的な意見が出てくるだろう。

 

 そうして噂はきっと下火になってしまう気がする。特に、言ったのがまさくんだから。


 生徒会副会長の田所くんは、とても人気がある。書記くんとはちがった可愛らしさと、少し大人っぽく感じる言動とのギャップに憧れる下級生も多いと聞く。

 もっと言えば私の手がついていない彼の言動は、きっと生徒の心に届く。


「田所は要注意人物よ。私、自分の考えを看破されるなんて思ってなかったもの。ただの高校生に」

 ただの高校生じゃなかったってことね、そう続けて皆川は溜息をついた。


「風紀委員長と風紀の担当教師には有能なブレーンがついてるってこと、これで分かったわ」


 ……可愛らしい姿形に反して頭脳は冷静沈着なまさくん、それが分かっただけでも今回は収穫有とした方がよさそう。ヘタに蒼くんとの噂を継続させるのは危険だよね。まぁ、クラスメイト達から「姫に悪気はないし、二人で会っていたのは事実」っていうのだけはちゃんと広まるだろうから、ある意味ラッキーかな。



 私は皆川に視線を合わせる様にしゃがみこんで、机に両腕を置いて顎をついた。にっこり笑って口を開く。

「今までずっとサポートしてくれてきたんだもん、ささいなミスだよっ。気にしないで?」

「……」

 皆川は私と視線を合わせたまま、無言で苦笑を落とした。


 

 これは、私の本音。

 


 まぁ私が可愛くて素敵だっていうのもあるんだけど、一番は皆川……今、目の前に座って謝罪している女子生徒の事……のおかげだもん。ここまでできたのって。

 彼女がクラスで中心のグループに属してて、すんなりそこに入れたから今の私がある。どんなに私が可愛くて素敵でほっとけない女の子だとしても、突然人気の高い男子生徒と仲良くなったら女子からの嫉妬が怖いじゃない? まぁ、ビジネス絡みで男子生徒からの視線も怖そうだけれど。

 その不安を拭ってくれたのが、このグループの皆だ。そしてそう仕向けてくれたのが、皆川。

 私が計算ずくで動いているように見えない様、「無邪気」「天然」「自分の気持ちに素直」の三つのキーワードを駆使して皆に「姫を守ってあげなきゃ」っていう意識を植え付けてくれた。



 可愛くて素敵でほっとけない美少女の私に、つくべきサポーターよね。むしろ私だからこそ、彼女みたいな有能な人がそばに来てくれるのよ。

 

 そして可愛くて素敵でほっとけない美少女で懐の広い私は、にっこり笑って部下のミスを許してあげるの。



「いつもありがとう、皆川さん。……これからもよろしくねっ?」



 皆川……あなたが作り上げた「無邪気」で「天然」で「素直」な「来栖 姫冠(ヒロイン)」の笑顔を、私は彼女に向けた。

姫の戦略を皆川がサポートする体制は万全。

けれど田所の存在が、二人の作った世界にどう楔を打ち込むか。

……まずい、主人公が目立たないщ(゜ロ゜щ)アアア

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