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ドツボに嵌る

今日、ちょっと長いです><

「圭くん!」



 俺と金森書記の間に、高く……そして少し甘さを伴った声が入り込んだ。

 ふわりと金森の腕に自らの腕を巻きつけ、白くなるまで握りしめられた拳を優しく両手で包む。


「圭くん、落ち着こう?」

 穏やかに微笑むその女生徒は、予想を違えることなく来栖 姫冠だった。そう、来栖、だ。


「……?」

 来栖なのは違いない。けれど。

「圭くん、私の声……聞こえる?」


 ……けれど、その姿や声音は俺の知る物よりも少し大人びていて思わず目を瞠る。


 驚いたままはくはくと口を開け閉めを繰り返していた金森書記は、一つひくっと喉を鳴らすと掠れた声で来栖の名を呟いた。

「ひっ……、姫」

「圭くん、大丈夫だよ。ね、力を抜いてゆっくり息を吸おう」

 金森書記を宥める様に目を細めながら、来栖は手本を見せる様にゆっくりと深呼吸を繰り返した。



 最初は突然現れた来栖に驚いて狼狽えていた金森書記だったが、来栖の笑顔と穏やかな声に気持ちが落ち着いてきたのかゆっくりと息を吸うと目を瞑ってそれを吐き出した。そうしてさっきとは違う意味で顔を赤くしながら、どこか悔しそうに唇をかみしめた。

「姫、ごめんね。僕……」

「圭くん、笑って」

 後悔の滲んだ金森書記の声を、来栖の優しげな言葉が遮る。


 金森書記は、来栖の機嫌を伺う様にちらりと視線を上げたその瞬間、湯沸かし器かとツッコミを入れたくなるくらい頬を真っ赤に変えた。

 その視線の先は、当たり前だけれど来栖で。

「私は、圭くんの笑顔が見たいな」

「姫……」


 来栖の言葉に感情を揺さぶられたのか、眩しそうに目を細めて金森書記が笑った。

 きっとそれは今まで周りに見せていたものではない、本心からの笑みなのだろう。なぜか周囲から溜息が聞こえたから。

 いつの間にかギャラリーも増え、当事者が金森書記だったこともあってファンの女生徒が詰めかけて来ていたらしい。

 まぁそうだよな。ここ、食堂近いし。騒ぎを聞きつけられるのは早いだろう。


「姫、ありがとう」

 本当に幸せそうな表情で来栖にお礼を伝える金森書記の言葉を、彼女は穏やかに受け止める。

「圭くんが圭くんらしくしてる事が、私にとって幸せよ」


 会話がむず痒すぎて耳を塞ぎたい。来栖の行動に今までとは違うものを感じ取り、少し思うところはあるけれど、やはり自分にとってはやはり関わりたくないと感じる。

 けれど金森書記にとっては、嬉しい言葉だったらしい。


 感動したように涙目になり始めた金森書記にドン引きながら、さてと……と息をついた。

 とりあえずなんだかよく分からないけれど治まったみたいだから、俺、もう行っていいよな。ここにいちゃいけないって、なんか本能が告げてるし。



 既に二人の世界に入ってる来栖と金森書記を置いて歩き出そうとした途端、ぐいっ……と肩を掴まれた。


「金森を泣かせて、一言くらい何もないのか」

 そう低い声を出して俺を止めたのは、小暮議長。いつの間にか俺の後ろに回り込んでいたらしく、その横には大海会長も突っ立っていた。

 

 そうだよな。食堂近いしってさっき思ったばかりだもんな。来栖が来たってことは、当たり前のようにこの二人も来るに決まってるよな。


 なんで俺の楽しい味方達は来ないんだよ。


 訳の分からない切なさを感じながらも、掴まれた肩から小暮議長の手を外した。そう、振りはらうのではなく、手首を掴んで丁寧に引きはがしてさし上げた。

「なっ……」

 手加減なしで掴んでいたのだろう小暮議長は、そんな自分の手をいとも簡単に外されてちょっぴりご立腹らしい。眉間にこれでもかと皺を刻み、歯を食いしばる。


 ってなんだか俺の性格悪くなってきてる気がするけど、読み手の皆さん嫌わないでね。やさぐれないとやっていけない。


 外された手で拳を握りしめながら、小暮議長は口を開いた。


「そうやって、俺達の分からないところで姫を手に入れようっていう魂胆か。本当に汚いな」

「どうしてそうなるのか、俺に分かるように説明してくれないか。悪いが来栖に対して、一欠けらの興味もないんだ」

「……なぜ認めない?」

 それまで黙っていた大海会長が、長い前髪から覗く視線を強くさせながら憎らしげに呟いた。

「認めるも何も、だから……」

「だったら……興味がないと言いながら、昨日、特別教室棟で姫を抱きしめていたのはなぜだ」


 げ、なにその表現!!! 抱きしめてたんじゃなくて、躓いたところを助けたら来栖が俺の腕に抱き着いてきたって方が真実なんだけど!

 廊下のそこかしこで悲鳴が上がってるよ、、順調に嘘な噂が広まってるよ勘弁してくれ!


 ……駄目だ、焦っちゃいけない。分かってる。焦りは悪手だ。落ち着け俺。


 反射的に言い返そうとした言葉を、何とか口の中で噛み砕く。そして一つ瞬きをして気持ちを落ち着かせると……、

 

「澪くん! そんな恥ずかしい事、こんな皆の前で言わないで!」





 デジャヴ!!!!!





大海会長の言葉に反論しようとした俺の言葉を、来栖の甲高い声が遮る。しかも、否定の言葉を入れないその曖昧な会話とか、昨日の女生徒の時と同じじゃないか! 勘弁してくれ!

「……俺の話を聞いてくれないだろうか、大海会長」


 ここで頭に血を上らせたまま会話をしてはいけない。瞬きごときでは落ち着けなくなってきた俺は、周囲に気付かれないように薄く息を吐き出して、気持ちを何とか静めた。

 その間も、きゃーきゃー来栖が頬を押さえながらさわいでるけれど、完全スルーだ。

 今は、会長たちとあわよくばギャラリーに、噂が誤解だという事を分かってもらわないと。


 小暮議長は聞く耳なんぞあるか! とか言い捨てたけれど、さすが腐っても生徒会長。大海会長はイラつきの押さえられない表情はそのまま、それでもその先を促すように視線を向けてきた。


 やっと、話しができる。そう思ったのに。


「蒼くんまで! 何を言うつもりなの? 私、恥ずかしいよ!」

「俺との間に、恥ずかしい事なんて何一つないだろう!!」


 あまりの来栖の言動に、思わず俺の脊髄反射が働いてしまった。 

 反射的に飛び出た言葉は、どちらにも取れる意味で。当たり前だけれど、疑ってかかってきている三馬鹿には悪い方の意味として受け止められた。


「……風紀委員長」

「いや、ちょっと待て」

「見苦しいぞ、清宮風紀委員長!」

 続けようとした言葉は、大海会長の鋭い声に遮られた。

「姫の事が好きなら、そう言えばいいだろう! 気持ちを認めることなく姫に手を出すとは、それでも男か!」

「出してないと言ってるだろう!」

 冷静にならなければならないと頭では分かっているのに、どうにもうまくいかない状況に焦りが出てくる。このままでは不名誉なレッテルを張られてしまう……! 何よりも、来栖と関係があるとか思われるのだけは回避しなければ!

 心底嫌だ!


 そう意気込んだところだった。



「やめて二人ともっ!」



 悲痛な声が響いた。


「お願い、喧嘩なんてしないで」


 それはさっきとは打って変わって、悲しそうに顔を歪めている来栖の叫びで。横から来栖を守るように寄り添う小暮議長も金森書記も、憎らしげにこちらを見ている。


「ごめんね蒼くん、澪くん。私の所為で喧嘩なんてさせちゃって」

「姫……」

 大海会長が慌てたように来栖の側に寄って、頭を撫でる。

「驚かせてしまったか? ごめんな」

「ううん、大丈夫」

 まだ震えているのだろう両手を握りしめながら、来栖は悲しそうに笑みを作った。

「私、皆と仲良く過ごしたいの。誰か一人でも悲しい顔してるの、凄く辛い」

 だから……。

「お願い。二人に仲良くしてほしい……なんて……私の我儘かな」


 ほろりと、来栖の目尻から涙がこぼれる。大海は痛ましげに彼女を見ると、親指で涙を拭った。


「そんなことはない。姫が優しいのは分かっている。さ、食堂に行こう。まだ昼を摂ってないのだから」

 悲しそうに目を伏せたままの来栖を、大海会長が抱き込むように背中に手をまわして促す。来栖はちらりと俺の方に視線を一度向けて切なげに微笑むと、三人と共に食堂へと消えて行った。




「……」




 残されたのは、ギャラリーと俺。

 物凄く不名誉極まりない状況にされた、俺。



 ここで事実をいっても、やっぱり婉曲して伝えられる? 物凄く否定したいんだけど駄目か? それどころか、姫に手を出しといて認めない最低男認定確実?


 最悪な今後を脳裏に思い浮かべて絶望に浸り始めた俺を救い上げたのは、どうにも呑気な一言だった。



「はいはーい、かーいさーん」



 ギャラリーの向こうに現れたのは、風紀委員担当の木ノ本 樹先生。

 あと、ついでに俺の楽しい味方達。



 ――おせぇよ。

更新が遅くなり、申し訳ございません。

さてさて日帰り手術ですが、今回だけで終われませんでしたー。

ので、もう一度違う薬を使って治療を開始することになりました。

くっそ、姫の呪いかwΣ( ̄Д ̄;)


その上、年末年始がやってくるのですよね……щ(゜ロ゜щ)


なるべく隔週更新で行きたいとは思いますが、出来なかったら申し訳ございません。

よろしくお願い致します。


篠宮

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