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書記の嫉妬

「清宮風紀委員長は、風紀委員なのに卑怯だよっ!」

「……?」

 風紀委員「なのに」ってなんだ?


 突然かけられた声に、食堂に向かっていた俺はその足を止めた。






 朝、来栖が出て行った後に騒然となっていた教室を治めたのは、担任の教師だった。丁度近くまで来ていたらしく、叫び声が上がったのを聞きつけて慌てて教室に駆け込んできたのだ。その勢いに驚いて教室内が一瞬にして静まり返った為、逆に驚いてたけど。

 その時まだ俺に腕を掴まれたままだった田所は慌てて自分のクラスに戻り、一体何なんだという担任の困惑顔をクラスメイト一同見事にスルーして何とか事なきを得た。


 誰が事情を話したいものか。


 俺が今ここで違うだの勘違いだの火消しに躍起になったって、それこそが嘘だと言われてしうことがもう分かったんだから。心の底から不本意だけれど直接聞かれた際には訂正し、それ以外は噂が下火になるまで我慢するしかない。




 って思ってたんだけどさ。




 クラスのひそひそ話を耳に極力入れないようにしてやっと食堂で田所に愚痴るぞ、土井に愚痴るぞと廊下を歩いていたら変な奴に捕まった。

 ……足は止めてみたものの、特に返事したわけじゃないから無視して歩っていっちゃってもいいかな。

 思わずそんな事を考えては見たけれど、この場を流してもどうせ目的の場所は一緒だから意味ないか……と体を斜め後ろに向けた。


「……何か、用か? 金森書記」



 果たしてそこには、来栖のお取り巻きの一人であらせられる生徒会書記、金森 圭(かなもり けい )が不機嫌そうな表情を隠すことなく俺を睨んでいた。





金森書記を一言で言い表すなら、ふわふわお坊ちゃん、だろう。


 見るからに育ちのよさそうなおっとりした表情におっとりした口調、一緒にいるだけでほんわりしてきそうな優しい性格と風貌。

 主に上級生に人気のある彼にも、当たり前だけれど負の面があると気が付いたのは後から思えばこの時だと思う。この時の俺は驚くだけで、あまり重要視していなかったけれど。


 少しも動じていない俺の声音にイラッとしたのか、金森書記はつかつかと俺の目のん前まで来てぎゅっと両手の拳を握りしめた。

「……」

 金森書記がまさかの暴力? と思いつつ怪我をさせない様に身構えたようとした俺に浴びせられたのは、拳ではなく言葉だった。

「あんなに興味ないって顔してたくせに、なんでいまさら姫の事取ろうとするの!?」

「今も全く興味ない」

 思わず……うん、反射的に思わず返してしまったのは仕方がないだろう。朝から勘違いに巻き込まれて、向こうから聞かれたら訂正しようと思ってるのに、遠慮してるのか誰も聞いてくれないから思わず心が躍ってしまった。

 だって自分から「違う」って言っても、誰も信じてくれなかったしさ。

 だから噛みつかれようが目の前で泣かれようが、聞かれて応えられるこのタイミングはとてもとても待ち望んでいたも……の? あれ? 泣く?


 ……泣く??!


「は?」

「ぐすっ、ひぃっく……」

「はぁ……?」

 思わず、ぱっかりと口が開いてしまう。

 金森書記は、間違えようもないくらいぼろぼろ涙を流して大泣きしてた。


 泣いてるよ……!!! ちょ、なんで。どこに泣く要素あった!? むしろ、俺が興味ないって分かって喜ぶところなんじゃないの!?


 思わず何度も瞬きを繰り返してしまったが、目の前の男の状態は変わらない。顔を真っ赤にしてぼろぼろと涙をこぼしながら、握りしめた両手を震わせてる。


 俺のせいじゃない……いや金森書記にとっては俺の所為なんだろう……けれど、目の前で子供のように泣かれるとちょっと心が痛むんだけど……。

「書記……? 何も泣かなくても……」

「風紀委員長のせいじゃないか! 僕から姫を獲らないで!」

「会長と議長はいいの?」

 あぁ、俺の脊髄反射的確すぎてどうしよう。余計泣いちゃった。


 ぶわぁぁぁっと涙の量が倍増した金森書記は、その涙をぬぐう事もせずに地団駄を踏むように足を一つ鳴らす。


「どうせ僕じゃ会長にも議長にも敵わないよ! でも……だからって、だからって……なんで今度は風紀委員なのっ!?」

「いや、だからね書記。俺は全くもって興味ないから。俺の事は安心していていいから、逆に放っておいてくれて構わない」

「そんな事言って、僕を騙すつもりなんだよね!? 風紀委員なのに卑怯だよ!」

「……」


 ――はぁ……、最初に戻ったよ。


 思わず、口が閉じた。そうか、これが俗にいう閉口という奴なんだな。

 妙に冷静にそんなことを考えながら、小さく息を吐き出した。


 相手が金森書記だからだろうか。これが会長や議長だったら、こうはいかないだろう。ぎゃんぎゃんと相手が喚くからこそ、逆にこちらが冷静になれる。


「……」

 それにしても……と、まだ何か言っている金森書記を見た。


 金森書記……、こんなに負の感情を爆発させる奴だったっけ。

 内容とかそういうのは置いておいて、金森書記が一人で声を荒げていること自体珍しい。昨日の土井の件でも確かに文句は言っていたけれど、まぁ良くも悪くも向こうには味方というか徒党を組むべきお仲間がいた。

 それでさえ、本当に珍しいのだ。

 こう、年上のおねーさんの気持ちを擽るようなちょっとふて腐れたようなポーズをとっていたのは見かけたことがあるが、こんなに素直に感情を爆発させるなんて。


「委員長聞いてるの!?」

「聞いてるよ」

 聞いてないよ


 心の中で正反対の正解を呟きながら、ふぅむ……と両腕を前で組む。

 この状況を打破するのには、一体どうしたらいいのだろうか。先ほどまで誰もいなかった廊下にも、ちらほらと学生の視線を感じるようになってきた。

 こちらを気にしてあまり姿は見えないようにしているようで俺に対してはありがたいんだけど、多分、目の前の金森書記は見られてても構わないんだろうな。


 当たり前だけれど、人前に出る事、そして見られることに慣れている彼にとって周囲は唯の風景の一部なんだと思う。

 個人として認識してはいても、特に人がいるからといって自分の行動を妨げられるものではない。

 まぁ、逆に言えばそうじゃないと富裕層なんてやっていけないってことかな。

 気にしなさ加減が凄いけどさ。


「やっぱり聞いてない!!!」

「聞いてる」

 うん、聞いてない。


 再び心中違う返答を呟いた途端、ぎゅっと金森書記が目を瞑って叫んだ。


「どうせ聞いてなかったんでしょ?! だから嫌なんだ、皆して僕の言葉なんて聞き流してさ! 姫だけなんだよ、姫だけが僕の事を分かってくれたのに!」


 ……ん?


少し引っかかる物言いに、思考を止めて意識を金森書記に向ける。


「皆みんな、僕本人なんか見てくれないんだ! 何しても僕じゃない、金森って名字とマスコットみたいな僕の上辺だけを望むんだ」

 顔を真っ赤にしながら両手を握りしめる金森書記は、キッと眦を上げて俺をにらんだ。

「それでも仕方がないって思ってたけど、姫に会ってそれは僕じゃないって気づいたんだ! 皆の為に無理をすることないんだよって、我慢してた僕を姫だけが分かってくれたのに!!!」



 だから僕には姫が必要なんだ!!



――そう、声にならない言葉が聞こえた。

再来週、軽いものではあるのですが日帰りの手術をしてまいります。(予定、状況によってはその翌週)

もう準備(投薬やら検査やら)は始まっていて、その日を指折り数え……たくねぇぇぇщ(゜ロ゜щ)

という事で、大変申し訳ないのですが状況によりましては次回19日の更新が、少しずれるかもしれません。

ご了承のほど、どうぞよろしくお願いいたしますm--m


篠宮

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