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姫の戦略time-1

遅くなりまして申し訳ございません。

姫の脳内初披露ターン2連続♪

  清宮風紀委員長……蒼くんが階段を駆け下りていく姿を見送って、にんまりと笑みを作った。難攻不落の風紀委員長が、こんな簡単な手に引っかかるなんて。

 灯台下暗し、意外と手をかけるよりもシンプルにいった方がいいのかも。

「うふふ」

 まぁ好感度は駄々下がりだろうけど、暫くは噂に踊ってもらおうっと。今まで私を邪険にした罰だよねっ。

 でもあの意味が解らないとでも言う様に私を見る視線は、ドキドキしちゃう。だってそんな彼が私に愛を囁やいちゃったりするんだよ? もう、たまんないよね! その日が早く来るように、頑張らなきゃ。



 蒼くんが女子生徒を追って降りて行った階段を通り過ぎ、廊下の突き当りにあるもう一つの階段から階下へと降りていく。

 この特別教室棟は風紀委員の最終見回りの時間帯には、ほぼ無人となるのは調べ済み。わざわざ残っている理由を風紀委員に説明するのも面倒だし、何よりも資料室や実験室など特別な授業の際にしか使わない場所だから放課後に来る事もないらしい。必要に迫られなければ。



――そう、必要に迫られなければね。



 一階まで降りて、しばらく廊下の様子を探る。顔を外に向けて蒼くんがどうしているのか確認したいのはやまやまだけど、ここで見つかっちゃったら意味がないからね。慣れたし必要とはいえ、本当にドキドキする。まぁ、わくわくもしちゃうわけだけどね。


 少しして運動靴のゴム底が廊下を擦る音が上に向かって行くのが、微かに聞こえた。さすがに廊下の反対側にいるから、はっきりとは聞こえないけれど。階段を最上階まで上がっていったから、多分蒼くんだ。

 本当に真面目だよね。女子生徒が見つかるまで探すとかせずに、見回りに戻るんだもの。私だったら探しに行っちゃうわー。だって、自分に関する噂が流れるかもなんだよ? 


 やっといてなんだけど、私なら耐えられないかな。てへっ。



 蒼くんが最上階にいるのを微かに聞こえる音で確認しながら、廊下をそろそろと歩いていく。ちょっと汚いけど、靴を脱いでしまえば音なんて響かない。そのままさっき蒼くんが上がっていった階段のすぐそばにある「地学資料室」のドアを音をたてないようにゆっくりと開けて滑り込んだ。


 電気の消してある資料室は、カーテン越しにオレンジの夕陽が差しこんで暖かい雰囲気を醸し出している。いや窓も閉め切っているから、雰囲気だけじゃなくちょっと暑い。



そこにある長机に寄りかかるように、先客が待っていた。

「委員長、まだいます?」

「うーん、もう少しで出ていくんじゃないかな。一階は最初に見回り終えてたから、こないとは思うけど」

「さっきまで鍵閉めてありましたから、まさかここに私がいるなんて思わないでしょうね」

「だよねー」

 軽い声でお互い確認をすると、カーテンの隙間から蒼くんが出ていくのを待った。十分も経たないうちに背の高い男子生徒が校舎から出ていく姿が見えてほっと息をつく。


「「姫」でも緊張するんですね。すっかり楽しんでいるものと思ったわ」

「緊張くらいするよ、あたりまえでしょ! んじゃ、この後見つからないようによろしくねっ」


 蒼くんの姿が職員室のある本部棟の方へ消えたのを確認して、ひらりと女子生徒に手を振る。彼女は楽しそうに手を振りかえしながら、にんまりと口端を上げた。

「種をまいたらさっさと帰るので、ご心配なく」

「うん、ありがとう!」

 がちゃり、後ろ手でドアを閉めた。







「とりあえず、あと三人。って言っても好感度マイナスに近いからなー、まさくんはなーんか難しそうな気がするんだよね。蒼くんは、今回のことで少しは変動するでしょ。そこからが楽しみだよね……!」


 ぶつぶつと呟きながら、来栖は教室へと鞄を取りに向かう。その途中、微かに女子生徒の叫び声……集団の驚愕の雄叫び……が耳に飛び込んできたけれど、口端を微かにあげるだけで興味を惹かれたような雰囲気はない。

 


 理由、を、知っているから。



 さっきの女子生徒が私と蒼くんの噂の種を、まき始めた合図。噂が広がれば、簡単に真実にとってかわっていく恐ろしい「学校」という名の閉塞空間。その恐ろしさは、私がよく知ってる。

 明日、蒼くんがどんな顔をするかちょっと楽しみ! 可哀そうな気もするけど、仕方ないよね。今まで私を邪険にしてきたんだから、ちょっと位はお仕置きしないと!



 再び、今度は遠くの方で女子特有の高い声が上がる。


「ホントすごいなぁ。今回は、携帯で他の子に話してる風を装うって言ってたっけ」

 あえて直接話すより漏れ聞こえた方が、内容が内容だけに勝手に噂になるだろうし何より出所がばれにくいって言ってたような。

 毎回思うけど、彼女は芸が細かい。でもそんな子がいてくれるのは、私がヒロインだから。うふ。



 彼女は、私の味方。ほら……ゲームには必ずいるじゃない。ヒロインを助けてくれるサポートキャラって。てっきり男の子で私の事を……なんて思ったりしたけど、まさかの同性だった。

 最初はびっくりしたしちょっとがっかりもしたけど、逆よね! すんごく使える、これ以上はないってほどサポートしてくれるもん。私みたいなヒロインには、素敵な同性のお友達もできちゃうわけ!



 考えているうちに高揚してきたのか、来栖はくるりとその場で回った。ひらりと制服の裾が揺れる。それだけ見ていれば天然美少女に見えるけれど、頭の中は真っ黒な思考で塗りつぶされていた。



 確かに素敵男子を攻略はしたいけど、ボッチとか嫌じゃない? そんなの辛すぎる! って思ってたけど、彼女がいたグループに入れてもらえてクラスでも孤立しなくて済んだしありがたくって仕方がない。

 


 ――あなた……姫、よね? 私、あなたをサポートするためにここにいるの。待ってたわ。



 転校してきて人気のない所でそう話しかけられた時にはびっくりしたし疑ったりもしたけど、この学校にスカウトされた時に教えられた言葉に嘘がなかったことが判明した瞬間でもあった。

次話続きます。

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