大人ってなんだろうね?
「先輩って昔はどんな子供でしたか?」
社会人として二年目のときに上司から任された新人にそんな質問をされた。
新人からしてみれば何気ない質問だったのだろうけれど、自分からすると殊のほか衝撃的だったらしく、その新人をマジマジと見てしまった。
隣でおいしー、とだらしない笑顔で酒を飲んでいる新人が視線に気づかなかったのは幸いだったのかもしれない。きっと今の自分は普段通りの表情は保てていなかっただろうから。
「すまん、もう一回言ってくれないか?」
「んー? だからぁ、どんな子供でしたか? って聞いたんですよ~」
あごを擦りながら考える振りをしていた。
そしてははぁ、と思い至る。どうやら自分は大人としての自覚がなかったらしい。
親元から離れて自立し出して二年、大学にいたのも考えれば六年、それだけ一人で暮らしていたというのにどうにも自分が大人だとは思っていなかった。
だからといって子供だとも思えていなかった。
「……そんな真剣に考えなくても良いんですけどぉ?」
「いや、考えるほどでもないさ。普通だったよ、俺の子供時代は」
そうですかぁ、と酔ったせいか間延びした声で話す新人は放っておいて考える。
思えば大学に進むときからか、明確な進路という奴がわからなくなった。
当時の自分が何であの大学に進んだのかがわからないし、過去の自分が今の職場を知れば驚くことも確かだと思う。
親元から離れてから何となくで生きていた気がする。だからだろうか? 自分が大人とも子供とも語れない、ひどく不安定な感じがしているのは……。
基本、無気力で怠惰な自分でも仕事はしているから子どもではないはずなんだがなー、と独りごちる。
はぁ、柄にもなく憂鬱になってしまう。
折角の酒をこんな気分で飲むものじゃないなぁ、とは思っていても沈んだ気分を忘れたいから余計に酒を飲む。
………因果なものだな。
一人飲みのときのペースで酒を煽っていて、新人の存在を忘れていた。
恐る恐る見ると、酔いつぶれている新人がいた。
「パミィィィ!!」
!?
どんな夢をみているというのか?
奇っ怪な新人の寝言に戦慄しつつ、これ以上ここにいると迷惑になるだろうと思って席を立つ。ひどく脅えた様子の店員に支払いを済ませ、新人を担ぎながら夜の街を歩く。
さてさて、何時になれば自分は大人だと思えるようになるのだろうか。そんな日が来るかもわからないが、生きていればどうにかなるだろう、と思いたい。
ひとまず明日は休みだし、たまには親とも連絡を取ってみても良いかもしれない。
「あっ………こいつの家、知らねぇや」