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廻る世界と死の謠  作者: 狐絃葉
2/2

ループ1 fromCASE1

ついに核心に触れます?

 ああ、どうしてこうなったんだっけ。


 何で俺はここにいるんだっけ。


 目の前のこれはなんだっけ。


 ここはどこだっけ。


 あれ、あれは誰だっけか。


 何も、思い出せない。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 


「なあ、昴流」


「な~に~?」


「本当にいいんだよな?」


「何が~?」


「いやだから、居候」


「それ何回目なのさ…もう二桁はいくよ?」


「あ、ああ。悪い」


 こんな感じの会話をずっとしている。


 今は、授業中、二時間目、現国だ。


 と、いっても自習だが。


 そんな訳で話にいそしめるわけだ。


 ちなみに駄洒落ではない。


「…なあ」


「な~に~」


「本当にいいんだよな…?」


「どれだけ話題ないのさ!?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 いつもの時間。


 本を読んで過ごす、退屈な時間。


 入部届を出したら、明日から、と言われた。


 と言う訳で今日まで、本を読まなければいけない。


 それも今日で最後。


 明日からは晴れて、昴流と活動が出来る。


「や~や~葉、帰ろうか」


「おう、肩痛いぜ」


「カバン引っさげて本読んでるからでしょ」


「あ、」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 いつも通りの、何でもない会話。


 何にも邪魔されない時間。


 そのはずだった。


「やあ」


 誰の声だったか。


「ねえ、昴流さん、だよね?」


 どんな顔だったか。


「死んで?」


 その男は、昴流にナイフを突き立てた。


「え?」


 待て、何だこれは。


「ははは、ごめんね」


 色んな事が起こり過ぎている。


「葉…助けて…」


 そうだ、助けなきゃ。


「よ、っと。抵抗しないでね?」


 男はナイフを抜くと、それを俺に向けた。


「ふっざけんな、何してやがる!」


「見て、分かんない、かな?」


 男はナイフを、昴流に向け直す。


 それだけで、俺は動けなくなってしまう。


「何を言いたいか、分かるよね?」


 俺は頷く、一目瞭然だ。


「ま、そんなの関係ないけどね」


 男はナイフを投げた。


 昴流の顔面に。


 それは、眉間に刺さった。


「っ!おまええええええええええええ!!」


「ははっ」


 男はナイフを引き抜く。


 お構いなしに、俺は飛びかかった。


「何しやがる、返せ、俺の当たり前を、返せ!!」


 拳を握り、相手の顔に向ける。


 思い切り振る。


「ありがとう、ね?」


 男は、ナイフの刃を自分の顔に向ける。


 柄には、俺の拳。


 それは、顔面に、刺さった。


「いったいなあ、葉先輩?」


「せん、ぱい?」


「まあいいや。自分の幸福に気付かないやつだもんね」


「何を言ってるんだ…?」


「にしてもいったいなあこれ。そろそろ限界」


「は?」


「じゃあ、来世でね、先輩?」


 男は目を閉じた。


 ああ、どうしてこうなったんだっけ。


 何で俺はここにいるんだっけ。


 目の前のこれはなんだっけ。


 ここはどこだっけ。


 あれ、あれは誰だっけか。


 何も、思い出せない。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――


どれほどそうしていただろう。


もう時間の感覚もない。


俺は、目の前のそれを、昴流だったものを、眺めていた。


ああ、と俺は後悔する。


今日、こうなることがわかっていれば。


もし、俺が家出なんてしようと思わなければ、


もし、今日俺が早起きをしなかったら。


俺が当たり前を壊さなかったなら。


昴流は、死ななくて、済んだんじゃないのか?


そんな思考がグルグルと廻って、俺は何も出来ないまま、そこに立っていたんだ。


そしたら、それは唐突に、目の前に現れたんだ。


___________________________________


「はぁい」


と、甲高い声が聞こえた。


声がした方を向くと、何やら奇抜な格好をした、女性が立っていた。


「やぁ、少年、今日は素晴らしい日だね」


その言葉に、俺は堪らないほどの怒りを覚えた。


それをぶつけるかのように、言い放った。


「あなたには、目の前のこれが、見えないんですか!


これの、こんな日の、どこが素晴らしいって言うんですか!」


「あはは、やだなぁ少年。君は目の前しか見えていないよ。今日は素晴らしい日なんだ」


女性は受け流すようにそう言う。


「じゃあ、これの、どこが素晴らしいか、教えてくださいよ…」


「そうかい?じゃあ教えてあげよう。今日、そして昨日はね、


地球全体で、この矢ノ崎町しか、死人が出なかった日なんだよ」


俺は思わず、「はい?」と言った。


理解を超えていたのだ。


「何故、あなたには、それがわかるんです?デタラメなんじゃないんですか?」


「ん~?ああ、何故かって。私は神だからだよ」


この時、俺は、何故か、疑問を覚えるよりも先に、納得してしまっていた。


「…じゃあ、神だっていうのなら、時間を…昨日まで、戻してくださいよ」


「うん?いいよ、元よりその気だしね」


「え?」


「私は、最初から、一番平和な日を見つけて、そこを繰り返すつもりだったんだよ」


唖然として、言葉を続けられない俺を余所に、その神様は話していく。


「だからね、君も、平和な日々を満喫するといいよ」


「これからグルグルグルグル回り続ける日々を、楽しむといいよ」


「それが嫌なら、自力で抜け出すことだ」


瞬間、俺は落ちるような感覚と、急激な睡魔に襲われて、目を閉じた。


_____________________________________

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