ループ1 fromCASE1
ついに核心に触れます?
ああ、どうしてこうなったんだっけ。
何で俺はここにいるんだっけ。
目の前のこれはなんだっけ。
ここはどこだっけ。
あれ、あれは誰だっけか。
何も、思い出せない。
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「なあ、昴流」
「な~に~?」
「本当にいいんだよな?」
「何が~?」
「いやだから、居候」
「それ何回目なのさ…もう二桁はいくよ?」
「あ、ああ。悪い」
こんな感じの会話をずっとしている。
今は、授業中、二時間目、現国だ。
と、いっても自習だが。
そんな訳で話にいそしめるわけだ。
ちなみに駄洒落ではない。
「…なあ」
「な~に~」
「本当にいいんだよな…?」
「どれだけ話題ないのさ!?」
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いつもの時間。
本を読んで過ごす、退屈な時間。
入部届を出したら、明日から、と言われた。
と言う訳で今日まで、本を読まなければいけない。
それも今日で最後。
明日からは晴れて、昴流と活動が出来る。
「や~や~葉、帰ろうか」
「おう、肩痛いぜ」
「カバン引っさげて本読んでるからでしょ」
「あ、」
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いつも通りの、何でもない会話。
何にも邪魔されない時間。
そのはずだった。
「やあ」
誰の声だったか。
「ねえ、昴流さん、だよね?」
どんな顔だったか。
「死んで?」
その男は、昴流にナイフを突き立てた。
「え?」
待て、何だこれは。
「ははは、ごめんね」
色んな事が起こり過ぎている。
「葉…助けて…」
そうだ、助けなきゃ。
「よ、っと。抵抗しないでね?」
男はナイフを抜くと、それを俺に向けた。
「ふっざけんな、何してやがる!」
「見て、分かんない、かな?」
男はナイフを、昴流に向け直す。
それだけで、俺は動けなくなってしまう。
「何を言いたいか、分かるよね?」
俺は頷く、一目瞭然だ。
「ま、そんなの関係ないけどね」
男はナイフを投げた。
昴流の顔面に。
それは、眉間に刺さった。
「っ!おまええええええええええええ!!」
「ははっ」
男はナイフを引き抜く。
お構いなしに、俺は飛びかかった。
「何しやがる、返せ、俺の当たり前を、返せ!!」
拳を握り、相手の顔に向ける。
思い切り振る。
「ありがとう、ね?」
男は、ナイフの刃を自分の顔に向ける。
柄には、俺の拳。
それは、顔面に、刺さった。
「いったいなあ、葉先輩?」
「せん、ぱい?」
「まあいいや。自分の幸福に気付かないやつだもんね」
「何を言ってるんだ…?」
「にしてもいったいなあこれ。そろそろ限界」
「は?」
「じゃあ、来世でね、先輩?」
男は目を閉じた。
ああ、どうしてこうなったんだっけ。
何で俺はここにいるんだっけ。
目の前のこれはなんだっけ。
ここはどこだっけ。
あれ、あれは誰だっけか。
何も、思い出せない。
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どれほどそうしていただろう。
もう時間の感覚もない。
俺は、目の前のそれを、昴流だったものを、眺めていた。
ああ、と俺は後悔する。
今日、こうなることがわかっていれば。
もし、俺が家出なんてしようと思わなければ、
もし、今日俺が早起きをしなかったら。
俺が当たり前を壊さなかったなら。
昴流は、死ななくて、済んだんじゃないのか?
そんな思考がグルグルと廻って、俺は何も出来ないまま、そこに立っていたんだ。
そしたら、それは唐突に、目の前に現れたんだ。
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「はぁい」
と、甲高い声が聞こえた。
声がした方を向くと、何やら奇抜な格好をした、女性が立っていた。
「やぁ、少年、今日は素晴らしい日だね」
その言葉に、俺は堪らないほどの怒りを覚えた。
それをぶつけるかのように、言い放った。
「あなたには、目の前のこれが、見えないんですか!
これの、こんな日の、どこが素晴らしいって言うんですか!」
「あはは、やだなぁ少年。君は目の前しか見えていないよ。今日は素晴らしい日なんだ」
女性は受け流すようにそう言う。
「じゃあ、これの、どこが素晴らしいか、教えてくださいよ…」
「そうかい?じゃあ教えてあげよう。今日、そして昨日はね、
地球全体で、この矢ノ崎町しか、死人が出なかった日なんだよ」
俺は思わず、「はい?」と言った。
理解を超えていたのだ。
「何故、あなたには、それがわかるんです?デタラメなんじゃないんですか?」
「ん~?ああ、何故かって。私は神だからだよ」
この時、俺は、何故か、疑問を覚えるよりも先に、納得してしまっていた。
「…じゃあ、神だっていうのなら、時間を…昨日まで、戻してくださいよ」
「うん?いいよ、元よりその気だしね」
「え?」
「私は、最初から、一番平和な日を見つけて、そこを繰り返すつもりだったんだよ」
唖然として、言葉を続けられない俺を余所に、その神様は話していく。
「だからね、君も、平和な日々を満喫するといいよ」
「これからグルグルグルグル回り続ける日々を、楽しむといいよ」
「それが嫌なら、自力で抜け出すことだ」
瞬間、俺は落ちるような感覚と、急激な睡魔に襲われて、目を閉じた。
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