ひだまりの中で
数週間後。
久しぶりに青空が少し見える園庭。
錆び付いた滑り台の近くで、
愛子が三二郎に問いかけた。
「三二郎さん、おとうさまとおかあさまは、
いつおむかえにきますの?」
「んー。誰も迎えには来ないよ」
「え? だって『コウエン』がおわったら、
ここからいなくなるのでしょ?」
「……いなくならないよ。
皆と同じように、16歳までいるよ。
入園した時に話したのは嘘。
有名ピアニストが息子を捨てたなんて
世間体が悪いからさ」
「『セケンテイ』?」
愛子は意味が分からず首をかしげた。
「ほんと!?
お兄ちゃん、かえらないの!?
ずっとここにいるの!?
やったー!」
くるりと反転して夢子がはしゃぐ。
三二郎は苦笑した。
「じゃあ、三二郎さんひとりぼっち?」
また反転して、愛子が悲しそうに尋ねた。
「ここにいる皆、ひとりぼっちだろ?」
「でも、かわいそう!
三二郎さんがひとりぼっちなのは
ほかの人よりとってもかわいそうだと
おもいますわ」
「なんで、俺だけ……」
三二郎は泣き出しそうな表情で
自分を見上げる愛子の瞳に、
一瞬吸い込まれてしまいそうな気がした。
「わたし分かる!
愛子はお兄ちゃんにコイをしてるからよ。
ダイジなひとがひとりぼっちなのは、
とってもシンパイなことなんだって、
絵本でよんだ!」
愛子は真っ赤になる。
「もう! 夢子さんのバカ!
これもナイショだっていったのに!」
「あ、そうだった……。
お兄ちゃん、これはナイショよ?」
「三二郎さんにナイショでしたの!」
愛子は、ばつの悪そうにうつむいた。
そして半ば無理矢理に夢子を動かし、
引きずるように足早で
三二郎の傍から離れていった。
追いかけることは簡単だった。
だが三二郎は、その場から動けなかった。
動揺する。
自分が誰かの恋の対象になるなんて。
ー愛子ちゃん、俺のどこがいいんだろう?ー
三二郎はこれまでの家庭環境のせいで、
自己評価がかなり低い。
和風で整った顔立ちにも、
指の長い綺麗な手にも気付かない。
自分がどれだけ
愛子と夢子の心の支えになっているのかも。