静かな想い
その日以来、三人はいつも一緒に遊んだ。
三二郎はこれまで愛子と夢子ほど
純粋な子供には出会ったことがなかった。
二人の話を聞くのは楽しかった。
雲のベッドで眠るのが憧れ。
妖精と友達になりたい。
人魚姫やシンデレラはほんとの話。
サンタクロースは最近太り過ぎて動けない。
それを秘密めいた口調で語るのが
可愛くてたまらない。
愛子と夢子の性格の違いも分かってきた。
例えば食事がお椀一杯だけでは
足りなかった時、夢子が
「まだおなかすいてる」とぼやくと、
愛子も空腹のはずなのに
「どうぞ」と笑顔で自分の分をあげる。
たまに親が面会に来る児童がいると、
夢子は涙目で羨ましがり、
愛子は一生けんめい慰める。
まるで愛子が姉で夢子が妹のようだ。
同時に産まれたとしか考えられないのに。
ー俺も同じ歳になって愛子ちゃんに甘えてみたいなー
夜、固い布団の中で三二郎は空想した。
もしも愛子が自分の母親だったら。
柔らかい手を繋いで散歩がしたい。
手作りのクッキーを食べてみたい。
善いことをしたら頭を撫でてほしい。
悪いことをしたら困った顔で叱ってほしい。
全部を、あの天使のような笑顔で
包みこんでほしい……
「ふっ」と三二郎は自分を笑った。
ー俺の方が三つも年上なのに情けないなー
いつかここを出てお金を稼げるようになったら、
二人に綺麗な服を沢山買ってあげたい。
いつも着ている、雑に布を縫い付けただけの
ワンピースなんかじゃなくて……
そして色やデザインなどを考えているうちに、
眠りの中へ入っていった。
ある日、風花園のすぐ傍にある道を
黒光りする高級車が通った。
誰もが驚いて注目する。
この辺りでは、車自体が珍しい。
よくて中古の自転車だ。
綺麗な高級車など、
そうそう拝めるものではないのだ。
そんな視線など物ともせず、
後部座席の少年が風花園を指して
隣に座っている父親に尋ねた。
「父さん、あそこ何? 幼稚園?」
すると父親は、
数万円単位まで増税された煙草を
吸いながら答えた。
「いや、孤児施設だ。
親に捨てられた子供が集団で暮らしているんだ」
「へー、そんな所があんのか」
少年の名は円寺香頭太
この時年齢7歳。
先に待ち受けている運命など
まだ知る由もなかった。