出会い
『風花園』
挨拶が済むと、
三二郎は昼食のトレイを持ち、
長テーブルの方へ向かった。
職員は部屋から立ち去る。
園児達は三二郎に冷たい視線を向けた。
座る場所を空けてやる者はいない。
「ここはお前みたいなお坊ちゃんの
来るとこじゃねえよ」
そう言い放ったのは剣斗だ。
「東から来たんだろ。
金ばらまきゃいいってもんじゃねえぞ」
「お金なんかどうせあいつら(職員)の
クスリ代ですぐになくなるよ」
祐介が後添えする。
「そのうち親が迎えに来るんなら、
ここに来なくてもいいじゃない」
麗子も釘を刺す。
ー予想以上に難しそうだなー
三二郎は園児達の反応に少し焦った。
「あっちで化け物とでも仲良くしとけば?」
麗子は部屋の隅に目を遣った。
三二郎がその視線の先を見ると、
小さな少女が段ボールにお椀を置いて
座っていた。
ー 一人? いや、二人?ー
三二郎は園児達の嘲笑い声の中、
少女に近付いた。
愛子と夢子は驚いて身構えた。
三二郎は両面人間という奇形児を、
この時初めて間近に見た。
今、目と目が合っているのは、
夢子の方だった。
真正面から見ると、
片方の神経に異常があるだけの
一人の女の子に見える。
「ここ、いいかな?」
三二郎は段ボールの近くに座った。
まだ園児達の野次が聞こえる。
愛子も夢子も戸惑い、言葉を失くす。
三二郎は勘違いした。
「もしかして口がきけない障害?」
すると愛子と夢子は同時に首を横に振った。
「……おしゃべりできるもん」
可愛らしい声に三二郎は微笑んだ。
「君も?」
三二郎は、今度は愛子に問いかけた。
「……はい」
愛子は真っ直ぐに自分を見つめてくる
三二郎の視線から逃げるように
目を反らした。
「……わたしたちは『バケモノ』です。
わたしたちといっしょにいたら、
みんなあなたをキライになりますわ」
三二郎は愛子の優しい警告に微笑んだ。
「最初から嫌われてるみたいだから」
「……」
三二郎は二人の傍で食事を始めた。
「こわくないの?わたしたちバケモノよ」
「化け物なんかじゃないよ。怖くないよ。
ちょっとびっくりしたけど。
そういう奇形なだけだろ?しょうがないよ。
皆、自分より下の人間を作らないと
やっていけないんだよ。
それは、健常者もおんなじだから」
数分もしないうちに、
三二郎は二人の容姿に慣れてしまった。