(新入り2)
少年は礼儀正しく挨拶を始めた。
「金本三二郎 9歳です。
両親が海外へ仕事に行くので、
帰って来るまでここに入園します。
よろしくお願いします」
まだ9歳とは思えない、
物怖じしない堂々とした声だった。
大抵、新しく園に入ってくる子供は、
貧困層からの捨て子だ。
薄汚れた衣服をまとい、
先輩園児達に臆するものだ。
まともに学校など行ける筈もないので、
人前での話し方など不躾だ。
だが三二郎は明らかにその「大抵」
とは違っていた。
綺麗な身なり、しゃんと背筋の伸びた姿勢。
職員が彼の挨拶の後に補足した。
「金本君のお父さんとお母さんは、
とっても有名なピアニストです。
今回、少し長い海外公演があるので、
お帰りになられるまで皆さんと生活します。
仲良くしましょうね」
「高そーな服!」
剣斗が呟く。
「なんか、親がここに、
大金を寄付したんだって」
そう囁いたのは、剣斗の友達の麗子だ。
更にその友達の祐介がぼやく。
「絶対ヒイキされるね」
そして珍しいことに、三二郎は健常者だった。
風花園の園児達は全員「天の子」だ。
明らさまな奇形児は愛子と夢子だけだが、
実は剣斗も左手の指が二本欠けているし、
麗子は色盲、祐介は白子で髪も薄い。
「今日のお昼ご飯は、
金本君が入園したお祝いです」
職員の、薬で青白くなった手が、
三二郎の頭を撫で回す。
愛子と夢子も部屋の隅から
三二郎を眺めていた。
まず最初に夢子が見て、
体を反転させて愛子が見る。
「愛子、いつまでみてるの?
はやくゴハンたべようよ」
「あ、そうですわね」
愛子は体を半回転させ、
自分の段ボールに向かった。
愛子の心臓は鼓動を早めた。
それはすぐに夢子にも伝わった。
「愛子、どーしたの?
あの男の子、こわかった?」
「いいえ。こわくはないですわ」
その頬が淡く赤らんでいることまでは、
夢子には気付く術がなかった。