タマゴのユメ
月のない真夜中のような漆黒の羽根と
海底に潜む真珠のような純白の羽根が
天高くで交差する。
重なり合った二つの羽根は暫く動かない。
やがて大きな風が吹き、雲が揺れた。
羽根は去り、
そこには二つの卵が残された。
天の最上から、重たい金の音が響く。
二つの卵はゆっくりと地上へ降りていった。
そして地中深く、時を待った。
その間、二つだった卵は融合し、
一つに合体。
約二千年後、
時を知らされた卵は
人間の男性器に、精子と姿を変え宿った。
20×1年。
さびれた助産院で一人の女性が出産した。
しかし、産まれてきた赤ん坊からは
誰もが目を反らした。
赤ん坊は双子の女児。健康には問題なし。
だが、後頭部から腰まで完全に癒着した
所謂「両面人間」だったのだ。
20×7年
『風花園』
汚れた洗面所の鏡に、
6歳の幼女の顔から肩までが映る。
幼女の頭上には天使の輪が浮かび、
頭皮からは小さな悪魔の角が生えている。
そして肩からは、
天使の白い羽根と悪魔の黒い羽根が
生えている。
「夢子さん、きょうもタマゴのユメでした?」
「うん愛子。タマゴのユメよ」
鏡に映っている幼女は愛子。
そして返事したのは同じく6歳の幼女夢子。
いつも愛子の背面にいる。
いや、愛子が背面なのだろうか。
二人は乳児の頃からずっとこの園にいる、
両面人間だ。
最近二人は頻繁に同じ夢を見る。
そして鏡越しには、
どちらも先程形容したような姿で映るのだ。
愛子は繰り返し夢子に言い聞かせていた。
「夢子さん、これはだれにもナイショですわよ」
「うん。ナイショ」
「わたしと夢子さんがテンシとアクマのアイノコって
みんながしったら、
ここからおいだされちゃいますわ」
愛子の喋り口調は、
お気に入りの絵本の中の、お姫様の受けうりだ。
「わかってるもん」
繰り返し見る、
漆黒の羽根と純白の羽根から産まれた卵の夢。
彼女達はそれが確実に
自分達の事だということを理解していた。