ベーグル
外国を舞台に短編で書いてみました。プロローグっぽいです。続きを書くかは気分のみぞ知る。(※100%ホモではない)
タイトルと中身関係ないです。思いついたら変更します
pm 11:23 場所 ビルの裏通り
星がチカチカと煩わしい。まったく、夜もゆっくりと過ごせないなんて最悪な気分だ。
腰のポケットからタバコとライターを取り出し、口に咥えては火をつけた。ライターが街灯の光に照らされると反射するように輝く。それをなんとなく見つめながら一服する。
「はぁ」
煙を吐き出すと、背後から誰かの気配がした。だが、振り向くまでもない。彼が隣に来るのを待った。
「よぉ、ずいぶんとしけた面してるな、レヴソン」
「久しい友にそれは酷い言葉だな、アルフレッドさんよ」
「前みたいにアルって呼んでくれよ。かしこまって逆に気持ちわるいぜ」
「そうだな、“アル”ちゃん」
アルは彼の隣でしゃがりこむと、もぞもぞとコートの内側を漁りだす。中から取り出したのは、ベーグルだった。とびっきり甘いチョコ味の。彼はそれを食べ始めた。なんだか食い方がリスみたいだなとレヴソンは心の中で思った。
「それまだ食べてたのか」
「生憎、今は禁煙中でな。口が寂しいときのために買っておいたんだ。いるか?」
「いや、遠慮しておくよ、甘党なアルちゃん」
少し静かな間が流れ、アルがチョコのついた口を開いた。
「で、どうなんだ。調子のほうは?」
「おう、順調だ。怖いにな」
「それは良かった……が、相変わらず星の光にも弱腰だぜ」
「うっせ」
「特に日光なんてもんに当たったらあの世行きだもんな」
「あーーあの妹になんかにバレたりしたら……」
その瞬間、レヴソンの拳がおもいっきり壁のレンガを叩き粉々にする音が聞こえた。
「それ以上言うな、いくらお前が義理兄さんでも殺すぞ。燃やした灰はルビンストン公園に撒いてやる」
「うわぁ、祖国一汚い公園にか、それは勘弁してくれ」
「なら、黙ってろ」
アルがにやけながら、レヴソンに言った。
「夢のようだぜ。いつの間にか女が出来たかと思えば、しかもそれがまさかの俺のかわいい妹で仰天。お前と親友から家族になれるのかぁ、楽しみだ。姑っぽくいびってやるから覚悟しとけよ」
「はぁ」いまにもタバコの灰と一緒に気分まで落ちそうだった。
でも、アルがこういう性格だからこそ、ここまでふざけ馬鹿友達として続いてこれたのかもしれないな。
「たとえ、お前が人間じゃないとしても、俺は絶対に反対しないからな。むしろ大歓迎だ、カモーン!」
「ああ」
「それにな、俺の可愛いエミリアがな、このままじゃ独身で終わっちゃうんじゃないか、心配してたんだ。ま、お前なら安心して頼めるぜ」
「任せとけ」
「あと、俺も一緒に住むから」
「ああ、っておい! 本気でお前姑になる気か」
「もちろんだぜ! どこまでもついていくぜ、義理弟!!」
「やっぱここで殺めるべきか」
レヴソンはもう一服タバコを吸った。これからの騒がしいであろう未来を考えると笑いが止まらない。
だが、よく考えてみるとやっぱりエミリアとの二人の時間を邪魔されるのが気に食わなかった。
「やっぱ邪魔だ、来るな」
「俺を仲間はずれしようなんて酷いぜ、このくそったれ婿野朗」
「いくらでも言え、俺は男の中の男だ。心が広いからそんな罵し言葉で怒りはしないぜ」
「弱虫! ゲイホモ、男性愛者! サノバビッチ!!」
「てめぇ、マジで殺すぞ」
狭い路地裏に男二人の低い笑い声が響き、やがて殴り合いになる。
―――これがアルフレッドと話した最後の夜になるとは知らずに。