diamond sound
ステージの上から見る景色は、思っていたよりもずっと暗かった。
客席に並ぶ何百本ものペンライト。
その向こうには、私たちを見つめる人たちがいる。
七瀬ひかりは、震える手でマイクを握った。
ひかり「……みんな、今日は来てくれてありがとう!」
歓声が返ってくる。
その声を聞いた瞬間、ひかりは一年前のことを思い出した。
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高校三年生の春。
ひかりには、誰にも言っていない夢があった。
アイドルになること。
でも、自分には無理だと思っていた。
歌は好き。
踊ることも好き。
けれど、人前に立つ勇気だけがなかった。
そんなある日、学校帰りに一枚のポスターを見つけた。
――新人アイドルグループ・メンバー募集。
ひかりは立ち止まった。
ひかり「……私が、アイドル?」
笑ってしまった。
自分には似合わない。
そう思って、その場を離れようとした。
そのときだった。
あかり「応募しないの?」
後ろから声をかけてきたのは、同じクラスの白石あかりだった。
ひかり「え?」
あかり「ずっと見てたじゃん、そのポスター」
ひかり「……ちょっと気になっただけ」
あかり「じゃあ応募しようよ」
ひかり「なんで?」
あかり「私も応募するから」
それが、すべての始まりだった。
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オーディションには五人が集まった。
歌が得意な黒川玲奈。
モデル経験のある星野みお。
明るく、人と話すことが得意な小野寺ゆず。
そして、ひかりとあかり。
五人は最終審査を通過し、新しいアイドルグループを結成することになった。
名前は――
Diamond Sound。
ゆず「ダイヤモンド?」
スタッフ「最初から完成された宝石なんていない。君たちも同じだ」
五人はまだ何者でもなかった。
歌も、ダンスも、知名度も。
全部これからだった。
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しかし、現実は甘くなかった。
レッスンでは何度も失敗した。
ダンスについていけない。
歌詞を間違える。
振り付けを忘れる。
五人で喧嘩することもあった。
あかり「ひかり、もっと声出して!」
ひかり「出してるよ!」
あかり「全然届いてない!」
ひかり「じゃあ、あかりが歌えばいいじゃん!」
言った瞬間、空気が凍った。
ひかりはすぐに後悔した。
ひかり「……ごめん」
あかりは何も言わなかった。
その日の帰り道。
ひかりは一人で駅のホームに立っていた。
スマートフォンを見る。
グループの公式SNS。
フォロワーは、まだ二百人。
コメントもほとんどない。
ひかり「……私、何してるんだろ」
そのとき、スマートフォンが震えた。
通知は、あかりからだった。
そこには短いメッセージが届いていた。
――明日も一緒に練習しよう。
ひかりは少しだけ笑った。
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そして、一年後。
Diamond Soundは、初めて大きなステージに立つことになった。
観客は数百人。
以前とは比べものにならない。
しかし、本番直前。
ひかりの手が震えていた。
ひかり「……怖い」
あかりが隣に立つ。
あかり「何が?」
ひかり「失敗するのが」
あかり「私も怖いよ」
玲奈も笑った。
玲奈「私だって緊張してる」
みお「私なんて昨日眠れなかった」
ゆず「じゃあ全員一緒じゃん」
五人で顔を見合わせる。
そして、ゆずが手を差し出した。
ゆず「せーの」
五人が手を重ねる。
全員「Diamond Sound!」
ステージの幕が開いた。
まぶしい光。
大きな歓声。
ひかりは一歩前へ出る。
ひかり「みんなー! 今日は私たちのために来てくれて、本当にありがとう!」
歓声が返ってくる。
そして、イントロが始まった。
五人の歌声が重なる。
最初は小さかった声が、少しずつ大きくなっていく。
ひかりは思った。
自分一人では、ここまで来られなかった。
あかりがいた。
玲奈がいた。
みおがいた。
ゆずがいた。
そして、応援してくれる人たちがいた。
曲が終わる。
会場から拍手が起こる。
ひかりの目に涙が浮かんだ。
ひかり「……ありがとう」
マイクを握る。
ひかり「私たちは、まだまだ未完成です」
客席が静かになる。
ひかり「でも……だからこそ、これからもみんなと一緒に、私たちだけの音を作っていきたいです」
隣で四人が笑う。
ひかり「私たちの名前は――」
五人で声を合わせる。
全員「Diamond Sound!」
再び、大きな歓声が響いた。
ステージの光が五人を照らす。
まだ原石だった五人。
けれど、その音は確かに誰かの心へ届いていた。
いつか本当のダイヤモンドになれるかなんて、まだ分からない。
それでもいい。
今日という日の音は、今日しか鳴らせない。
五人はもう一度、マイクを握った。
そして、次の曲が始まった。




