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山神の声 ~絶対に、許さないからね~

作者: 天月瞳
掲載日:2026/07/02

まだ小さかった頃、私と友達はいつも山の中を走り回っていた。

一番好きだった遊びは、誰が一番早く山を下りられるか競争することだった。


一位になった者には、みんなでお金を出し合って駄菓子屋で買ったお菓子がもらえる。

だからみんな本気だった。



あの日もいつも通り、みんなで山頂まで登った。


合図が鳴る。


全員が一斉に走り出した。

それぞれが最短だと思う道を選ぶ。


最小限の動きで障害物を避ける。

小さな斜面があれば、そのまま飛び降りる。


今振り返ってみれば、確かに命知らずな行動だった。


山の中を駆け抜ける。


耳元では風が唸りを上げていた。


私の前を走っていたのはA君だった。

彼が急斜面から飛び降りた背中を、今でも覚えている。


その時、彼の体が少しよろめいた。


それでもすぐに体勢を立て直し、そのまま走っていった。


後ろを追いかけていた私は、何気なく足元を見た。


地面には石が積み上げられていた。


A君はきっと、その石を踏み崩してしまったのだろう。


『絶対に、許さない』


そこを走り抜けたとき、耳元をかすめるように声が流れた気がした。


山の下にたどり着くと、A君が一位だった。


「そういえば、さっき何か言った?」

A君は満足そうにお菓子を抱え、顔を上げて私にそう尋ねた。


「いや? あの時しゃべってたのはA君じゃなかったの?」


かすかに言葉を聞いた記憶はある。


何と言っていたのかは、はっきりとは聞き取れなかった。


男か女かも分からない声。


少し響いていて、まるで山そのものが木霊しているようだった。


私たちは深く考えもせず、そのまま解散して家に帰った。


その日の夜、まどろみの中で、ある声が耳元で静かに響き渡った。


『絶対に、許さないからね』


私はガバッと目を覚ました。

嫌な夢でも見たのだろうと思った。




しかしそれから、奇妙なことが起こり始めた。

仲間たちが次々と不運に見舞われるようになったのだ。


ある者は転倒した。


『絶対に……』


ある者は自転車が突然パンクし、そのまま田んぼのあぜ道に突っ込んだ。


『許さ……』


お風呂場で転んで、前歯を一本失った者もいた。


『ない……』


私自身も、山の斜面から転がってきた石に当たって怪我をした。


『からね』


そして最もひどかったのはA君だった。


交通事故に遭い、片足を失ったのだ。


私たちは病院へ見舞いに行き、この頃みんな運が悪すぎると話し合った。


すると全員が口を揃えて言った。


事故や怪我をする直前に、誰かの声を聞いたと。


「お前も聞いたのか?」


「聞き間違いかと思ってた」


話しているうちに、みんなの顔から血の気が引いていった。


病室のベッドに横たわるA君が、重い口を開いた。


「専門家に見てもらおうと思う」


そこで彼は、ある霊媒師を呼んだ。


霊媒師は年老いた女性だった。

六十代後半はとうに過ぎているように見えた。

顔には深いしわが刻まれていた。


彼女はキセルを吸っており、体からは線香の香りと、名も知らぬ薬草の匂いが漂っていた。


老婆は線香を手に、何やら呪文のようなものを唱え始めた。

A君の周囲を回りながら、十数分にわたって踊るような儀式を続けた。

そして動きを止め、険しい表情で尋ねた。


「あの日、何があったか覚えているかい?」


私は記憶を頼りに、その日の状況を説明した。


「山を駆け下りる競争をしていて、それでA君が石の山を崩して……」


老婆は私の言葉を遮り、焦った様子で問い詰めた。

「何の石の山だい? すぐ隣に、ねじ曲がった形の小さな木がなかったかい?」


「ええ、たしかにあったと思います」


私は記憶を探りながら頷いた。

あの木は妙に特徴的な形をしていたので、印象に残っていた。


「なんてことを……自分たちが何をしたか分かっているのかい?」

老婆は唇を震わせ、その顔は恐怖に満ちていた。


「山神様のお社だよ。お前たち、山神様を怒らせたんだ」


私は思わず病床へ目を向けた。


視界に入ったのは、半分しか残っていないA君の右足だった。



背筋が凍りつくような感覚がした。


そうだ。


あの日、石を蹴り崩したのは右足だった。



「どうすればいいんですか?」

私は慌てて尋ねた。


老婆は煙管を一口吸った。


白い煙が皺だらけの顔を覆う。


「誠心誠意、謝るしかないね。神様が許してくださるかどうかは、分からないけれど」


私たちは恐怖に駆られ、話し合った末に現地へ戻ることにした。


山神の像と祠を建て直すためだ。


私たちは山へ行き、恭しく謝罪した。

そして、新しい山神の祠を建てた。


不思議なことに、それ以降はあの不運がぴたりと収まった。


それ以来、私たちは二度とあの山へは行かなかった。

そのことについて口にすることすら恐れた。


そして去年。


A君の訃報が届いた。


昔の仲間たちが、みんな参列した。


式の後、A君の奥さんが涙を拭いながら私たちに頭を下げた。


「来てくださってありがとうございます」


「A君は、どうして……?」


私は悲しみをこらえて尋ねた。


「家で転んでしまって……頭を打って、そのまま……」


お悔やみの言葉を伝えた後、私は棺の中をそっと覗き込んだ。


A君は静かに目を閉じていた。


血の気を失った顔は、恐ろしいほど青白かった。


その時だった。


あの声が、耳元でかすかに響いた。


『まだ、許してないからね』

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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