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神なき世界の創り方  作者: 秋源斗


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第46話 十二月の任務

アラタ達の部隊の任務は夜に偏り始めていた。


 テクノフォースが冬の補給ラインを維持するために、夜間に物資の移送を行っている。神徒連盟はそれを狙って夜の任務を増やしていた。テクノフォース側もそれに合わせて夜間防衛の頻度が上がっていた。


G2の十二月中頃、アラタは夜間任務に三日連続で出た。


 一日目は栃木の山間で、物資輸送部隊の護衛だった。杉林の間を縫うように続く山道を、ライカが先頭で歩いていた。月明かりが薄く、木々の輪郭だけが夜の中に黒く立っていた。


出発前、ライカが全員を集めた。


「今夜は補給部隊の護衛だ。敵との接触があっても追う必要はない。荷を守ることが最優先だ」


「交戦になった場合の離脱ルートは」と加藤が聞いた。


「西の林道を使用することを事前に確認済みだ。ただし積雪が多い。走るのは厳しいということを頭に入れておけ」


「了解です」とアラタは返した。


「アラタ、今はドローンは1基のみにしておけ」


「高度は落としておきますか?」


「相手に気づかれない程度だ。具体的な判断はお前がしろ」


山道に入った。足元が凍っていた。吐く息が白く、すぐ夜の空気に溶けた。


 神徒連盟の偵察が二体来た。一体が正面から、もう一体が上空から挟む形で来た。翼が展開した瞬間、白い光が林の中に溢れた。葉の影が地面に激しく揺れた。


「正面は私が取る。上空は頼む」とライカが言った。


「上は加藤さんと行きます」


「よし、追い込むぞ」


 ライカが正面の一体に向かった。アラタと加藤が上空の一体を追った。ブースターを吹かして高度を取った。加藤が先回りして退路を塞いだ。


「こっちに回り込みます」とアラタは言った。


「タイミングを合わせろ。俺が左に出た瞬間に正面から入れ」


「わかりました」


 上空から来た一体が降下してきた。アラタが受けた。光剣が肩口をかすめた。強い光の熱が来た。スーツの表面に焼け跡が残った。それでもアラタはそのまま動いた。


 上空の一体はそのまま着地して光剣を構え直した。アラタはブレードアームで光剣を払い、返す動作で腹部に打撃を加えた。金属と光剣のぶつかる重い音が響いた。相手がよろけた。加藤が後ろから詰めた。アラタのドローン、加藤のアームキャノンで障壁を削りきりアラタが最後に仕留めた。相手は倒れた。生きていた。


 ライカの方を見た。正面の一体はすでに地面に伏していた。息はあったようだ。ライカはその場で確認して、部隊員に指示した。


「肩は平気か」と加藤がアラタに言った。


「かすった程度で平気です」


「一応後で確認しとけ」


そして一日目は終了した。


 二日目は埼玉の北側、変電施設の防衛だった。神徒連盟が四体で来ていた。翼2枚の通常変身が三体、翼4枚の覚醒が一体だった。覚醒の一体が中心になって動いてくる形だった。


 夜の施設の屋上に降り立った覚醒の一体は、翼の光量が段違いだった。周囲の地面が白く照らされた。


ライカが指示を出した。


「翼が4枚の覚醒を先に削る。全員で集中しろ」


「ドローンを全基そちらに回します」


「了解。私は正面から圧をかける」


「加藤さんは」


「側面に回る。隊長が正面に引き付けている間に角度を取る。タイミングは俺が出す」


「わかりました」


 覚醒した一体は速かった。ただ、ユイほどではないように感じた。自分が強くなっているのか、ユイが強すぎるのか。戦士は翼4枚で空中を自在に動いた。光剣と光槍を切り替えながら攻撃してきた。翼が動くたびに白い光の軌跡が空に残った。


 アラタはドローンを四基全基その一体に向けた。三基で追いかけて、残り一基で先読みした位置に配置した。


 相手が動く。予測した場所に一基が待っていた。当たった。障壁が光った。一枚目。


「一枚目」


「よくやった。次は私が入る」とライカが言った。


 ライカが正面から攻めていた。アームキャノンの高出力弾を一発。ブレードアームで相手の光剣をいなしながら確実にダメージを蓄積していった。相手の障壁が削れた。二枚目、三枚目。


 覚醒状態が解けた。翼が四枚から二枚に戻った。相手の動きが落ちた。疲労が出ている様子だった。


残り一枚。


「詰めろ」とライカが言った。


 加藤が側面から詰めた。相手が加藤の方を向いた。その瞬間、別の部隊員が後方から距離を詰めた。その部隊員がアームキャノンを至近距離で撃った。障壁が消えた。続けて、加藤のブレードアームが相手の体に直撃した。


相手が倒れた。頭が岩に当たる。その音だけが残った。


ライカが確認に行った。短く言った。


「死んでいる」


アラタは少し間を置いた。


死んでいる。


それが事実として届いた。自分が殺したわけではない。でも自分たちの任務の中で起きたことだった。


ライカが続けた。


「残り三体の対処を続ける」


「……わかりました」


 任務は続いた。残り三体の通常変身の戦士を制圧した。三体とも生きていた。任務が終わって、輸送車に乗った。誰も話さなかった。


アラタも話さなかった。


 施設に戻る車の中で、加藤がアラタの隣に座っていた。ライカは前の席で地図を確認していた。エンジンの音だけが続いていた。


しばらくして、加藤が低い声で言った。


「飯は食えてるか」


「はい」


「食えるうちは大丈夫だ」


「俺は初めてこういった場面に立ち会った後、食えなかった時期がある」と加藤は言った。


「ただし、その時は食えなくなったことに気づかなかった。それの方が問題だった」


「気づかない、というのは」


「戦闘後、頭の中でその時のシーンがフラッシュバックしてしまっていた。それが原因で、自分では食えていたつもりだったが、実際その時はあまり食えていなかった。これの悪影響が後で来る」


「どんな悪影響が後で来るんですか?」


「形は人によって違う。精神的に不安定になったり、倦怠感があったり、動けなくなったりする」


アラタは窓の外を見た。夜の道路が流れていた。


「今はそういったことはないですか」


「今はない。ただし、慣れたからではない」


「どういうことですか」


「慣れたのではなく、置き方を覚えた。捨てるのではなく、置く。そういうことだ」


「置く場所というのは、どこにあるんですか」


加藤は少し間を置いた。


「矛盾しているようだが、どこにもない。だから置いたままにする。取りに行かない。慣れるわけでも捨てるわけでもない。この二つの中間に位置している感覚だ」


「取りに行かないというのは、忘れるということですか」


「忘れるわけではなく、引き出さないことだ。引き出すから引きずる。引き出さなければ、そこにあっても動ける」


アラタはその言葉を頭の中で繰り返した。引き出さない。引き出すから引きずる。


「加藤さんは今、引き出したくなることはありますか」


加藤は言った。


「ないとは言いきれない。ただし引き出さない。それだけだ」


それきり加藤は話さなかった。アラタも返さなかった。


 施設に戻って、ライカが報告書を書いていた。アラタはその作業を少し見た。死者一名、と記録されるのだろうと思った。数字になる。数字として扱う以外に、どこに置けばいいのかわからなかった。


三日目は比較的静かな任務だった。偵察のみで、接触なし。


 三日連続が終わった夜、アラタは自室で横になった。眠れるはずだった。疲れていた。肉体的にも、精神的にも。


眠れなかった。


 二日目の、あの音が少し残っていた。頭が岩に当たる音。それが怖かったのか、悲しかったのか、ただ気になっているだけなのか、自分でもわかりかねた。


 倒すことと殺すことは別だと思っていた。自分はそれを守っていた。守れていた。でも任務の中で死者は出た。


翌朝、ライカに少し聞いた。


「任務で死者が出た時、どうやって切り替えているんですか」


ライカはアラタを見た。


「私は切り替えていない」


「切り替えないんですか」


「無理に切り替えようとするから変になる。あったことはあったこととして受け入れる。引きずらないのと、なかったことにするのは違う」


「……受け入れる、ですか」


「そうだ。引きずって動けなくなるのも困る。なかったことにして鈍くなるのも困る。その間で動き続ける。それだけだ」


「加藤さんも、似たことを言っていました」


ライカは少し間を置いた。


「加藤が言ったか」


「車の中で。置き方を覚えた、と」


「そうか」とライカは言った。「あいつがそういうことを話したなら、お前を認めている」


「どういう意味ですか」


「加藤は必要以上のことをあまり話さない。話したということは、話す価値があると判断したということだ」


アラタはそれを聞いて、少し黙った。


「お前はまだうまく扱えないかもしれない」とライカは続けた。


「だがそれでいい。お前もいつかわかる時が来る。それに、扱えるふりをする方が後で崩れる」


ライカはそれ以上言わなかった。


アラタは頷いた。引きずらないのと、なかったことにするのは違う。


 加藤の言葉と、ライカの言葉は違うように聞こえるが本質は同じ場所に着地していた。まだうまく扱えるかはわからなかった。ただ、置いておく場所ができた気がした。

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