第43話 推計と現実
G2の十一月の終わり頃、アラタはProject DSの定例報告に出た。
集まったのは黒崎と作戦部隊の六人だった。東京本部の地下にある小さな会議室だった。壁に地図と数値のグラフが映し出されていた。
黒崎が話し始めた。
「今月の神エネルギー観測値を報告する」
端末を見た。
「先月比でプラス八パーセント。上昇率が落ちていない。顕現推定を更新する。現在のペースが続けば、十二ヶ月から十四ヶ月の間に顕現する可能性が高い」
先月が十四ヶ月だった。また縮まった。
十二ヶ月。一年。
アラタは数字を頭に入れた。多少の焦りを数字に変換した。感情にするより、数字の方が扱いやすかった。
「DSの試作機の進捗は」
黒崎は端末を切り替えた。
「コアシステムの設計が完了した。部品の調達に入っている。試作機の完成は予定通り、六ヶ月後を見込んでいる」
「余裕は六ヶ月だ」と黒崎は続けた。
「試作機が完成してから実用機の検証まで、六ヶ月しかない。これを達成できるかどうかは、試作機の精度による」
部隊の一人である坂本が聞いた。
「試作機の精度が足りなかった場合は」
「想定している。代替案を二つ用意している。詳細は後ほど共有する。ただし、現在調整中であるため後日変更する箇所が出るかもしれない」
作戦訓練の報告も出た。
六人の動きが少しずつ変わっていた。最初の頃は皆、動きを確認しながら動いていた。今は確認の時間が減っていた。それぞれが自分の位置や状況を把握しながら動けるようになっていた。
アラタは自分の課題を話した。
「上空の相手への対処速度が課題です。空中での継続的な制圧にまだ時間がかかる。先週の合同任務で確認しました」
黒崎は頷いた。
「想定している。そこで朗報がある。ECS-Ⅱの開発が並行して進んでいる。空中機動の改善が主な目的だ。試作機が出たら優先的に確認させる」
ECS-Ⅱ。
アラタはその言葉を頭に入れた。空中機動の改善。それは今の自分の課題と直接関係していた。間に合うかどうかは、わからなかった。しかしそれが動いていることは確かだった。報告が終わった。
部屋を出る時、黒崎がアラタに声をかけた。
「十一月の合同任務のデータを見た」
「はい」
「逃がした一体がいた」
「います」
黒崎は少し間を置いた。
「それが何を意味するかはわかっているな」
「向こうに配置が伝わります」
「正確には、配置だけじゃない。三部隊の合同運用のパターンが伝わる。次の同種の任務では、別の対応が来る」
黒崎は端末を手に取った。
「お前一人の責任ではないがそれを踏まえて、次の訓練内容を変える。ライカに伝えておく」
それだけだった。責めるでもなく、慰めるでもなかった。ただ事実として扱って、次の行動につなげた。
廊下に出た。施設の灯りが白かった。地下の空気は冷えていた。
十二ヶ月。
六ヶ月で試作機。残りの六ヶ月で検証と実用機。間に合わせる。そのために今できることを続ける。アラタはエレベーターに乗った。地上に出た。夜だった。
東京の空に星が少しだけ見えた。
ユイは今夜どこにいるのか、と思った。
群馬のどこかだろう。寒いはずだった。十一月の山の中は、東京よりずっと冷える。
答えはなかった。ただ、どこかで動いていると思った。星が白く光っていた。
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