第34話 稜線
翌朝、日が昇る前に部隊が動いた。
六人だった。田代、石川、ユイ、他三名。山道を一時間歩いた。夜明けの山は暗かった。獣道のような細い道を進んだ。
木の根が道に張り出していて、何度かつまずきそうになった。翼を持っていると、地上を歩く感覚が少し鈍くなる。普段は空中を使うからだった。
HUDは持っていない。神徒連盟の戦士はECSスーツを使わない。代わりに翼と感覚を使う。暗い中でも翼の光の微妙な揺れで周囲の空気の流れを読む。動物の気配も、人の気配も、翼に伝わってくる。施設の訓練でそれを覚えていた。
稜線の手前で止まった。
田代が小声で言った。
「三人いる。稜線の東端。HUDを使った偵察をしている。気づかれていない」
稜線は細長かった。幅十メートル程度の尾根が続いている。両側は急斜面で、木々がある。東端に三人のテクノフォース兵士がいる。西側から接近している。
「ユイ、前衛で入れ。石川が続く。残り四人で両側の斜面を押さえる」
「わかりました」
翼を出した。小さく動かして、静かに空中に浮いた。音を立てないようにした。翼の光は抑えた。できるだけ明るくしないようにした。
稜線の上を、低く飛んだ。木々の梢すれすれの高さだった。
三人の位置が感覚でわかった。HUDがなくても、人の気配は翼を通して伝わってくる。体温の違い。空気の揺れ。
二十メートル。
一人が振り返った。
気づかれた。速度を上げた。翼を一気に広げた。光が広がった。一人が「上だ」と叫んだ。
もう二人が反応した。シールドを展開しようとした。
間に合わなかった。
最初の一人に向けて翼を畳んで急降下した。速度がついていた。光の盾を前に出した形で体当たりした。一人がシールドを展開する前に吹き飛ばされた。後退して木の根に足を取られて倒れた。
残り二人。
一人がアームキャノンを向けてきた。
左に翼で跳んだ。弾が右を通過した。
距離を詰めた。三メートル。近接だった。光の短剣を出した。相手がブレードアームを展開した。刃と刃が当たった。
押し合いになった。力は均衡していた。
石川が来た。横から入って残りの一人に光剣で斬りかかった。相手がシールドを展開する前に押し込んで戦闘不能にした。
ユイは目の前の一人に集中した。鍔迫り合いが続く。相手が足を踏み込んできた。力で押し返そうとした。
違う。
石川が言っていた言葉を思い出した。力を入れすぎると逆に動かなくなる。抜く感覚が大事。
力を抜いた瞬間、相手が前のめりになった。バランスが崩れた。翼を一枚使って横に回り込んだ。相手の背後に出た。
そのまま光の盾で背中を叩いた。相手が前に倒れた。
田代が来ていた。石川が仕留めた。倒れた相手が動けないことを確認して、戦闘不能を判断した。
稜線が静かになった。日が昇り始めていた。稜線の東から光が差してきた。山の向こうが赤くなっていた。
ユイは翼を収めた。手が少し震えていた。戦闘が終わると毎回こうだった。戦っている間は震えない。終わった時に出る。
「よくやった」と田代が言った。
ユイは頷いた。声が出なかった。
石川が隣に来て、小声で言った。
「力を抜いたのを見た。正しかった」
それだけだった。それで十分だった。
倒した三人の兵士を見た。ECSスーツを着ていた。ヘルメットで顔が見えなかった。動けなくなっていたが、おそらく死んではいなかった。
この中にアラタがいるかもしれないという考えが一瞬浮かんだ。
体格を確認した。違った。三人とも、アラタとは違う体格だった。
違う、とわかった時に、ほっとした自分がいた。
ほっとしたことに、少し戸惑った。次に会ったら戦うと言った。
わかってる、とアラタも言った。それは変わっていない。
でもほっとした。
それは仕方がないことだとユイは思った。仕方がなくても、次に会えば戦う。両方が同時にある。それだけのことだった。
山道を戻りながら、朝の光の中を歩いた。夏の朝の空気は清かった。
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