表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神なき世界の創り方―神を信じた幼馴染と、神を殺す兵器を使う俺―  作者: 知識渇望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/36

第30話 八月

G2の八月になった。


戦争が始まってから、一年が経った。

アラタは夜、施設の食堂で一人で飯を食っていた。夜遅い時間だったので、他に人がいなかった。消灯時間が近かった。外は暗かった。


一年前の八月を考えた。


一年前の今頃、颯太が死んでいた。ユイの家族が死んでいた。ユイが神を信じると言って、去っていった。あの夜、避難施設の窓の外を見ながら、どうすることもできなかった。


今年の八月、自分は十六歳になった。五月に誕生日が来た。特に何もなかった。訓練日と任務日の繰り返しの中に、誕生日があって、過ぎていった。


去年より戦えるようになっていた。それは確かだった。HUDの使い方、ドローンの割り振り、障壁の削り方。全部、去年より速く、正確になっていた。

しかし戦えるようになるほど、戦場で見るものも増えた。


倒れた戦士の顔を何度も見た。神徒連盟の戦士たちはほとんどが若かった。二十代が多かった。中には十代に見える者もいた。みんな何かを失って、神を信じて、翼を持って、戦場に出てきている。そして倒れる。


自分が倒すたびに、その事実が重さを持った。

初陣の時は気づかなかった。いや、気づかないようにしていた。でも今はもう、目を背けることができなかった。


それは弱さではない、とアラタは思っていた。ライカが言った通り、感情があるから動ける。感情を消すのではなく、抱えたまま動く。それが今の自分のやり方だった。


箸を置いた。食い終わった皿を見た。

廊下から音がした。ライカが通りかかった。食堂を覗いた。


「遅い時間だな」とライカが言った。


「眠れなくて」


ライカは入ってきた。向かいの椅子に座った。コップを取って水を入れた。飲んだ。

しばらく二人とも黙っていた。


「一年経ったな」とライカが言った。


「そうですね」


「変わったか」


アラタは少し考えた。


「戦えるようになりました。それ以外は、よくわかりません」


「それ以外は変わらなくていい」


「変わらなくていい?」


「中心が変わると、動けなくなる」ライカはコップを置いた。


「何のために動いているかが変わらなければ、技術が上がるほど動きやすくなる。逆に目的がぶれると、技術があっても止まる」


アラタは少し間を置いた。


「ライカさんは何のために動いてるんですか」


ライカは少し黙った。


「言ったと思うが。生きている人間が、できるだけ多く残ること」


「それは変わっていないんですか。最初から」


「変わっていない」


「なぜ変わらないでいられるんですか」


ライカはアラタを見た。少し考えてから言った。


「変えようとしたことがないからかもしれない。最初からそれしかなかった。だから変えるものがなかった」


アラタは頷いた。答えとしては短かったが、ライカはいつもそうだった。短くて正確だった。


「群馬で会った幼馴染のことを考えているか」


「時々」とアラタは正直に答えた。


「時々でいい。四六時中考えるな。ただ、存在を消すな。存在を消すと、向き合うべき時に動けなくなる」


「存在を消さないで、時々考える」


「それだけでいい」

ライカは立ち上がった。


「早く眠れ。明後日、また任務がある」


「わかりました」


ライカは食堂を出た。

アラタは少しの間、食堂に残った。

存在を消さない。それはできていた。ユイのことを忘れようとしたことはなかった。ただ、考えすぎないようにはしていた。その加減が合っているのかどうかはわからなかった。今のライカの言葉で、今の加減が悪くないとわかった。


窓の外、夏の夜の東京は暗かった。

星が出ていた。


一年前も、こうして夜を過ごした。戦争が始まって、ユイがいなくなって、何もわからなかった夜だった。今は何かがわかっている。何のために動いているかはわかっている。向かう場所もわかっている。


ただ、まだ遠かった。

顕現まで、推定十八ヶ月。


長かった。長くても、進む方向は変わらなかった。

アラタは立ち上がって、食堂の電気を消した。廊下に出た。自室に向かった。

今夜は眠れる気がした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

感想や評価をいただけると励みになります。

ブックマークもしていただけると幸いです。

今後も更新していきたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ