第29話 ユイの夏
G2の夏、ユイは初めて本格的な戦場に出た。
三月に覚醒してから四ヶ月が経っていた。その間、桐島の指導の下で実戦訓練を重ねた。模擬戦だけでなく、施設周辺の防衛任務にも参加した。小規模なものだったが、本物の戦闘だった。テクノフォースの偵察部隊が施設に近づいてきた時に、迎撃する任務だった。
初めて本物の相手と戦った時、手が震えた。
翼を広げて、光の短剣を出した。相手はECSスーツを着た兵士だった。顔が見えなかった。ヘルメットが隠していた。
ユイは祈った。家族を返してもらうために戦っている。それは変わらない。
震えが止まった。
その任務は十五分で終わった。テクノフォースの偵察部隊は三人で、施設に近づく前に引き返した。本格的な戦闘にはならなかった。
しかしユイは、その短い時間に何かを確認した。本物の相手と対峙した時に自分がどう動くか。翼は動いた。短剣は出た。体は動いた。それがわかった。
七月になって、桐島から言われた。
「前線に出る準備ができている。来週から北関東方面の部隊に配属する」
「わかりました」
「注意事項が一つある」桐島はユイを見た。
「翼が四枚ある。出力も高い。相手はそれを見て、ターゲットにする。目立つということは、集中して攻撃されるということだ。忘れるな」
「忘れません」
「もう一つ。テクノフォースの兵士は技術力が高い。ドローンの扱いに慣れろ。複数の方向から同時に来ることを想定して動け」
ユイは頷いた。ドローンの怖さはすでに訓練で経験していた。視界の外から来るレーザーが、翼の動きを乱す。翼がぶれると姿勢が崩れる。それが続くと回避が遅れる。
前線に出ることへの怖さは、正直言えばあった。しかし考えても仕方がなかった。颯太のために戦う。それだけだった。
七月の初旬、群馬の山岳地帯に配属された。
担当する区域は稜線沿いの補給路の監視だった。テクノフォースが北関東への補給路を遮断しようとしているため、それを防ぐことが目的だった。
アラタと戦闘する前の一緒に配属されたのは五人だった。全員が大人だった。ユイが一番年下だった。リーダーは田代という三十代の男だった。
田代は最初にユイを見て、少し間を置いてから言った。
「年齢は」
「十六です」
田代はそれ以上聞かなかった。翼の大きさを見ていた。それで判断したのだろうと思った。
最初の二週間は警戒任務が中心だった。稜線に出て、テクノフォースの動きを確認して、情報を送る。戦闘は起きなかった。アラタとの戦闘を除いて。
その間、ユイは周囲をよく観察した。
山の地形、風の向き、雲の動き。翼で飛ぶと、地上にいる時より多くの情報が入ってきた。遠くまで見えた。音も違った聞こえ方をした。
テクノフォースの部隊を遠くから見た時があった。ECSスーツを着た人間が数人、山道を移動していた。ヘルメットで顔が見えなかった。その中にアラタがいるかもしれないと思った。
可能性はある。群馬の前線で会ったのだから、この区域にいてもおかしくない。
しかし遠すぎて確認できなかった。
ユイは翼を引いて、稜線の岩陰に隠れた。任務の範囲外だった。接触すべき状況ではなかった。
七月の後半、初めての本格的な戦闘が来た。
テクノフォースの大規模部隊が、こちらの中継拠点を狙って動いてきた。十二人の部隊だった。
ユイの部隊は六人。数で劣っていたが、地形を知っていた。山の地形は空から動ける翼持ちの方が有利だった。
田代が指示した。
「散開。稜線を使え。一対一で戦うな。二対一以上で当たれ。ユイ、お前は後方で支援に回れ」
「わかりました」
後方は嫌だった。しかし田代の判断を信じた。前線の経験がある人間の言葉だった。
テクノフォースの部隊が山道を登ってきた。先頭の三人がドローンを展開した。木々の上にドローンが浮いた。
戦闘が始まった。
田代たちが前に出た。ユイは後方で、全体の動きを見ていた。翼を広げて、少し高い位置から見下ろした。
田代が一人と交戦した。障壁を張って、光剣で攻撃した。テクノフォース兵士がシールドで受けた。押し返した。別の方向からドローンが来た。
ユイは素早く判断した。田代の死角からドローンが接近している。急降下した。翼を畳んで速度を出した。田代の横に入った瞬間、翼を広げて光の盾を構えた。ドローンのレーザーが盾に当たった。弾かれた。
田代が振り返った。
「助かった」
「後方支援って、こういうことですか」とユイは言った。
田代は短く笑った。
「そういうことだ。わかってるじゃないか」
戦闘は三十分続いた。テクノフォースの部隊は後退した。完全な制圧ではなかったが、拠点は守れた。
ユイの部隊に死者は出なかった。
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