第25話 北の光
翌日、アラタは正式に報告した。
「七月の戦闘において、神徒連盟の戦士の中に個人的な知人を確認した。月城ユイ、十六歳。長野の修練施設出身と推定。翼四枚。戦闘能力は当部隊の平均を上回る」
報告書を読んだライカが、アラタを見た。何も言わなかった。受理した。
黒崎にも回った。翌週、黒崎から呼び出しがあった。
「月城ユイ」と黒崎は端末を見ながら言った。
「長野の施設でG1の夏から訓練。G2三月に前線参加。短期間での翼の成長が観測データに上がっていた個体だな」
「そうです」
「知り合いだと知っていたのか」
「特徴が似ていたため、知っていた可能性があると思っていました。確認できていなかっただけです」
「なぜ事前に報告しなかった」
「確認のない情報を報告することを、適切ではないと判断しました」
黒崎はアラタを見た。しばらく見ていた。
「今後はそういう判断をするな。確認前でも情報として上げておけ。こちらで判断する」
「わかりました」
「それと」黒崎は端末を置いた。
「これを聞いておきたいのだが。その知人が前線にいることが、お前の判断に影響するか」
アラタは少し間を置いた。
「影響しないとは言えません。ただ、影響させないようにします」
「影響させないようにする、と影響しない、は違う」
「わかっています」
黒崎はしばらく黙っていた。
「正直に言った。それでいい」黒崎は端末を開いた。
「お前をProject DSから外すつもりはない。能力に問題はない。ただし、次の実戦で判断が鈍れば話は別になる。そこだけ理解しておけ」
「承知しています」
それで話は終わった。
廊下に出た。
正直に言えた。それだけで少し、頭の中のものが整理された気がした。影響する。その事実を隠さなかった。黒崎はそれを聞いた上で、外さなかった。信用されているというより、使える状態かどうかを冷静に見ている目だった。それがアラタには合っていた。感情的な配慮より、事実の確認の方が動きやすかった。
七月の中旬、新たな任務情報が入った。
神徒連盟が栃木の山岳地帯で大規模な部隊移動を行っているという報告だった。首都圏への侵攻準備の可能性がある。複数の部隊が連携して対処することになった。規模は先週より大きかった。
出発前夜、アラタは屋上に上がった。
夏の空だった。東京の夜は相変わらず暗かったが、夏の星は明るかった。空気が澄んでいる夜は、戦争前に見えなかった星がよく見えた。
ユイは今どこにいるだろうかと思った。翼を持って、どこかの前線に出ているかもしれない。あるいは施設に戻っているかもしれない。どちらにしても、神を信じて動いている。家族を取り戻すために動いている。
アラタは神を信じていない。神を消すために動いている。向かう先が違う。それは変わらなかった。しかし今日、報告書を書きながらアラタは一つのことを決めていた。次に会った時、戦う。引き金を引く。戦闘として向き合う。
しかし、生きて帰ってもらう。
倒すことと、殺すことは違う。戦闘不能にすれば任務としては成立する。そこまでの精度でやる。感情で止まるのではなく、感情を変換する。失いたくないなら、死なないように戦う。そして説得してみせる。
それがアラタの出した、今の答えだった。正しいかどうかはわからなかった。しかし今夜は、これで眠れる気がした。
風が吹いた。夏の夜の温い風だった。
アラタは屋上を降りた。明日の出発は早い。今日のうちに眠る。それだけだった。
北の空に、うっすらと光が見えた気がした。翼の光なのか、星の光なのか、判断がつかなかった。
どちらでもよかった。
光があれば、位置がわかる。どこにいるかわかれば、次に向かえる。今はそれで十分だった。
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