第21話 強戦士
G2の夏が来た。
梅雨が明けた頃から、前線の様子が変わり始めた。
神徒連盟の戦士が増えていた。数だけではなかった。質が変わっていた。以前の戦士に比べて動きが速い。翼の扱いが滑らかだ。ベテランとは違う、習熟の仕方をしている個体が目立つようになっていた。新世代、と部隊の中で誰かが呼んだ。正確な言い方かどうかはわからなかったが、感覚としては一致していた。
アラタの部隊はG2の四月から、主に埼玉・群馬の前線を担当していた。神徒連盟が北関東方面から首都圏への圧力を強めていたためだ。任務の頻度は上がっていた。週に一度だったものが、多い時は週に三度になった。休息と訓練の時間が削られた。それでも動き続けた。それが今できることだった。
七月の初旬、群馬県の山麓で中規模の迎撃任務が入った。神徒連盟の部隊が南下ルートを確保しようとしているという情報だった。
山の稜線沿いに前線を展開し、テクノフォースの補給線を分断することが目的らしかった。それを阻止する。アラタの部隊に加えて、別の前線部隊が一つ合流する合同任務だった。合計十二人。
出発は夕方だった。夏の山は日が長い。日没まで二時間ある状態で現地に入った。
稜線に出た時、西の空が赤く燃えていた。雲が橙色に染まっていた。アラタはHUDで周囲を確認しながら、その色を一瞬だけ目に入れた。きれいだと思う余裕が、少しずつ戻ってきていた。それがいいことかどうかはわからなかった。
「前方、熱源複数。上空に展開中」とライカが無線で言った。
「八体。翼を広げている。こちらの位置はまだ把握されていないと思われる」
HUDに敵の位置が表示された。稜線の向こう、高度百メートルほどの空中に八つの光点が浮かんでいた。翼の輝きがHUDの熱源探知に引っかかっていた。
「散開。岩場を使え。上空からの攻撃に注意。まず前衛を処理、ドローンで牽制しながら詰める」とライカが指示した。
部隊が散開した。アラタは右翼側の岩場に移動した。高さ二メートルほどの大きな岩が並んでいる場所だ。身を隠しながら上空の敵を確認できる。背後は斜面で退路もある。
ドローンを二基展開した。岩の上に静止させて、敵の動向を観測させる。残り二基は手元で待機。
敵の八体は隊形を組んでいた。四体が前衛、四体が後衛。前衛が光の武装を展開しており、後衛は翼を広げ、武装を展開せず飛行したままだった。まだこちらを見ていない。
夕暮れの光の中で、白い翼が輝いていた。
アラタはHUDで一体一体を確認した。体格。翼の大きさ。武装の種類。一番右端の後衛の一体が、他と少し違って見えた。体が小さかった。翼は他の個体より輝きが強い。翼の大きさ、光量は祈りの出力に比例すると訓練時に学んでいた。光量からすれば格上だ。なぜ後方に配置されているのか。
「全員配置についたな」とライカが無線で言った。
「三十秒後、開始」
アラタはアームキャノンの出力を調整した。通常弾でまず牽制から始める。
カウントが進んだ。
「開始」
ドローンが飛び出した。残しておいたドローンを全て出して、四基が同時に上空へ向かった。レーザーが走った。
戦闘が始まった。
前衛の四体がすぐに反応した。
光の盾を展開した者、翼を畳んで急降下した者、横に散った者。各自がバラバラに動いた。統率が取れていた。ただの反射ではない。指示を待たずに動いている。
アラタはドローンに目標を割り振りながら、岩陰からアームキャノンを撃った。前衛の一体に向けて四発。一発が翼の付け根をかすった。戦士が体勢を崩した。すぐに立て直した。立て直す速度が速かった。
左側から光の槍が飛んできた。岩に刺さった。岩の欠片が散った。アラタは岩を回り込んで別の角度に移動した。
端の小柄な一体が、まだ動いていなかった。
後衛の中に留まったまま、翼を広げて空中に浮いていた。周囲の戦闘を見ていた。あるいは待っていた。
変だ、とアラタは思った。光量が高いということは出力が高く強い戦士ということだ。なぜ後方から出てこないのか。温存しているのか。あるいは別の役割があるのか。
考えながら、前衛の二体目に向けてドローンを二基集中させた。レーザーが一点に集まった。二体目の障壁を削り、光が散った。しかし動きが止まった瞬間、ライカが真横から突っ込んだ。ブレードアームが光の盾を弾いた。続けて胴部を打った。二体目が失速して地面に落ちた。
「一体処理」とライカが無線で言った。
前衛が三体になった。後衛の四体はまだ動いていない。小柄な一体もまだ動いていない。
戦闘から五分が経った。前衛の二体目が落ちた。別の部隊員が処理した。残り前衛二体。
その時、後衛の一体が動き出した。
垂直に急降下してきた。速かった。アラタが視認した時にはもう百メートルを切っていた。HUDが警告を出した。アラタはブースターを起動して横に跳んだ。爆発的な加速が体に刺さった。
岩場を離れた瞬間、直前の着地地点に光の槍が突き刺さった。岩が砕けた。距離を取りながら振り返った。後衛の一体が地面近くまで降りてきていた。翼を広げて飛んでいる。アラタに向かって真っすぐ目を向けていた。
小柄ではなかった。後衛の四体のうちの一体だが、最初に目をつけた小柄な個体ではない。
どこだ。
HUDで空を探した。
いなかった。
小柄な戦士が、消えていた。
アラタは即座に上空を確認した。いない。背後を確認した。いない。HUDの熱源探知が反応していなかった。光量を絞って熱源を隠しているのか。どちらにしても、位置が把握できない。
目の前の一体から視線を外せない。しかし背後が空白になった。
悪い。
直感で判断した。ドローンを全基展開した。四基が扇状に広がった。後方・左右の索敵に回す。前方の一体にはアームキャノンで対処する。
一秒。二秒。
ドローンが熱源を捉えた。上方、十一時の方向。高度七十メートル。
見上げた瞬間、光が落ちてきた。
速かった。
ブースターを最大出力で横に飛ばした。着地した瞬間に土が爆発した。光の刃が地面を抉った。自分との距離にして一メートルと離れていなかった。
体を回転させながら上空を見た。
戦士が空中で弧を描いて旋回した。速い。翼の動きが他の戦士と違った。羽ばたきのリズムが独特だった。四枚の翼をそれぞれ独立して動かしていた。
小柄だった。
アラタはHUDで計測した。身長百五十センチ前後。翼の光量は他の七体と比べて明らかに高い。祈りの出力が高い戦士だ。
戦士が旋回を終えて、アラタと正対した。
距離は五十メートル。戦士は空中、アラタは地上。戦士は光の短剣を両手に持っていた。翼が広がっている。夕日を背にしていた。逆光でシルエットになっていた。
顔が見えなかった。
しかし体型と動きが、頭の中で何かと結びつこうとしていた。アラタはその感覚を、意識して遮断した。今は戦闘中だ。根拠のない連想で判断を鈍らせてはいけない。
ドローンを二基、戦士に向けた。
戦士が動いた。
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