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神なき世界の創り方  作者: 秋源斗


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第1話-②

それからの一年は、静かな混乱の時期だった。


神の存在が観測されたことで世界の空気は大きく二つに割れた。


 一方は、これを信仰の証明として受け入れた人々だ。神はいる。だから祈れ。祈りは届く。奇跡は起きる。彼らはやがて組織化され、政治的な力を持ち始めた。神の顕現を望み、信仰によって世界を導こうとする勢力「神徒連盟」が生まれたのは観測からほどなくのことだった。


 もう一方は、これを科学的に解析しようとした人々だ。神は現象だ。エネルギーだ。未知であることと神聖であることは別の話だ。解析し、制御し、必要なら封じ込める。そう考える技術者や軍人たちが集まり、「テクノフォース」が組織されたのは、それからさらにすぐのことだった。


アラタの父は後者の側についている。


 テクノフォースの技術部門に籍を置く彼は、神のエネルギーについての研究を始めた。夕食のたびに難しい顔で端末を眺めている。


観測から一年が経った夏、奇跡が起きた。


 最初は小さな出来事だった。瓦礫に埋まった子どもが傷一つなく救出された。病院で余命宣告を受けた男が翌日には完全に回復した。どちらの現場にも強く祈り続けていた人間がいた。


 それが神の力によるものだという証明はない。偶然かもしれない。錯覚かもしれない。


しかし世界はその「かもしれない」に飛びついた。


 神徒連盟への参加者が急増した。各地で礼拝施設が建てられた。祈りの儀式が生まれた。そして一部の戦士が祈ることで身体能力を大幅に高める方法を習得し始めた。光の翼を持ち、空を飛び、奇跡の力で戦う、それが神徒連盟の戦士の姿だった。


テクノフォースはそれを危険だと判断した。


対抗手段の開発が始まった。


 ECS ― Exo Combat Suit (エクソ コンバット スーツ)。人工筋肉と神経反応加速システム、高出力兵器を備えた戦闘スーツ。奇跡には技術で対抗する。それがテクノフォースの答えだった。


世界の緊張は高まり続けた。


ある夕方、アラタとユイはいつもの帰り道を歩いていた。


川沿いの道。夕陽が水面に反射して橙色の光が揺れていた。二人が子どもの頃からずっと使っている道で、アラタにとっては景色よりも先に足が覚えている場所だ。


「ねえ」とユイが言った。


「なんだ」


「もしさ、世界が終わるってなったらどうする?」


アラタは少し考えた。


「最後まで普通に生きる」


「え、それだけ?」


「最後にやりたいことって言っても、別にないからな」


ユイは笑った。


「変なの」


「そうか」


「でも」とユイは言った。歩きながら、川のほうを見て。


「そういうとこ好きよ、アラタのこと」


アラタは答えられなかった。夕陽の色が川に溶けていくのをただ見ていた。


「ねえ、もし誰も神様を信じなくなったら」とユイがまた言った。


「神様ってどうなるんだろうね」


「消えるんじゃないか」


「えー、それちょっと寂しくない?」


「なぜ?」


「だって誰も信じてくれなかったら、いなくなっちゃうんでしょ。なんか……かわいそうじゃない」


アラタはその言葉を、軽く流した。


その時は、まだ。


その言葉が本質を正確に言い当てていることも、ユイがやがて全てを捧げることも、アラタには知る由がなかった。


夕陽が沈んでいく。


川が光を映している。


世界はまだ静かだった。


しかし静寂は長くは続かない。


神のエネルギーは人間の感情を吸収して膨張し続けていた。信仰、恐怖、憎しみ、祈り、あらゆる感情がエネルギーに変わり、神に蓄積されていく。やがてそのエネルギーが一定値を超えた時、神はこの世界に完全に顕現する。


神徒連盟はそれを願った。


テクノフォースはそれを阻もうとした。


二つの力がぶつかり合い、戦争は始まった。


天城アラタが初めてECSを着たのは、それからすぐのことだ。ユイの声を最後に聞いたのも。



これは、神なき世界を創るための話だ。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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