第9話 山の中
最初の実戦から二週間後、アラタは二度目の出撃を経験した。
今度は防衛ではなく、偵察と制圧の任務だった。神徒連盟が関東近郊に前線拠点を設置しているという情報があり、その確認と無力化が目的だった。今回の部隊は六人。ライカが引き続き隊長を務めた。
場所は栃木県の山間部だった。針葉樹林が続く山の中腹に、廃校になった小学校があった。そこが拠点として使われているとのことだった。
夜明け前に出発した。
山道を進むうちに、アラタはこの任務が前回と違うと感じた。
変電施設の防衛は相手が来るのを待つだけだった。しかし今回は、相手のいる場所に向かっていく。主導権が違う。先手を取れる反面、相手の準備が整っている場所に踏み込む。
「索敵を怠るな」とライカが言った。「山の中は音が吸収される。近づかれていても気づきにくい。HUDの熱源探知を常時起動しておけ」
六人が散開して山を登った。アラタは右翼を担当した。木々の間を進む。落ち葉を踏む音ができるだけ出ないよう、足の置き方を意識した。
夜明けの光が山の上から差し込んできた頃、HUDが反応した。前方に熱源。複数。廃校の建物の中に集まっている。
「確認」とライカに報告した。
「わかった。包囲する。各自、位置について待機」
五分後、ライカの合図で突入が始まった。
「突撃!」
廃校の正面玄関から三人が入る。アラタを含む残り三人が裏口から入る。
裏口のドアを蹴破った瞬間、中から光の剣が飛んできた。
アラタは右に跳んだ。光の剣が壁に刺さった。木製の壁が燃え始めた。
中に四人いた。全員が既に変身していた。白い翼。光の武装。狭い廊下での戦闘になった。
空中戦ができない分、神徒連盟の戦士の優位が消えた。しかし光の武器の威力は変わらない。
アラタは一体目に向かった。アームキャノンを連射した。狭い空間で、ドローンは展開できない。近距離でのやりとりになった。一体目が光の盾を出した。弾が弾かれた。
距離を詰めた。ブレードアームで光の盾を打った。衝撃で相手の体勢が崩れた。続けてアームキャノンを至近距離で撃った。
一体目を制圧した。
振り返ると、隣の新兵が二体目と交戦していた。光の剣が新兵の胸部アーマーを直撃した。新兵が壁に叩きつけられた。
アラタはすぐに二体目に向かった。アームキャノンを高出力モードに切り替えた。チャージに二秒かかった。その二秒の間、二体目がアラタに向かってくる。
撃った。
直撃した。防壁で防がれたものの二体目が吹き飛んだ。
廃校の中の戦闘は十五分で終わった。
神徒連盟の戦士、計六人を制圧した。テクノフォース側の損害は、新兵一人が重傷だった。
その新兵の名前は篠田といった。十九歳だった。アラタより一つ年上だった。搬送される前に少し話した。
「痛いっすね」と篠田が言った。笑っていた。
「そうだな」
「でも死んでないんで、大丈夫っす」
「安静にしろよ」
そう言った後、篠田は担架で運ばれていった。アラタはそれを見送った。
死んでいない。それは事実だった。しかし次は違うかもしれない。次の次は違うかもしれない。戦争がある限り、確率の問題だった。
帰路、輸送車の中でライカが言った。
「今日は全員生きて帰れた。それが全てだ」
誰も返事をしなかった。アラタも返事をしなかった。
窓の外、山が遠ざかっていく。夜明けの光が山肌を染めていた。きれいだった。戦闘があった場所と同じ山だとは思えなかった。
アラタは目を閉じた。
今日、相手の顔を見た。若かった。アラタと同じくらいの年齢の人間が、神を信じて戦っていた。
ユイも今頃、あんな顔をしているのだろうかと思った。
考えて、やめた。今は考えるべきことではなかった。
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