おっさん×幼女1:思い出した
キキー急ブレーキが掛かるけたたましい音、ドンとふつかる激しい音…悲鳴、声、多くの音、そこからもう先の記憶はどこにもない。
「って!あいたた………」
「大丈夫?バンク?」
「ったくおっさんは本当に使えねえな」
「ほんとほんと」
「いい加減にして貰いたいですね、いくら銀級とは言え」
どんと激しい音と共に飛行型モンスターに襲われ足を滑らせてしまったバンクと呼ばれた中年の男が目をぱちくりとさせ、仰向けになったままごつごつとした天井を見つめ、現在パーティを組んでいる若いメンバーから心配と呆れられてしまっていた。
そう、今現在遺跡と言われているダンジョンを攻略中、交戦中に足を滑らせてしまったまでは分る、そして自分の人生も…。
冒険者バンク、《アルテレシア》のしがない中年冒険者、御年42歳の独身の天涯孤独のくたびれた銀級というちょうど上から数えた方が早いランクのおっさん冒険者、だが別の記憶もある……と自身を振り返っている場合でもないと急いで起き上がり態勢を整える。
パーティメンバーもバンクに異常がないのを確認し足を運ぶ、後衛として戦斧を構えて進む遺跡。
両再度の身飽きた壁を警戒しつつ松明に照らされた先を眺め、バンクは足を滑らせた間に垣間見た事を反芻していく。
見知らぬ世界の見知らぬ幼女の姿、だが知っている分っている、地球という世界の日本と言う場所で平穏に家族に愛されていた幼女の人生を…。
「来るぞ!」
「ああっ!」
先頭のこのパーティ《熱杭》のリーダーの声で飛んでくる大型のコウモリのようなモンスターを戦斧で真っ二つに斬り裂く、次々襲ってくるモンスター達を屠りながらバンクは彼女の人生は嘗ての自分の人生だったと理解した。
「運び屋!回収しろ!」
「とりこぼすんじゃないわよ!」
「はいい!」
バンクが倒した魔物のドロップ品を前にいた運び屋が地面を這いつくばって必死で回収し、それをバンクが手伝う、ダンジョンでは誰も彼も命がけだ。
この《アルテレシア》という世界は生きていくのに厳しい世界だ、弱者は淘汰され強者もまた上の上に目を付けられてしまえば屠られてしまう、絶対的身分の差がある世界。
バンクは自分の前世というのだろうかそれを思い出し、こんな世界クソ喰らえと内心吐き捨てる。
「ここがボス部屋だ」
「バンク、あんたが今度は前衛よ」
「しくじらないで下さい」
「分かった」
通路の行き止まり、リーダーがボス部屋だと言いやたら宝飾品を身につけた美少女と神経質そうな青年に指示され戦斧を構え前に出る、そういう契約だから仕方ない、どうせバンクが倒しても彼らの手柄になってしまう、中年のしがないおっさん冒険者は生きる為に割り切った。
『ガォオオオン』
「バレットクロカンか、俺が囮になる」
「俺は背後に回る」
「矢で援護します」
「魔法で足元を攻撃するわ」
ボスは赤い炎を纏った殺気立つ巨大な狼、すぐさまバンクが戦斧でバレットクロカンが放つ灼熱のブレスを受け、リーダーが背後へ神経質そうな青年は矢を素早く放ち少女は隙の無い魔法詠唱で足元を崩していく。
「硬いな」
ブレスが吐かれてすぐに次の攻撃は来ない、クールタイムがありそれを利用しバンクは一気に畳掛けていく、背後や周囲を気にする暇なく攻撃を仕掛け、矢が目を撃ちバレットクロカンが苦し気に咆哮を上げ、足に魔法が入り身動きが取れないでいる内にリーダーが背後から真下へ滑り込み防御の薄い腹を一気に貫いた。
『ギャオン!』
煩い声を上げバレットクロカン塵と変わり、宝箱と出口に戻る為の帰還石とさらに奥への入り口が出現するが、宝箱の中身を確認し帰還石を使い入り口へと戻った。
「ドロップ品は全て合わせて700万ロネ、運び屋や掛かった費用を抜かせば1人100万ロネだ」
遺跡管理ギルドへ向かい報告とドロップ品の買い取りと分配が行われる、渡された金をバンクは受け取りこれで少し休もうかと思う、いまいち考えが纏まらない。
「それで、バンクあんたとも今回限りだ」
「そうよそうよ、思ったより使えないし」
「そうですね、二つ名持ちの銀級も歳には勝てないようですし」
「…………」
《熱杭》のメンバーから金と同時に解雇通達も貰う、バンクは彼らのパーティに加わった訳もない、数回遺跡ダンジョンで組んだだけだが所謂追放をされたようだ。
遺跡管理ギルドの受付もちらりとこちら見ているが、基本はパーティや契約に関して口は出さない決まりだ。
「分かった、それじゃ」
バンクはそう短く挨拶し貰う物は貰ったからとギルドを後にする、《熱杭》のメンバーは3人で行った方が取り分が多かったと零しているのこれ見よがしに言っているのをバンクは聞き流した…。
「ええ……俺、昔は女の子だったの?ええ……そして今更そんな記憶が戻っても……でもいいなー日本……ケーキとかアイスとか…」
常宿の自室に戻りベッドの上でゴロゴロしながら独り言を垂れ流し続ける、身長190㎝の鍛え抜かれた体躯、深緑の髪に前髪にメッシュのような白髪に所々黒い髪が混じっている、顔は切れ長の黒い瞳とどちらかと言えば強面と称されているバンクが甘い物に焦がれてどこかふわふわしていた。
「はあ、それに比べてこのクソな《アルテレシア》……俺はなんてアンラッキー不幸なんだ…でもあの子…小さいうちに死んでいるんだよな…可哀そうだ」
自分が生まれた世界の過酷さを嘆き、日本を羨ましく思い、そして夭折したであろう自身の前世を憐れんだ。
「どうしようか…思い出してもなあ……冒険者……いっそ止めて…」
充分生きたと思う、また死んで次は良い世界に生まれ変われる保証も、もっと過酷な世界に生まれ変わってしまうかもしれない…あとどれ位ここで生きて行くのか、少しでも長く生きようと思えば冒険者は向いていないだろう…。
「あの子…もっとたくさん遊びたかっただろうな………俺もなんだか遊びたくなって来た…お菓子も食べたいし……よし、冒険者はいったんお休みして旅に出よう」
がばと起き上がり、これから先をどう楽しんで生きていこうかを考える、1度きりの人生ではなかったが早くに死んでしまった女の子の為に少しだけもう少しだけ人生を豊かにしてみよう、たった今からバンクの『少しだけ生活をよくして行こう計画』がこうして始まった、道のりはこの世界が過酷な為前途多難だが前向きに動き出した…。




