ノワール人とブラン人
俺は言われるがままにルネの家へと招かれた
彼女の家は街を形作る大理石と同様のもので出来ており、家具は何らかの金属で出来ている
試しに触ってみたが、その感触は現世で言うアルミに近い滑らかなものだ
その他、彼女の趣味なのだろうか
部屋には何とも形容し難い白銀のダルマのような骨董品が飾られており、無骨ながら可愛らしいデザインをしていた
「気になりますか?」
「え?あ…はい」
そっと振り向いた彼女に対し僅かに驚いてしまう
やはり美女の部屋に二人きりと言う状況は、些か荷が重かったか
それを察したのか、クスクスと笑いながら彼女は人形を手に取り話始めた
「フフフ、そう緊張なさらないで?これはね、マリャーナと呼ばれる工芸品です。ニグルアルブムの前史、イエロアニス卿の時代に生きたノワール人の女性をモデルにした人形です。可愛いでしょ?」
ノワール人、恐らくは自分と同じ現世の人間だろう
全て銀色の金属で作られている為特徴は掴み辛いが、名前の響きからいってロシア辺りの女性ではないだろうか
「ルネさん、ずっと気になってたんですけどノワール人って何なんですか?」
「私もよくは存じ上げません。ですが、一定周期にこの世界に迷い込む故郷を異にする人種と言うくらいでしょうか。原住民たる我らとの区別として、異界の民は例外なくノワールと、私たちはブランと呼ばれております」
ブラン、まさに読んで字の如くだ
そのシルクのような純白の素肌を見れば誰だってそう思うだろう
「ブラン人ですか、良い響きですね」
「私はこの呼び方を好ましく思いません」
それを聞いたルネはそれまでの柔らかい表情を一変させ、暗い表情の中に激しい憎悪を見せた
「…はっ!申し訳ありません!ブラン如きが貴方様に不躾な発言を…どうか、どうかご容赦を!」
「お、落ち着いてください!別に怒って無いですから!ほら、俺だってオーストリア人って言われるのが嫌でしたし…」
咄嗟に苦しい言い訳をしてしまった
オーストリアなどと彼女に話しても分かる筈がないのに
しかし、この焦りようは異常だ
何か弱みでも握られているのだろうか
「あ、そうだ!少しお腹が空いてしまいましたね。何か食べてみたいです」
未だ不安げな彼女の気持ちを和らげる為に、やや強引に話をすり替える
考えてみればこのニグルアルブムに到着してから何も食べていない
フリードは教会の仕事があるといい金貨らしき物を5枚だけ渡して去ってしまった
食堂でも見つけて適当なものを注文しようと考えていたが、その前にルネに捕まってしまったのだ
まぁ、本望なのだが
「…承知致しました。誠に申し訳ありません」
そう言い彼女は家の地下倉庫へと向かっていった




