赤髭の将軍
生臭い血の臭いに意識が覚醒する
最初に感じたのはしっとりした苔のような瑞々しい植物
次に感じたのは氷のような金属片
最後に感じたのは自分に覆い被さる肉の塊だ
「将軍閣下!どう頑張ってもあの棘の壁は突破出来ません!撤退のご決断を!」
(将軍、撤退?なんの話だ…俺は昨日まで森にいた筈だが)
バキリと鈍い音がしたと同時に、誰かが倒れる音がする
熱い怒りに満ちた吐息がここまで空気を伝い感じられた
「突破出来ない壁などない!兵員を増やせ!」
他人の感情には比較的敏感な方だが、これはスキル関係なしに理解できる
この男はその壁とやらに苛立っているのだ
壁と言えば隣国との国境沿いに壁を建設すると言う噂を聞いたことがある
(そうか、分かったぞ。俺が今いるのは浮浪者用の強制収容所だな…)
意識がハッキリしていくうちに思考も明瞭になって行く
それと同時に、それまで気にしていなかった自分の物理的状況に気づき始めた
血の臭い、冷え切った肉、そして自分を見つめる虚な瞳
「うわぁぁあぁぁぁぁあぁ!!!!!」
死体だ、死体の山だ、景色の全てを覆いつくす死体の山の中に俺はいた
何故、どうして、何の為に
「なんだ、生き残りがいたのか」
「ば、バカめ…何故に出てきた!?」
参謀らしき黒装束の男が自分の前に立ちはだかり、将軍と呼ばれる赤髪の男を牽制する
混乱する脳内の中、自分がまずい状況にあることだけは理解できた
「別に何もせぬわ……いや、待てその目…」
将軍は自分の目をマジマジと見つめてくる
よく見れば彼の瞳は煌めく黄金の中に渦巻き模様という奇妙なものだった
そして、今自分に背を向ける黒装束の男もまた同じ紋様を持つ
(血族か何かか?)
その疑問にいち早く答えたのは黒装束の男だ
「この者に神卸の儀は耐えられません、恐らく遠方から流れ着いた旅人でしょう」
「ふむふむふむ、確かにその見窄らしい出立ち……祖国の人間にしては些か低俗すぎる、な。しかし、不思議な格好だ」
よく見れば将軍と呼ばれる男の服装も現代ドイツには見られない格好だ
白い純白の布に黒いファーコートが施された素人目にもわかる上質なもの
しかし、手を覆う装甲が彼が戦士である事を如実に語っていた
「貴様、出身はどこだ?」
「こ、この者は覚えていないのです。のぉ旅人どの?」
何やら不穏な雰囲気だ
なぜこの男達は自分の出身地にこだわるのだろう
それに、伝統衣装とも見て取れるその格好……
「お、覚えておりません…」
静寂が訪れる
赤髪の将軍はその立派な顎鬚を撫でながら考える素振りを見せる
「まぁ良い、丁度加護なしの男を探していたところだ。ついてこい」
俺は将軍に手を引かれ死体の山を後にした




