ラティナのルーツ 白飯は微妙!?
暫しの間、二人で笑い合った後
何やら石釜から焦げた臭いが漂って来る
言い出そうか迷ったが、会話が面白すぎで後回しにしてしまった
「…でね!イヴァンが、スンスン…なにこの臭い」
ようやくラティナが異変に気づく
エルフであれば嗅覚は鋭いものだと勝手に思い込んでいたが、案外そうでないのかも
「…あー、多分石釜の奴ですね」
「早く言ってよぉ!!」
ブンッと勢いよく振り返ったラティナは不恰好な走り方で石釜へと駆けていく
グツグツと沸る鍋を開けた中からは白い豆粒のような物がふっくらと炊きあがり、周囲を縁取るように黒い焦げがこびりついていた
「貴重なお米がああ!!!」
米
確か東洋のパン
祖国にもある事はあったが、あまり進んで食べようとはしなかった
というか、食べた事がなかったのだ
見た目は美味しそうだが、友人からは
“凄く惨めな気分になった”
と評価は散々でその時の記憶が未だに脳裏に焼き付いている
「トホホ…せっかく異世界人のお客さんが来たんだから張り切って作ったのに」
これまでの会話で何となく理解したが、彼女の現世側のルーツはアジアのどこかだと言う事
故郷の味と言って米を出す時点で大体想像はつくが
「ごめんね?食べれる所だけ盛っとくからさ」
ラティナは炊き上がった米をお椀に丁寧に盛り付け、そっと目の前に置いてくれた
「ほい白飯!異世界人はこれが好きなんでしょ?」
「あ、ありがとうございます!」
友人からの評価は散々だったが、見た目は10点満点中11点だ
ラティナが作ってくれたという補正もあるだろうが、それ以上に艶やかでしっとりした白米は食欲を唆る
出された2本の棒切れを鷲掴みにし、何とか口に運ぶ
生まれて初めてのアジアのソウルフード、米
その味は…
「…甘い、ですね」
それ以上でもそれ以下でも無い
確かに食べれる
全く不味くはないし、寧ろ美味な部類だろう
しかし、感動するほどのものでは無い
確かに、これでは惨めな気持ちになるというのも納得だ
正直適当なレーズンパンの方が遥かに美味い
(…うーん、あまり感動的って程でもないなぁ。ハッしまった!これ失礼に当たるんじゃ無いか?)
ルーファウスはようやく自分の失態に気づく
ラティナと話している内に、擦り減った心の溝が埋まってゆき現世と同じような感覚で話してしまった
恐る恐る、ラティナの方を見つめるが
彼女は更なる感想を求めて今か今かと待っている
(これは美味しい!って言うべきなのか?いやでも…ラティナってそう言うタイプじゃないよな。多分ハッキリ本音で言って欲しいタイプだ)
少し話しただけだが、彼女はお世辞や探り合いのような会話をとことん嫌う傾向にあった
自分としては寧ろやりやすいが、現世ではそれが災いして他人と関係を築く事に失敗した
選択を迫られる
本心の感想
微妙と答えるか
偽りの感想
とても美味しいと答えるか
一瞬の逡巡の内、決心する
彼女の前では決して自分を偽りたく無い
故に
「不味くは無いですが…素朴な味ですね…」
(言った!言ってしまった!どうしよう…やっぱりここはお世辞を言うべきだったか?最大限オブラートに包んだつもりだけど、やっぱり失礼だったか!?)
言った後で猛烈な後悔に襲われる
やっぱり失敗した
だから俺はダメなんだ
こうしていつも他人を怒らせる
本当にダメな男だ
謝ろう、今すぐに
「ごめんなさい!凄くおい──」
「そうよね!ぶっちゃけ全然美味しくないわよね!」
「………へ?」
刹那、混乱と安堵の奔流がルーファウスの心を掻き乱す
返ってきたのは想像とは正反対の、共感の声
「そうなのよ…あ!私ね?父親が”ニホーン”って言う国の出身でその人達のコミュニティで育ったの!だけど、そこの人達は白飯を美味い美味いって狂信者みたいに讃えるのよ!全然美味しくねぇつーの!」
途端にラティナが先程にも増して饒舌になる
この感覚、覚えがある
そして、この次に来る言葉も
「…あっゴメン、つい喋り過ぎた。聞いてないよね私の生い立ちとか、白飯がどーとか故郷が…そのゴメン忘れて?」
同類だ
彼女も他人と同調を求められ、抑圧されながら生きてきた陰者
共感される事に慣れてないから、少しでも趣味が被ると同胞反対し途端に喋りまくる奴だ
そして、気付いた時には話し過ぎて疎まれている
まさしく彼女はその典型だった
「日本は全体主義の同調圧力の典型ですからね」
「……ッそう!そうなの!”ぜんたいしゅぎ?”ってのは分からないけどそうなのよ!仲良くする事よりルールを守る事を強制されるし…もしかして貴方も”ニホーン人”!?」
「いえ、ドイツ人のルーファウスです」
異世界にまで来て初めて出会う本心で会話できる異性
それは、ルーファウスもラティナも同じ
彼女に恋心を抱くのにそう長い時間はかからなかった




