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064 オジサンと急な決戦

 壊れた壁から、深紅の満月が覗いている。

 月明かりに照らされた漆黒のドレスのシルエットが、やけに華やかに見えていた。


「は!? ちょっとっ、ここどこ!?」

「……どうして」


 ワッと声の上がる方を向けば、少し離れたところで聖女さんとルナーが身を寄せ合っているのが見えた。

 二人も俺に気が付いた様で、慌てた様子で駆け寄ってくる。


「ねぇ! 貴様等、どっから入ってきたの! ここは余の玉座なんだけどっ!」


 眼前の少女・フルムーンはローズピンクの髪を揺らしながら怒りを露わにする。

 どこから来たのかと聞かれても、俺にも答えることが出来ない。言葉に窮していると、俺の真横に付いたルナーがフルムーンをきつく睨みつけていた。


「兄様よ……! きっと兄様がここに私達を導いてくれたのよ! アンタを倒す為に!」

「倒すぅ~? きゃーっ★ 力も何もかも余に吸われた雑魚が、ほざかないでくれるぅ?」


 フルムーンの深紅の瞳がぎらりと光る。

 途端、ぶるりと全身に悪寒が走り、体の力が抜けていく。

 ルナーもまた低く呻き声を上げ、その場に膝を着いていた。

 まさか、これがルナーの言う魔力を吸われるという事なのか――!?


「ほぉら、ザァ~コ♡ ついでにぃ、手足もいで逆らえなくしちゃえっ☆」


 きゃらきゃらした声とは裏腹に、殺意に満ちた言葉に俺は急ぎ二人を背に庇う。

 フルムーンの言葉に反応してか、四方から魔物が姿を現した。

 その数はザッと見積もって四十、五十……いや、もっとか。

 広くも無い玉座の間は、あっという間に魔物で埋め尽くされてしまった。


「ガァァァァアッ!」


 巨体のトロールが咆哮を上げ、それを合図に魔物が一斉に俺達に飛び掛かる!

 剣を抜くと同時に、三体のゴブリンの首を刎ねる。

 返す剣でオークを貫き、引き抜いて更に上空から迫るハーピーの胴を斬った。


 座り込んだままのルナーと、魔銃を構えた聖女さんを守る為、ステップを踏むようにして移動しながら剣を振り続ける。相手の数も質も何という事はないのだが、体がやけに重たいのが気に掛った。

 フルムーンによって常に魔力が吸われている……という事だろうか。


「オアァァアーーッ!」


 早々に業を煮やしたのか、トロールが叫び声をあげ、魔物達に発破をかける。

 一斉に騒がしくなった魔物達が、俺達に向かって地上と上空どちらからも攻めてきた。


 身を低く沈め、一歩踏み込み剣を振り抜く。

 突進してきた魔物の首が飛ぶと同時に、真空の刃が後列の魔物達を切り裂いた。

 そのまま魔力を刃に纏わせて、その刀身を伸ばす。剣身の伸びた剣を、身を翻す勢いで振り抜いて右手側の魔物を斬る。伸びた刃に巻き込まれ、魔物達が次々と灰になっていった。


「ひぇぇえっ!」


 聖女さんの悲鳴にハッとして顔を上げると、眼前に鋭い爪が幾つも迫る。

 剣を横向きに掲げ爪を受け止めると、キンッと甲高い音が響いた。


「こっちくんなぁー! って、弾出ない! なんで!?」


 そりゃ、集中出来ていないからだろうさ……!

 ハーピーの爪を押し返し、足を斬り落とす。

 急いで聖女さんの正面に回るが、後方からも上空からも攻撃が止まない。

 俺一人であれば玉座の間を壊してでも全て薙ぎ払うが、聖女さんとルナーが居てそれは危険すぎる。何よりも、思った以上に魔力が奪われてしまっている――!


 一瞬の思考の間に、頭上が陰った。

 津波の様に押し寄せる魔物に舌打ちを溢すと同時に、目の前に一筋の光が走った。


 走る光の線に合わせ、魔物の胴体が真横に斬り裂かれる。

 きらりと光る刃のその奥に、一人の剣士の姿を見た。



「女神よ! 御身をお守り致す!」



 漆黒の鎧に身を包んだイザヨイが、突如として乱入してきたのだ。

 イザヨイは即座に鎧を剣に纏わせ、剣を巨大化させる。目にも止まらぬ速度の振り抜きで、一瞬にして刃の範囲の魔物を斬り伏せてしまった。


 これには流石のフルムーンも驚いた様で、それまで浮かべていた余裕の笑みを崩して声を荒げて騒ぎだした。


「ちょっと!? イザヨイ!? なんで魔物を斬ってるの!? お前が倒すのはそっちじゃないでしょーッ!?」

「このような場所、女神には似合わない。故に、当方が守らなければならない」

「女神!? 女神ってなんなのっ!」


 魔物を斬る手を止めないイザヨイの言葉に、フルムーンはキッ! ときつく聖女さんを睨みつける。


「知らんし! 私に聞くな!」

「あぁ、その屹然とした態度! やはり女神!」

「混乱招くだけだから! でも、助けてくれてありがとう!」

「お、おぉ……っ! 女神からのお言葉、身に余る光栄! 当方、女神の為に戦うと誓おう!」


 目の前で繰り広げられる軽率な裏切り劇のお陰で、こちらとしては大分楽になった。二人がかりであれば、俺が弱体化していたとしても問題はない。

 聖女さんとルナーを挟んで背中合わせになるようにして、俺とイザヨイは剣を振るった。


「……もーいい★」


 剣を振り下ろす刹那、フルムーンの低く怒りに満ちた声が響いた。

 先程感じた悪寒よりも尚強い寒気を感じた途端、どうっと体全体が重たくなる。


「なんだ……っ」


 上から万力で押し潰されるような重圧に、とてもではないが立っていられず膝を着く。

 それまで削られるような感覚で減少していた魔力が、搾り取られる様に一気に体から抜けていった。


 ガランと何かが落ちる音がする。

 視線を向ければ、剣を落としたイザヨイもまた同じように膝を着いていた。剣に纏わせていた鎧は液体の様にどろどろと崩れ、床に黒い水溜まりを作っている。魔力が枯渇し、鎧の形状を保つことが困難であることが伺えた。


「余に逆らうなら、イザヨイもいーらないっ★ 魔王の血肉っていうのも、良く考えたら死んでたっていいよねっ!☆」


 魔物にとって魔力とは、生きるためのエネルギーに等しい。

 半分魔物の血が流れている俺にとっても、このフルムーンの魔力の吸収、或いは奪取と言っても過言ではない攻撃は堪える……! しかし幸いなことに俺の体の半分は人だ。故に耐えられるのだから、早く立ち上がらなければ……!


「死んじゃえ☆ 雑魚共~~っ!!」


 正面に向けて伸ばされたフルムーンの手から、膨大な魔力の気配を感じ取る。

 手の平の前で一塊の紅い球体に収縮していく魔力を前に、俺はふらつきながらも立ち上がって剣を構えた。


 ダンッ!! と大きな破裂音が響き渡る。


 その音の出所は、フルムーンの魔力の塊でもなければ、俺でもない。

 後方で構えられていた、聖女さんの魔銃から射出された弾丸の音だった。

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