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058 オジサンと道化師再び

 「返せよテメェ! そりゃ俺様ンだぞ!」


 ふらつきながらも立ち上がり、怒りを爆発させたバスタード王がタルフに詰め寄る。しかし、タルフの胸元を掴もうとした手は一瞬にして炎に包まれた。


「だぁぁぁあっ! クソがッ!!」


 レッドドラゴンから吐き出された火炎がバスタード王の腕を焼いたのだ……!

 バスタード王は急ぎ転がり腕の火を消すも、ドラゴンが放つ高温の火炎は無残にもバスタード王の腕を黒焦げにしてしまっていた。


「もうアンタに用はねぇっス。大人しくしててくれたら、それ以上痛い目は見ないっスよ?」

「テメェ……コロスッ!」

「駄目だ! アンタはもう動かない方が良い!」


 殺意を剝き出しにするバスタード王の肩を掴み、引き留める。

 体全体が痛むのか、バスタード王は呻き声を上げてその場に膝を着いてしまう。

 バスタード王の姿は一番最初に出会った時と同じ、人寄りの姿にまで戻っていた。タルフによる強化の魔法も解けてしまい、感じられる力も弱々しいものとなっている。

 これ以上、バスタード王を戦わせるわけにはいかない。


 俺は一歩前に出て剣を構える。

 ドラゴン二体と強化されたタルフの相手は骨が折れそうだ……。

 そう思った矢先、俺の真横にオーガが着いた。


「反逆者。竜は我が獲物とする。貴様は小僧を処せ」


 思わぬオーガの言葉に驚いてしまう。

 コイツ、協力してくれるのか? 

 ……あぁ、いや違うか。オーガからすれば、ドラゴンという強敵を倒す事が大事なんだ。

 理由はどうあれ、ここは利用しない手はない。


「……分かった。ドラゴンは任せた。あぁ、でも殺さないでやってくれ。二体とも、本当は悪い奴じゃない」


 オーガは答えず、無言のままドラゴンに向かって突き進む。

 こちらに対して殺意を向けているとはいえ、二体とも恩のあるドラゴンだ。

 殺される前に逃げてくれる事を祈るしかない。


 助走もなにも無くオーガが跳ねる。

 たった一蹴りでレッドドラゴンの眼前まで飛んだオーガは、握った拳を早速レッドドラゴンの顔面にぶち込んだ――!


「ガァアァアアァッ!」


 レッドドラゴンの怒り狂った声が響き、呼応してブルードラゴンも叫び声を上げる。

 二体のドラゴンが巨大な両翼を広げ、宙に舞う。

 レッドドラゴンの頭を蹴り、オーガは更にブルードラゴンにも襲い掛かっていった。




 上空の死闘が始まると同時に、俺は抜いた剣を下に構えてタルフと向き合う。

 最早言葉を交わす時間は過ぎてしまった。

 剣と剣で打ち合うしかないのだと、同じく双剣を構えたタルフを前にして思う。


 先に仕掛けたのは俺だった。

 トンッと地面を蹴って、一直線にタルフへ向かう。

 横薙ぎに一閃、振り抜いた剣はキンッと音を立てて真上に弾かれる。


 剣が弾かれ丸出しになった俺の懐に、タルフが短剣を突き出してきた。

 俺の知るタルフからは想像できない速度の突きを、身を捻って寸でのところでかわす。


 かわすと同時に剣を振り下ろし、タルフごと斜めに袈裟に斬る――!


 しかし振り下ろした剣は、驚異的な速度で掲げられたタルフの双剣に食い止められてしまった。

 ギチギチと音を立てながら押し合うも、タルフの剣はびくともしない。

 コイツ……相当な強化魔法を自身に掛けてるな……っ!


 押し合いでは埒が明かないと踏んで、剣を引き抜き態勢を立て直す。

 タルフも一歩後ろへ下がり、仕切り直しの様相を呈していた。


「……ははっ、俺、師匠と渡り合ってるっス……!」


 正気を失ったかのような顔でタルフが笑う。

 その背後で暴れ狂うドラゴンとオーガの喧騒を遠くに感じながら、俺は剣を静かに構えた。


「勝つっス、勝って、特別になるっス……! 俺も!」


 低い前傾姿勢から、タルフがダンッと地面を蹴って飛び出した。

 軽快な足音が前後左右、縦横無尽に広がる。

 俺の周囲を高速で移動し続けているタルフの居場所を特定するのは、非常に困難と言えた。


「はははっ! どこ見てるっスか師匠! ここっスよ!」


 背後からの声に身体を傾ければ、短剣を構えたタルフが飛び掛かってくるのが見えた。眼前に短剣の先端が迫り、あと僅かで眉間に届く。


 しかしタルフの短剣は俺に届かない。


 届いたのは俺の剣だ。


「グゥ……ッ!」


 タルフの低い唸り声が耳に届く。

 向きを直し視線を下に向ければ、俺の剣に肩を貫かれ、苦悶の表情を浮かべるタルフが居た。

 斜め下に突き出した剣が、タルフの右肩を突き刺したのだった。

 背後からの攻撃は囮であり、本命の攻撃は正面からの奇襲だったという訳だ。


「速さも申し分ない。気配の消し方も上手い。が、直前に殺気を出したらバレるだろ」

「クッ……、まだまだっス!」


 俺の剣を強引に引っこ抜き、タルフは手にした短剣を俺に向けて振り抜いてくる。

 肩の怪我が影響しているのだろうか、左で握った短剣はまだしも、右の短剣は大ぶりで振り抜きも甘い。先ほどまでの重さも感じられず、容易に受け止めることが出来た。


「クソッ! なんでっ、当たんねぇっスか!」

「狙いが雑だからだ。狙うなら――」


 同時に振り下ろされるタルフの短剣を、頭上で横に構えた剣で受け止める。

 ふっと息を一つ吸って、両足に力を籠める。

 下半身をバネにして腕を跳ね上げ、タルフの短剣を勢いよく押し返す。

 勢いに押されバランスを崩したタルフの首筋に、剣の刃をあてがった。


「ここだ。首を狙え。じゃなきゃ、倒せん」


 タルフの顔が歪む。

 恐怖、絶望、怒り。それらを綯い交ぜにした顔付きを向けられて、俺は何も言えなくなった。


「どうして……っ、俺っ、強くなったのに……ッ」


 震える声を上げながら、一歩二歩とタルフが後退る。

 その背後の空間が歪んでいる事に気が付いて、俺は思わず目を見開いた。




「当たり前デスヨォ! アナタ、所詮、下位種なんデスカラァッ!!」




 足の裏で地面を踏みしめ、一気に駆ける。

 タルフの肩越しに剣を突き出し、けたけたと笑いながら姿を現したニュームーンの顔面に突き刺す!


「ギャー! ちょっと! 挨拶も無しにコレは酷いデスヨッ! ルール違反デスッ!」


 剣を顔面に突き刺されたにも関わらず、ニュームーンは平然としゃべり続けている。


「ンモー。セッカチなのはいけませんネェ。だからこんなミスをするのデスヨ?」


 真横からの声にぞわりと鳥肌が立つ。

 しまったと思った瞬間に、俺の体は地面に押し付けられていた。


 空間を操るニュームーンの術により、俺と地面の空間が歪められてしまったのだ。

 その結果、重力は正常に機能せず、俺と床に引力が発生してしまった――!

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