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057 オジサンと裏切り

「ガァアアァァッ!!」


 雄叫びを上げるブルードラゴンの体が、重力に引かれて落ちていく。

 巨体はあっという間に落下して、闘技場の舞台に大きな音を立ててぶつかった。


 隣を見ればレッドドラゴンも同様、バスタード王により叩き落されていた。

 ブルードラゴンに遅れて、レッドドラゴンも音を立てて地に落ちた。

 そして当然ながら、俺も重力に逆らう術を持ってはいない。

 欠片から魔力の供給が切れてしまったのか。

 一気に重さを増した体は、俺の意志とは無関係に地面に向かって垂直に落ちていく。


「ぬぉっ! クソ、何だァ!? 体が……動かねェ!!」


 レッドドラゴンを叩き落したバスタード王もまた同様に落ちていく。


「魔王の魂の欠片の力を使った反動だ……っ」

「反動だと!? ンなもんあるなら早く言えよ!」

「そんな暇、無かっただろ!?」


 この期に及んでギャアギャアと騒ぐバスタード王と言い合う間にも落下は進み、地面が目の前に迫る!

 衝撃を和らげようと足掻きたくとも、上限以上の魔力を引き出した為か体が上手く動かない。


 まずい――!


 バスタード王の悲鳴と共に、衝突の痛みに身を強張らせたその刹那。

 ふわりとした感触に、体が包まれた。


「オォ? ぶつかってねェ……?」

「これは……」


 見れば、俺とバスタード王の下には透明なふわふわとしたクッションが引かれていた。落下の衝撃はクッションにより吸収され、俺達は地面への衝突を免れた様だ。


「全く、僕がいなかったらどうしてたんですか?」


 少し離れたところから、杖の先端をこちらに伸ばしたカイルが呆れていた。

 どうやらこれは、カイルの魔法で作られたエアクッションの様だ。


「すまん、助かった……!」

「流石、大神官様だぜ! やっぱアンタも嫁さんになれよ!」


 チャキッと音を立てさせながら、カイルは杖の先端をバスタード王へ向ける。

 この状況で光線を食らうのは流石にまずいと察したのか、バスタード王は大きな声ですまんと謝った。

 何かコイツ、めちゃくちゃ元気だな……。


 どうにか体を起き上がらせて、ボロボロになった闘技場の上に立ち上がる。

 レッドドラゴンとブルードラゴンの火炎と水により、闘技場も観客席も激しく破壊されている。堕ちた二体はまだ横になったままだが、すぐにでも起き上がるだろう。


「タマ……タマはどうした!?」


 ドラゴンの怒りの理由ともなったタマの容態を尋ねると、カイルは酷く険しい顔をして片腕でタマの体をぎゅうと力強く抱きしめていた。

 まさか……タマ……?

 頭の中を真っ白にしながら、タマに駆け寄る。

 足を縺れさせながら駆け寄ると、いつもよりもずっと白いタマの顔に血の気が引いた。


「出血は止めました。ですが……血が流れ過ぎています。聖女様はどちらに?」

「さっき避難していたところだ。下に降りてくるに違いない」

「分かりました。僕がタマくんを聖女様の所へ連れて行きます。ここは任せても?」

「あぁ。タマを頼む……。合流したら、聖女さんとルナーを守ってくれ!」


 力強く頷いたカイルが、タマを抱えて出入り口まで転移する。

 転移魔法は高等技術に値する。一人で転移するだけでも難しい魔法を、もう一人抱えて行うのだからそれなりの負担が掛かっている筈だ。タマの為にもカイルの為にも、一刻も早い聖女さんとの合流を祈るばかりだ。


 既に見えなくなったカイルの背を見送って、俺はバスタード王を見る。

 まだダメージの残るバスタード王は横たわったまま、ひどく困惑した顔で俺を見ていた。


「こうなっちまったら決闘は中止するしかねェや……クソッ、あの弟子の野郎!」

「……そうだ、タルフは?」

「此処だ……」


 低い声色にハッとして視線を向ければ、それまで微動だにしなかったオーガがタルフを捕えているのが見えた。

 仁王立ちのまま右手だけでタルフの顔面を鷲掴み、タルフの体を軽々と宙に浮かせている。その顔には、震えるほどの怒りが滲み出ていた。


「小僧。貴様、誰の使いだ」

「グゥッ……!」


 ギチギチと……。

 離れていても分かる、タルフの頭蓋骨が軋む音に思わず顔を背けたくなる。

 しかし今のオーガの言葉は奇妙だ。


「待て、タルフはお前の部下じゃないのか?」


 オーガは静かに縦に首を振った。


「だが小僧の使いし技、我の教え、反逆者の教え、そのどれとも合致せぬ。これは、道化の教えか」

「ニュームーンだと!?」


 どうしてタルフとニュームーンが繋がるんだ!?

 思わぬ名前の登場に目を見開いていると、不意にタルフから震えた声が上がった。


「だったら……どうするってんスか!?」


 絶叫にも似た叫び声と共に、タルフの姿が一瞬にして消える。

 タルフの顔面を掴んでいたオーガの手が空を握り潰した。


 どこへ消えたのかと視界を巡らせれば、未だ倒れたままのバスタード王の真横にタルフは姿を現した。素早く身を屈めたタルフは、バスタード王の首元に手を伸ばす。


「オイこらァ! 何すんだテメェ!」


 まだ体を動かせないのか、バスタード王は横たわったまま口先だけでタルフを威嚇していた。

 しかしタルフは眉一つ動かさず、バスタード王の首元に短剣をあてがい……。


「おっ、おい! 待てタルフ!」


 事情ぐらい話してくれたって良いだろう!?

 手を伸ばし、目の前で行われようとしている凶行を止めようと駆け寄る。

 しかしタルフの手は止まらない。

 まるでスローモーションの様に見える世界の中で、タルフはバスタード王の首からぶら下がったチェーンを掴み、短剣でそれを千切ったのだった……!


「……っ!? しまった!」


 本当にタルフがニュームーンの配下なのだとすれば、欠片を狙うのは必然だ!


「やったっス……手に入れたっスよッ!!」


 チェーンごと欠片を手にしたタルフは、口元に歪な笑みを浮かべて立ち上がる。

 高々と掲げられた三つの魔王の魂の欠片が、眩しく光を放つ――!


「待て! タルフ! お前、何考えてる!」

「勝つっス! これで、俺も特別な存在になるんスよッ!」


 タルフの切実な叫びと欠片の輝きに呼応して、二体のドラゴンが身を起こす。

 まるでタルフに寄り添うように両隣に付き従い、俺とオーガを睨みつけていた。


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