055 オジサンと熱戦/タマの戦い
振り下ろされる爪の破壊力は、暴力としか言いようがない。
単純な力だけでいえば、オーガに並ぶのではないだろうか。
「力が漲るぜッ! あの弟子、やるじゃねぇか!」
ただ力が強いだけならまだしも、速さもある斬撃はこちらに防戦を強いてくる。
「クラトス様ッ!」
絶え間なく響く剣と爪による剣戟の中、カイルの声が響いた。
ハッとすれば俺の真横に転移してきたカイルと一瞬、目が合う。
カイルは手にした杖の先端をバスタード王に向け、それから無言で光線を放った。
あまりの眩しさに思わず一歩引き、目を細める。
極至近距離からの高火力魔法による一撃。
俺との打ち合いに夢中になっていたバスタード王は、防御する暇も無く直撃を受けたハズだ。
「効かねェぜーッ!」
しかしだ。
バスタード王は全身から煙を上げながらも、全く意にも介さず掲げた両手の爪を振り降ろしてきたのだった!
トンっと軽く地を蹴り下がったカイルは、離れた位置にいるタルフをきつく睨みつけていた。
「クラトス様、まずはタルフ君を倒しましょう。魔法による防御壁、それと彼が先ほどからバスタード王にかけている強化魔法が厄介です」
「分かった」
カイルは一目で見抜いてしまった様だが、どうやらタルフがバスタード王に補助魔法を掛け続けているらしい。
補助魔法とは読んで字の如く、対象に掛けることで身体強化を可能とする魔法だ。
簡易的な物であればそこまで珍しくはない魔法なのだが、バスタード王の強化具合を見るにその練度は非常に高いと言える。
タルフの奴、いつの間にそんな高度な魔法を身に着けていたんだ……。
どうしてその力を今日まで黙っていたのか、気に掛る事はあるが考えるのは後だ。
俺とカイルはバスタード王の両脇からすり抜け、タルフの元へ向かおうとする。
しかし、それを許してくれるほど甘い相手では無かった。
「アンタ等の相手は俺だぜェッ!」
グッと素早く伸びてきたバスタード王の手が、俺とカイルの顔面を掴む。
視界が遮られたと思った次の瞬間、足が宙に浮き、体が後方に物凄い勢いで引っ張られる――!
耳元で瓦礫が崩れる音を聞きながら、背中に強い衝撃と痛みを感じた。
俺とカイルは二人揃って、闘技場の床に叩きつけられてしまった。
「立てよッ! こんな程度じゃあ、アンタ等沈まねェだろう!」
「当然ッ!」
「当たり前だっ!」
俺とカイルは同時に跳ね起き、バスタード王に飛び掛かる。
剣先で突くも避けられまた爪を受ける中、視界の端に未だに腕組をしたまま微動だにしないオーガの姿が見えた。
※ ※ ※
早く助けに入らニャいと!
そうは思っても、あの三人に混ざることはミィには出来ニャい。
力の差があり過ぎるニャ。
そもそも、王さまは一度もミィを見ていニャい。
ミィが弱いから、相手にする必要もニャいって思ってるんだろうニャ。
正しいニャ。ミィは王様よりも、大神官さまよりも、ご主人よりも弱い。
弱いから相手にされニャい。
だから、今のミィはご主人と大神官さまよりも自由に動けるニャ!
大神官さまが、タルフを先に倒すって言ったのが聞こえたニャ。
タルフは両手を前に伸ばして、ずっとニャにか集中している様子だニャ。
あれが魔法を使ってるってことニャら、まずはそれを止めるニャ!
ドキドキしながらミィは身を低く沈めて、地面を強く蹴っ飛ばした。
今までで一番早く動けているニャ。
ご主人と王様の真横を通り抜けて、先へ急ぐニャ!
「タマ!?」
「タルフはミィに任せるニャ!」
「オォ!? なんだ、リャンクスか!」
じゃあ良いやと王さまがミィを笑った。
ニャー! 馬鹿にされて腹立つニャ!
その油断が大失敗だって、思い知らせてやるニャ!
「ニャー! タルフっ、覚悟するニャー!」
爪をシャキンッと尖らせて、一気にタルフとの距離を詰めるニャ!
振りかぶって、速さに乗せて一気に切り裂く――!
「振りがデカすぎるっス。そもそも、真正面からだと奇襲にならねぇっスよ、タマ」
タルフに向かって振り抜いた爪は、スカッと空ぶってしまった!
ニャ! タルフが消えた!?
「後ろっスよ」
「ニャーッ!?」
うニャー! 背ニャかが痛いニャ!
せニャかを触ると、真っ赤な血がミィの手に付いた!
ミィの背後に回ったタルフに、思い切り斬られたニャ……!
「ウニャ……タルフ、早いニャ……そんなニャに早く動けたのかニャ……」
「俺自身にも強化掛けてるっスから、ね……!」
タルフが手にした短剣でミィを斬りつけてくる!
危ニャい! ミィはころころ転がるようにタルフの剣を避け続ける。
でも、タルフの動きはミィが知るよりもずっと早くて、全然かわせないニャ……!
腕も胴も、ほっぺたからも血が飛び出す。ニャ、痛いニャ~!
たまらず爪を振るえば、タルフは身を軽くひねっただけで避けてしまったニャ。
ニャ……ミィはタルフよりも弱いニャ。
だってタルフが爪の使い方を教えてくれた、先生ニャ。
無駄に振っても避けられるだけニャ。だったら、ミィの特技を活かすニャ――!
両手の爪を胸元でクロスさせ、身を低く低く沈める。
地面にくっついて、はニャれニャくなるくらい。
まだまだ、まだまだ……地面スレスレまで前傾姿勢に身を縮めて、今ニャ!
聖女さまの魔銃から飛び出す弾丸みたいに、ミィの体も勢いよくタルフへぶつけていく。
「ニャァアァァっ!!」
ここニャ! タルフの足が目の前に迫って、ミィは胸の前でクロスさせていた爪を素早く開いた!
「ニャ……?」
おかしいニャ。足を裂いたはずなのに、カンッて音がしたニャ。
ニャんで、どうして。
「……低姿勢からの高速突撃、流石に避けられないから防御壁、張らせてもらったっスよ」
「ニャッ! ずるいニャ! タルフ卑怯ニャ!」
「タマ、残念っスけど、戦いにずるいも卑怯もねぇんスよ……だから、」
ドンッと、背ニャかにさっきの非じゃない痛みが走る。
体から力が抜けて、その場に倒れ込んでしまったニャ。
痛い。痛いニャ。背ニャかが、とっても痛い、ニャ……。
「恨みっこ、無しっスよ」
怖い声をしたタルフの手に握られた、銀色の短剣。
その先っぽに付いた真っ赤な血を見て、ミィは理解した。
ミィは、タルフに思い切り刺されてしまったのニャ……。
眼の中が真っ暗になっていく。あれ? もしかして、ミィ、死ぬニャ……?
「タマっ!」
「タマくんッ!」
遠くからご主人と大神官さまの声がするニャ。
でももう、答えることも、出来ニャい……。




