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054 オジサン対王

「まさかタルフ君が向こう側に付くとは……」

「ニャア……タルフ、どうしてニャ……」


 決闘開始を直前にして控室に通された俺達は、仲間だと思っていた相手の行動にショックを隠せずにいた。

 タルフは誰よりも熱心にタマの修業に付き合ってくれていた。

 だからこのまま、観客席で応援に回ってくれるものだとばかり思っていたのだが……。


「オーガの命令だろう。アイツはオーガの部下だ。オーガに言われれば、従うしかないのさ」


 言いながら、少しばかりの違和感を感じてしまう。

 果たしてあのオーガが、タルフに一緒に組めなんて命令を出すだろうか?


「……こうなってしまった以上は仕方がありません。今はどう戦うか、それだけを考えましょう」

「そうだな……」


 強敵なのはオーガだけではない。バスタード王も間違いなく強敵だ。

 魔王の魂の欠片の影響で少しは強くなったとはいえ、果たしてどこまで渡り合えるのか。

 全力を出すつもりだが、場合によってはまた再び欠片の力に頼る事にもなるかもしれないと覚悟を決める。まぁ、欠片の力が使えればの話だが。


「スタミナのある獣人と魔物相手に長期戦は不利です。短期決戦が望ましいかと」

「そうだな。俺とタマでどうにか三人の足止めをするから、初手からデカいのを頼む」

「ええ、任せて下さい。二人は僕の魔法に巻き込まれないよう、避けて下さいね」

「ああ。任せとけ」

「ニャっ! 頑張るニャ!」


 気合満々のタマの頭を、俺とカイルが代わる代わる撫でる。

 どんな時であっても変わらない撫で心地に癒された。




 控室を出て、長い通路を進んでいく。

 通路の終わり際、出口の先に広がる光景に圧倒されてしまう。

 円形の巨大な闘技場を囲む様に広がる観客席。

 先程までは聖女さんとルナーの姿くらいしか見当たらなかったが、今では観客でぎっしりと埋め尽くされていた。


「ウォーッ! 決闘だ! 早く始めろッ!」

「やれーッ! 王の戦い見せてくれー!」

「あのクソデケェの、オーガ様じゃねぇか! コイツはスゲェもんが見れそうだぜ!」


 飛び交う威勢ばかりが良い言葉に、カイルが不快そうに眉を顰める。

 まぁ、普段王都に住む大神官には縁のない環境だろうからなぁ……。


「彼ら、全く僕達に期待していませんね。ちょっと一発撃って思い知らせましょうか」


 あっ、不機嫌なのはそういう理由!?

 本当に負けん気の強い御人な事で……。


「気にするな。試合が始まれば嫌でも理解するさ」

「そうニャ! 大神官さまの強さにみんにゃビックリニャ!」

「ふふ、ありがとうございます」


 カイルの顔に笑みが浮かんだところで、俺達は真正面を向いた。

 反対側の通路から、王を先頭にオーガとタルフが姿を現した。

 三人の姿が見えるなり、観客席が今までの比ではない程一斉に湧き上がる。

 この盛り上がり様、決闘というイベント事がこの国にとってどれほどの娯楽であるのか。そしてバスタード王の人気のほども伺えた。


 闘技場の中心で、俺とバスタード王が見合う。

 何故かバスタード王だけが前に出て、後方にタルフが控えている。そしてオーガは出入り口付近、随分と離れた位置に腕を組んで立っていた。

 こちらもカイルに視線を送り、後方へ下がる様に促す。

 静かに下がったカイルを見送り、俺は隣に立つタマにそっと耳打ちをした。


「タルフが随分下がっている。こっちから下手に飛び掛かれば、オーガも動きかねない。お前は一旦下がって、様子を見るんだ」

「ニャッ、了解ニャ!」


 勢いよく頭を縦に振ったタマは、駆け足でカイルの側に身を寄せた。

 相手側の意図が読めないが、まずは背後から飛んでくるであろうカイルの一撃を避ける事だけを考えよう。


「オウッ! 準備は良いかい?」

「あぁ、いつでも行ける」


 自信に満ちた笑みを浮かべるバスタード王に向けて、俺は頭を縦に振った。

 それを合図に、耳を劈く獣の咆哮が響き渡る。

 同時に観客席から怒声にも似た歓声が上がり、戦いの火蓋が切って落とされた。


 間髪いれずに俺は真横に勢いよく飛び退いた。

 飛んだ途端、それまで立っていた場所をバチバチと稲光を纏った極太の光線が駆けて行く。

 高出力の光線に巻き込まれたコートの裾が、ジュッと音を立てて焦げ付いた。

 予定通り、カイルの攻撃魔法が即座に放たれたのだ。


 光線は俺の目の前に立っていたバスタード王に直撃した。

 轟ッと鳴り響く激しい爆発音と上がる白煙が、その威力の高さを物語る。


「イイね、イイね……! やっぱ大神官の魔法ってのは強烈だなァ、オイッ!」


 白煙の中から、興奮した様子のバスタード王の声が上がった。

 稲妻の名残を残した爪で浮遊する煙が裂かれ、平然とした様子のバスタード王が姿を現す。

 その姿は本来の獣性を取り戻したかの如く、すっかり人の様相を失っていた。


 やっぱり一撃で決着が付くほど甘くはないか。

 バスタード王が光線を防いでしまったため、後ろに控えるタルフとオーガは当然ながら無傷だ。

 その状況に気が付いたカイルが幾つもの光弾を飛ばし、バスタード王の背後の二人を狙い撃つ。


 俺も剣を鞘から抜いて、王の首めがけて横薙ぎに振り抜いた。

 振り抜いた剣はキンッと甲高い音を立て、バスタード王の首元で止まる。

 バスタード王の手から生えた大きく鋭い爪が、剣を受け止めていたのだ。


「オイオイ! いきなり首、狙うか普通!?」

「そうでもしなきゃ、アンタ引かないだろ……ッ!」


 どうにか爪を圧し折れないかと力を込めていると、カイルの放った光弾がバスタード王の後方で大きく爆ぜたのが見えた。

 目標に着弾したかに思えた光弾は、奇妙なことにバスタード王の後方タルフの手前で破裂していたのだった。


 絶え間なく放たれる光弾は全て爆ぜて消えてしまう。

 まるで見えない壁でもあるかのように。


 どういう事だと混乱する間にも、剣と爪がギチギチと擦れ合う音は止まない。

 剣と首の距離は一向に縮まる様子が無く、それどころか……押し返されている!


「ハッ! 俺様と力比べなんざぁ……十年早ェんだよッ!」


 グッとバスタード王の腕に力が籠ったのが、剣越しでも伝わってくる。

 次の瞬間、俺の押す力を諸戸もせずに振るわれた爪によって、剣は勢いよく弾かれてしまった。


「加減なしだぜ!」


 反対の爪が俺の頭上に影を作る。

 剣で受け止める事は可能だが、力比べは得策ではない。

 一歩後ろに下がって間合いを取るも、振り下ろされる爪の速さは尋常ではなかった。

 避けきれずに胸元を縦一文字に切り裂かれてしまう。


「クソ! 浅ェかッ! まだまだァ!」


 すぐに体勢を立て直し、容赦なく振り下ろされ続ける爪を剣でいなし続ける。

 斬られたとはいえ、皮膚一枚だ。

 特に問題は無い筈なのだが……おかしい、徐々に剣に受ける爪が重たくなっている……!

 気が付けば頭上に掛かる影も、いつの間にか俺を飲み込むほどになっていた。

 バスタード王の爪の大きさ、いや、バスタード王そのものが大きくなっている!?


「がははっ! 驚いたか! 俺も驚いたぜ! 流石、オーガ様の弟子だ、こんな魔法が使えるなんてよォ!」

「タルフの魔法だと!?」


 アイツ、魔法が使えたのか!? 初耳だぞ!?

 元より巨体であったバスタード王の体躯は、既に倍にもなっていた。

 オーガを凌駕するサイズ感でありながら、振り下ろす爪の速さは衰えるどころか増すばかり。

 まずい、これじゃあ足止めされているのは俺の方じゃないか!


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