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053 オジサンの決闘相手

 あっという間に時は流れ、決闘の日が目前に迫る。

 この三日の間はタマの修業をメインに、俺とカイルも連携攻撃というものを身に着けようと努力していた。

 言っても付け焼刃に過ぎない事は分かっていたので、お互いの攻撃の隙をカバーし合う、という程度の仕上がりではある。そもそも大神官であるカイルに隙があるのかと言われれば、無いとしか言えないのだが。

 とはいえ魔法使いである以上、肉弾戦に持ち込まれれば不利になる事は違いない。そうならないように俺がカバーする……と言った大雑把なものだ。


 魔法使いと一緒に戦うことで、今は亡き同僚ウェーニングを思い出す。

 アイツと一緒に戦った経験が少しでも役に立てばいいのだが、思えばアイツも隙の無い魔法使いで、特に俺がアイツに何かした覚えがないな……。


「カイルと俺が相手を引きつける。タマ、お前はその足の速さで相手の裏側に回ってくれ」

「ニャッ! 任せるニャ! 裏からこの爪でひっかいてやるニャ!」


 修業の成果か、すっかりタマもやる気が出たらしい。

 鍛えてみて分かったが、意外にタマは良く動ける。身の軽さはタルフ以上だろう。

 爪の鋭さも想像以上で、何度かこちらも手傷を追った。

 自身に流れるリュンクス族の血を自覚したのだろう。修業の間にタマの目付きがどんどんと鋭くなっていったのだ。(カイル曰く、強くなるのは良い事だが、タマの目付きが鋭くなることは悲しい……だそうだ)


 修業の間で驚いたことと言えば、獣人のシルバーが尋ねて来たことだろうか。

 王の使いという事で、聖女さんとルナーが無事に過ごしている事を伝え、差し入れとして豪華な食事を運び入れてきたのだ。

 どういうことだと尋ねれば、腹が減って負けたなんて言い訳は許さないと言う王の心遣いだと言う。

 気前が良いのか何だか分からんな、あの王様。

 大量の食糧を前にして目を輝かせるタマ達を尻目に、また決闘の日に迎えに来ると言うシルバーは去り際に振り向いた。


「……貴様等。逃げるなら今の内だ」

「心配無用だ。そもそも二人を置いていく事なんて出来ない」

「貴様等の心配をしているのではない。王の嫁二人の心配をしている」

「なんだって?」

「王はこの決闘に怪物を用意した。怪物の手に掛かれば、貴様等は無残な肉の塊になる。嫁二人にはショックが大きいだろう」


 怪物という言葉に緊張感が走る。

 このシルバーという獣人、彼も相当な実力者である事は佇まいから分かる。そのシルバーが怪物と呼ぶ相手となれば、その強さは想像に難くない。


「そうか。だが、言ったように聖女さんとルナーを置いて行くって選択肢は無いんでな」

「分かった。王に貴様等の最終意思として伝えておこう」


 今度こそシルバーはその場を立ち去った。




 聖女さんとルナーを取り戻し、魔王の魂の欠片を手に入れる。

 その為になら、どんな怪物が待っていたとしても引くことは決してない。


「……って、覚悟で来たんだが……。流石に驚いた」

「えぇ、僕も流石にこれは予想外でした……」


 決闘当日、約束通りに現れたシルバーの案内で闘技場へ招かれた俺達は、闘技場のど真ん中で両チーム顔合わせを行った。

 三日ぶりにバスタード王と顔を合わせたのだが、その隣には、信じられない事にオーガの姿があったのだ。


「何でお前がここにいるんだ……!?」

「決闘を行う故」

「まさか……お前が相手なのか?」


 沈黙で肯定するオーガに、俺は背筋が寒くなる。

 成程、こいつは間違いなく掛け値なしの怪物だ……!


「がははっ! 驚いただろ! どうにかオーガ様と連絡とってな。参加してもらうことになったぜ!」


 心底嬉しそうな顔をして、踏ん反り返ったバスタード王が高らかに笑う。

 コイツ、俺達を完膚なきまでに叩き潰す気でいるな。


「怖気づいたか? 逃げるなら今の内だぜ?」

「ご冗談を。丁度いいですよ。これくらいの相手の方が」


 ニヤリと笑うバスタード王の見え透いた挑発に、カイルが乗る。

 オーガを前にした途端、分かりやすく殺気立ったカイルのお陰か、俺は逆に冷静さを失わずに済んでいた。

 今にも噛み付かんばかりのカイルを抑えながら、バスタード王に大事なことを尋ねた。


「バスタード王、聖女さんとルナーはどうしている?」

「オウ! 嫁さん二人なら、ほれ」


 立てた親指で示された方向を見れば、闘技場観客席の最上階、一際広く作られた客席に二人の姿を見つけた。

 二人もこちらに気が付いたのか。

 何かを叫びながら手を振っているが、距離があり過ぎて聞き取る事は困難だった。

 だが、変わらない元気そうな様子に安堵する。


「……どうやら、本当に約束を守ってくれたらしいな」

「当然。王たる者、約束の一つや二つ守れずしてどうするってんだ! しかも嫁さんだぞ、嫁さん! 丁重にもてなすのは当たり前だろ!」

「ははっ! そうだな。嫁さんは大切にするもんだよな」


 思わず笑いながら同意してしまう。

 実に不思議な事なのだが、俺このバスタードという男の事を少し気にいってしまっているらしい。

 ……だが、この決闘という状況を前にすればバスタード王もまた倒すべき相手である事に変わりはなかった。


「こっちは俺とカイル、そしてタマが出る。そっちはオーガひとりか?」

「三体三っつっただろ。オーガ様と俺、そしてオーガ様の弟子とで出る。……アンタらを見くびる程、俺は甘くねェんだ」


 俺とカイルの実力を相当買ってくれているという事か。

 嬉しい話だが、今は有難くもなんともないな……。

 しかし今なんて言った? 弟子だって?



「――そっス。俺が三人目っス」



 俺達と一塊になっていたタルフが輪から外れ、前に出る。


「ニャ……タルフ?」

「タマ、悪いっスけど、応援は出来ねぇっス。その代わり……全力で戦うっス」


 何時になく真剣な面持ちをしたタルフが、オーガの横に付いていた……。


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