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050 オジサンとチームメイト

 タマの兄弟達の興奮が治まり、ひと段落。

 まだこの国の事を知らない俺達は、すっかり調子を取り戻したタマに決闘とバスタード王の事を尋ねてみた。


 バスタード王の名を出すと険しい顔をするものの、タマは落ち着いた様子で語り始めた。


「この国は、昔から強いのが一番えらいのニャ。決闘は、その一番を決める戦いニャ。今の王さまは、一人で決闘の相手全部倒しちゃったニャ。ついでに前の王さまも倒しちゃったニャ」


 過去に何度も行われているという決闘は、基本的に三体三で行われるのだと言う。

 選ばれた強者の三人、加えて国の頂点に立つ王までも一人で倒したと言うのだから、バスタード王の実力の高さが伺い知れる。


「今の王さまはとっても強いニャ。強すぎて、弱いのはみんニャ無視するニャ。弱いのと強いのとで扱いが違ってきて、弱いミィは怖くニャッたのニャ。だから、逃げちゃったのニャ……」

「ニャー! にーちゃん逃げてニャい!」

「出稼ぎ行ってくれただけニャ!」


 タマの兄弟達が口々に声を上げる。

 タマが時折、祈りの塔から姿を消していたのは、弟達に稼ぎと食べ物を届けに行っていたからだと悟って俺はひどく胸を打たれてしまった。タマ、お前、やっぱり立派だよ。


 話しを更に聞くと、バスタード王による支配は既に十年近くに及んでいるらしい。

 荒くれモノの多いこの大地を十年近く支配しているその秘訣は、バスタード王の人柄にもあるようだった。


「王さま怖いけど、かニャらずルールを守るニャ!」

「強いのと弱いので扱いは違うけど、ご飯は食べれるニャ!」

「王さま、自分で言ったこと最後までやりきるニャ!」


 話しを聞いて確信を持つ。

 二人をもてなすと誓った、バスタード王のあの力強い瞳に嘘はない。

 奇妙な話ではあるが、俺はあのバスタード王という男を信頼に足ると認識していた。

 それは拳一つで成り上がった男は信頼に足る……という俺の中の考えと、バスタード王の在り方が一致するからなのだろう。


 そうなれば目下、心配しなくてはならないのは決闘についてだろう。

 横を見れば、カイルもまた決闘について考えているのか。真剣な顔をして俺達を見た。


「三体三。僕とクラトス様だけで十分な気もしますが、ルールには従っておきましょう。後一人。どうしますか?」

「良いのか? 大神官が決闘に出たとなれば、問題になるんじゃないか?」

「あんな喧嘩を売られておめおめと引き下がった方が大問題ですよ。大神官の名が泣きます」

「大神官って意外と武闘派なんスね……」


 本当に頼もしい限りで。

 しかし、カイルが参加することはバスタード王も織り込み済みだろう。

 大神官の実力が伊達ではない事は、この星に生きる者なら誰でも知るところだ。


 その大神官と戦うに値する相手をバスタード王が用意しているとなれば……こいつは少々、骨が折れる戦いになりそうだ。


「強敵が待っているだろうが、タルフ、行けるな?」

「行けるっスけど、今回は俺、控えてるっス。ここは、タマが出るべきっス!」

「タマ?」

「ニャっ!?」


 思わぬタルフの発言に、俺とカイル、そしてタマは目を丸くする。

 冗談で言っている訳では無い事は、その真剣な顔つきから察することが出来た。

 何故だと理由を聞けば、タルフはいつになく真面目な顔をして語りだした。


「ここはタマの故郷っス。いつかはタマだってここに帰ってくる。だったらその時の為にも、今、この国でだって生きていけるんだ! って胸張れる自信を付けるべきっス!」


 思った以上に立派な理由に、俺は正直に言って驚いた。

 タルフにこんな考え方が出来るとは、思ってもいなかったのだ。


「タルフお前……凄いな」


 素直に零れた賞賛の言葉に、タルフは顔を赤くして慌てた素振りを見せる。


「いや! エラそーなこと言ったっス! 恥ずかしいっス!」

「いえ、誇っても良い立派な発言ですよ。それに、確かにタマくんが自信を持つ良い機会になると僕も思います」


 タルフの発言を肯定して、カイルはタマを見つめた。

 タマはまだ戸惑っているようで、うんともすんとも言えないでいる。

 固まったままのタマの手をタルフが掴んだ。


「タマ。俺の分まで頑張って欲しいっス! 自信つけて来て欲しいっス!」

「ニャー……タルフ……。良いのかニャ、ミィで良いのかニャ……戦うの下手くそニャ、ミィで……」

「だったら俺が決闘の日まで、稽古つけるっス! リュンクス族って爪で戦うんスよね? 俺の双剣と似たようなもんっスから、教えられることもあると思うっス!」


 タルフの熱心さに、全身が強張ったタマの緊張が解れていくのが目で見て分かる。

 二人の様子に感銘を受けた俺は、タマの肩をぽんと叩いた。


「俺も教えられることは教える。だから一緒に戦ってくれないか、タマ」

「僕も全力でサポートします。一緒に頑張りましょう、タマくん」

「ご主人……! 大神官さま……!」


 感極まった様子のタマは、尻尾を激しく左右に振ってそれからニャアと大きな雄叫びを上げた。

 タルフの手を握り返したタマは、耳をツンとしっかり立てて大きく頭を縦に振った。


「やるニャ! ミィ、頑張るニャ! 頑張って自信つけるニャ!」


 奮起したタマに呼応して、タマの兄弟達もにゃあにゃあと声を上げ始める。

 直後、早速修業だと言って、タマはタルフと共に家を飛び出していった。

 タマの兄弟達も後を追い掛け飛び出して、あっという間に室内には俺とカイルだけが取り残されてしまった。



 あまりの元気の良さに苦笑して肩を竦め、手身近な椅子にどかりと腰を下ろす。

 カイルは立ったまま外を見つめていた。

 まるで俺が話しかけるのを待っているかのような佇まいである事に便乗して、俺は話を振った。


「決闘までに、どれだけタマは強くなるかな」

「それはタマくん次第ですね。リュンクス族は元々狩りを得意とする一族と聞きますし、意外と頼りになるかもしれませんよ」

「だと良いんだが。……多分、相手はお前を倒せるだけの戦力を用意するつもりでいるぞ」

「ええ。そしてクラトス様に敵うであろう強者も、です」

「俺? それはつまり、バスタード王が俺の素性を知ってるって言いたいのか?」


 カイルが首を縦に振る。


「ここは魔物も住む土地です。バスタード王が魔物から、貴方の話を聞いている可能性は十分に考えられます」


 現に、ルナーが魔王の妹だと知っていた事が証拠になると、カイルが言う。

 なるべく目立たないように行動してきたつもりだが、祈りの塔の襲撃以降、随分派手に動いてしまったからなぁ……。

 魔王を斬った裏切者が、今は聖女の護衛を務めている……という話が流れて来たとしても、不思議はないのかもしれない。


「時間は多くはありませんが、僕達も出来る限りの事をしましょう」

「そうだな。よし、折角のチーム戦だ。連携が取れるように少し練習してみるか」

「喜んで。実を言うと僕、誰かと一緒に戦ったのは先日のオーガとの戦いが初めてだったんです。いつも一人でどうにかなっちゃうので。だからまた、クラトス様と一緒に戦えて嬉しいです」


 薄っすら頬を朱に染めたカイルが朗らかに笑う。

 うーむ……。大神官殿の足を引っ張らないように、頑張らなければ。


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