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048 オジサンと獣人の王

 一面、目が眩むほどの黄金。

 王宮の中部は、外観に負けじ劣らずの派手さで俺達を迎え入れてくれた。

 細かな装飾の施された高い天井を見上げ、俺は思わず感嘆の声を上げた。


「こいつは見事だな……」

「こんなの教科書でしか見たことないよ。映えのレベルが違う……」

「良い趣味じゃない。中々やるわね」


 隣で聖女さんとルナーが落ち着きのない様子で周囲を見渡している。

 目に付くものすべてが新鮮と言った様子だ。俺もだが。

 唯一落ち着いているのはカイルだけだった。


「ここだ。王が待っている。粗相のないようにしろ」


 長い通路の突き当り、巨大な扉の前でシルバーが立ち止まる。

 両開きの巨大な扉を難なく押し開けて、中へ進むシルバーの後に続く。


 黄金に彩られた広い部屋の正面、深紅の階段、そして深紅の玉座が嫌でも目に付く。

 しかしその玉座に足を組んで座るジャンドゥーヤの王のオーラは、黄金の中の深紅よりも尚鮮やかに存在感を主張していた。


「王よ、連れてきたぞ」

「お疲れさん。後で駄賃やるぜ」

「現物で頼む」


 自国の王を相手にしている筈なのに、そうとは思えない口調のシルバーに驚く。

 あっさりとシルバーが立ち去ると同時に、玉座から王が立ち上がる。

 ただ立ち上がっただけにも拘らず、王の発する威圧感の前に俺は息を飲んでいた。


「犬耳の……王様……!?」

「獣人よ。人寄りのね……」


 聖女さんが驚くのも無理はない。

 ジャンドゥーヤの王は、人の見た目をした獣人なのだ。

 シルバーの毛並みにも似た白銀の髪を、ざっくばらんと伸ばした筋骨隆々の美丈夫。しかしその耳からは雄々しい獣の耳が生え、唇の端からは鋭い犬歯が覗いている。

 筋肉質な体のラインがはっきりと分かる黒のハイネックに、襟元を多量のファーで飾り付けた丈の長い深紅のコートが似合っている。動きやすさを重視したパンツスタイルにロング―ブーツというシンプルな出で立ちが、彼が王でありながら戦士であるのだと如実に物語っていた。


「よぉ! 遠路はるばる俺様の王国へよく来た! 歓迎するぜ!」


 どこか爽やかさすら感じさせる良く通る声に、虚を突かれる。

 この国のイメージとまるで違う王の様子に戸惑っていると、一歩前に出たカイルが恭しく頭を下げた。


「お初にお目にかかります。アリアドネ陛下の名代として参りました。大神官カイル・マティアスと申します」

「知ってるぜ。アンタ有名人だからな。俺様はバスタードだ。ジャンドゥーヤの王をやってる」


 ざっくばらんとした態度のジャンドゥーヤの王、バスタード王は玉座の手前の段を降りて俺達の前に歩み寄る。

 近くで見れば、その体格の良さに圧倒される。

 俺も背が低い方では無いのだが、バスタード王は俺の頭一つ分くらい抜きんでているのではないだろうか。


「片っ苦しいのは無しだ! アンタらの狙いは、コイツだろ?」


 そう言って、バスタード王は首からぶら下げていたチェーンを引っ張り、その先端に付いているものを俺達に示した。

 バスタード王の纏うコートよりもなお紅い、魔王の魂の欠片。しかも……!


「三つも!?」


 俺の背後から覗き込んだ聖女さんが驚きの声を上げた。

 そう、バスタード王の首からぶら下げられていた欠片は、三つもあったのだ……!

 聖女さんと俺の驚き様に、バスタード王がにやりと笑う。


「その反応が見たかった! コイツあれだろ? 魔王の何かなんだろ? 嫌な気配がビンビン伝わってきやがるぜ!」

「……まさか。それが何か知らずに集めているというの!?」


 呆れたように驚くルナーに、バスタード王は豪快に笑う。


「オウよ! だが、お前さんの事は知ってるぜ。魔王の妹だろ? いやぁ、実物は思った以上に美人だぜ!」

「お世辞なんていらないわよ……」

「照れるな照れるなって! これからの俺様の嫁さんになるってのに、こんぐらいで照れてちゃあ先が持たねェぜ?」


 ……ン?


「え、ちょっと待て、今、何て……?」


 思わず聞き返してしまったが、聞き間違えだよな?

 嫁さんって……え?

 バスタード王はにっこりと笑ったまま、首からぶら下げた欠片を揺らしてアピールする。


「オウっ、アンタらコイツが欲しいンだろ? そこの魔王の妹と、聖女の嬢ちゃんと交換だ! 二人とも俺様の嫁さんにするぜ!」


「嫁さん……嫁さんッ!?」

「ちょっと!? なに勝手を言ってるのよ!?」

「嫁っ!? 嫁って奥さんってコト!? 結婚ってコトぉ!?」


 聞き間違えじゃなかっただと――!?

 動揺する俺を押し退けるようにして、聖女さんとルナーがバスタード王に詰め寄った。


「どうしてそうなるのよ! 私、お前の事なんて知らないのよ!?」

「そうだよ! 出会って秒で結婚って、漫画じゃないんだからさぁ!?」

「はっはっはっ! 元気の良い女達だ! お前は美人だから! お前は可愛いから! つまるところの一目惚れだな!」


 あまりにも単純明快過ぎる返答に、聖女さんもルナーも俺も何も言えなくなってしまう。

 なんだろう。ここまでハッキリ言われてしまうと、妙な説得感があると言うか……。


「なりません。聖女様は勿論の事ながら前代魔王の妹も、今や魔王復活の事案に関わる最重要人物。欠片と引き換えにと言ったところで許容出来ません」


 唯一この場で冷静なのは、カイルだけだった。

 眉一つ動かさない冷徹な顔つきで、カイルはバスタード王を真っすぐに見据えている。

 カイルの強い眼差しを受けても、バスタード王はびくともしていない様子だ。


「そうか。だったら決闘で決めねェかい?」

「決闘?」

「あぁ! この国は強いモンが全てだ! つまりだな、三体三で戦うんだ! 俺様とアンタ等でな! 俺様に勝てたらコイツをくれてやらぁ!」

「負ければ?」

「この二人を嫁さんに貰う! どうだ? 悪い話じゃねェだろう?」


 バスタード王の提案に、控えていた従者達が沸き上がる。

 どうやらこの国にとっては、決闘というのは一大イベントみたいだ。だが……。


「聖女さんとルナーは景品じゃないんだ。賭けられん」

「だったらコイツは渡せねェが、良いのか? 困るんじゃないのかい? それともいっその事――力づくで奪ってみるかい?」


 バスタード王の笑みが深くなる。

 挑発だと分かっているからこそ、俺の手が剣に伸びていく……。


「良いでしょう。決闘、お受け致しますよ」


 柄を握った手に、さり気なくカイルの手が触れる。

 ハッとしてカイルの顔を見て、急激に肝が冷えていく。

 あくまで冷静であろうとしているのだろうが、眉は吊り上がり、瞳が怒りに燃えている。

 空間が軋むのではないかという程の圧を全身から放つカイルに、俺の手は自然と剣から離れた。

 美人が怒ると怖いって、こういう事か……。


「流石、大神官だ! 話が分かる! 本当はお前さんも嫁にしたいところだが、おっかなくていけねェや」

「生憎ですが、僕の生涯は女王陛下とザッハの民に捧げておりますので」

「言うねェ!」


 言って、バスタード王が俺をちらりと見る。

 何だ? 俺だってビーチェに生涯を捧げているぞ。


「ま、いいさ。そンじゃまァ、決闘は三日後! 三日後にまた王宮に来てくれ! それまで嫁さん候補の二人はこっちで預からせてもらうぜ」

「おい、待て! 流石に同意できるわけが無いだろう……!」

「安心してくれ。嫁さん候補の二人は国賓待遇でもてなすことを約束……いや、誓う。決して手は出さねェし、身の安全は王の名のもとに保障する」


 それまでどこかお茶らけた様子のあったバスタード王の雰囲気が一変した。

 真剣で力強い眼差しが、真っすぐに俺とカイルを射抜いてくる。

 言外に含まれた俺を信じろという切実で強い訴えに、思わず言葉を失ってしまう。


 王としての威厳。そして一人の男としての矜持。

 それらが混じった目を見れば分かることだが、バスタード王は決して嘘をついていないと察せられた。……とは言え、二人を放っておくことは出来ない。やはり一戦交えてでも……。


「いいよ、オジサン。何かあったら私、暴れるから!」


 いつの間にか魔銃を構えた聖女さんが力強く頷いた。

 バスタード王が豪快に笑っている間に、俺とカイルはまるで摘まみ出される様に王宮から放り出されてしまったのだった。


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