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047 オジサンと新たな大地

 カイルの魔法で作られた光の船で川を渡り、俺達は難なく対岸に辿り着くことが出来た。

 無から有を作ることは、いくら最高位の魔法使いと言えども相当な魔力と技術力を要するものだ。しかしカイルは涼しい顔をしたままだった。その理由の一つに、彼女の持つ杖の形状が変わったことがあげられるだろう。


 杖の先端に付くのは角ばったクリスタから、艶やかな深い青色の水晶玉に変わっている。杖の形状もまた一段と煌びやかなものになり、特に水晶を囲む様に展開する黄金の輪は目を見張るものがあった。


 魔力増幅装置としての役割を果たす杖は、従来の十倍以上の出力を可能とするとカイルは言う。

 当然、出力が上がれば上がる程、制御もまた難しいものとなる。

 常に十倍以上の出力で使用していれば、すぐに魔力が枯渇してしまうからだ。

 杖の力に振り回されず、制御を可能とするのはカイルの大神官としての素質がなせる技だろう。


「そんな褒められることでもありませんよ。手っ取り早いパワーアップの方法を考えて、こうなっただけですから」


 その手っ取り早くを短期間で実行できるから凄いのだが、カイル本人にしてみればまさに朝飯前と言ったところか。さすが大神官殿。


「いいか、これが本物の天才だ。見習えよ、タルフ」

「無理っス。俺、凡才っス!」

「あっはは。でもタルフ君。君、本当は強かったりしませんか?」

「しないっス! 逆立ちしたってアンタにも師匠にも届かないっスよ!」

「そうでしょうか。才能なんて最初から頭打ちの能力よりも、努力して無限に伸びる能力の方が最終的には勝ると思いませんか? まぁ、だから僕も努力しているのですが」

「努力出来るのも才能の一種っスよ……。俺には才能が無いっス」


 いつも明るいタルフが珍しく影を落とす。


「剣も体術も、何しても半端でいつまでも下っ端っス。師匠やオーガ様の様にはいつまでもなれないっス」

「そんなことは無いと思うがなぁ。俺が魔軍に居た頃に比べれば、大分動けるようになったと思うぞ」

「でも、師匠に勝てないっス」

「なら、僕が稽古をつけてあげましょうか?」

「うぅ……その笑顔が怖ぇっス……」


 すっかり打ち解けた様子のカイルとタルフを微笑ましく見ていると、聖女さんがジトっとした目付きでこちらを見ていることに気が付いた。どうしたのかと視線で問えば、盛大な溜息が返された。


「あのさぁ……どーしてこの状況で、落ち着いてられんのッ!?」


 聖女さんが吠える。

 いま俺達が立たされている状況を考えれば、無理もない反応だろう。


 俺達の周囲には、軽く二十を超える魔物と獣人が群れを為していた。

 オークやゴブリン、そして先ほど倒したアルラウネ等の湿地帯に住む植物系の魔物。それと人と同じ二足歩行をしながらも全身を固い毛で覆い、突き出したノズルで大きく裂けた口元から牙を覗かせる獣人がこちらを見ている。


 背後は川であり、逃げ場はない。

 魔物と獣人の混合部隊というのは珍しいが、それでも倒しきる自信がある。

 しかし俺とカイルが武器を構えない事には、更に大きな理由があった。


「大丈夫だ。敵意がまるで感じられないからな」

「敵意がない? それって、攻撃してこないってこと?」

「そういう事さ」


 同調するようにカイルが頷き、魔物の群れに向き直る。


「初めまして。僕はザッハの大神官、カイル・マティアスです。ザッハ国アリアドネ女王陛下の名代として、ジャンドゥーヤ王に御目通しを願います」


 カイルの言葉に魔物と獣人は動じることなく、その場に立ち尽くしたままでいる。


 群れの間を裂くようにして、一人の獣人が前に出た。

 長く伸びた、全身を覆う白銀の毛が揺れる。黒々とした大きな耳と突き出たノズル、小さく鋭い目。鋭く尖った爪を武器とする、ワーウルフと呼ばれる種族の獣人だった。


「シルバーだ。貴様達を王宮に連れてくるよう、王からの命を受けている」


 付いて来いと背を向けたシルバーの後ろを、魔物と獣人が付いていく。

 俺とカイルは顔を見合わせ頷き、更にその後ろを付いて行くぞと聖女さん達に告げた。




 シルバーの後を着いて、ぬかるんだ道を歩き続けること暫く。(カイルが魔法で各自の足元をコーティングしてくれているので、非常に歩きやすい。助かる)

 乱立する木々を抜け、視界が開けた先の光景に息を飲んだ。

 突如現れた、黄金色の巨大な建築物。

 複数の窓が付いた横に長い建物は、上に向かうにつれて細く長くなっていく。

 その有様はまるで天を突く塔の様であり、見上げる程の高さを誇っている。


「これが、ジャンドゥーヤ王の王宮……」


 感心している間にも、シルバーはこちらの様子を確認することも無く進んでいく。

 置いて行かれないようにと後を追おうとして、タマから待ったの声が上がった。

 震えるタマの声にどうしたのかと顔を見れば、笑顔が失せて青褪めた顔つきに、思わずギョッとしてしまった。


「どうしたタマ……?」

「……ニャ、ご主人、ごめんニャ。ミィ……王宮には行きたくニャいニャ、村に行ってるニャ!」


 言うや否や、タマは王宮とは違う方向へ向けて駆け出してしまった。


「お、おいっ、タマ!」

「一人でどこ行くの!?」


 俺と聖女さんが驚きの声を上げるも、タマは振り返ることなく駆けて行く。

 タマは村に行くと言っていたが、当然、俺達はこの国の地理を知らない。

 このままタマを見失っては、再会すらも難しいかもしれない。

 どうするか悩んでいる間に、横からタルフが飛び出した。


「俺っ、タマを追い掛けるっス! 師匠達はこのまま王宮に行って下さいっス!」

「タルフ! すまん、頼む!」

「任せるっス~!」


 駆け出したタルフの背はあっという間に小さくなる。

 タルフの足の速さならば、きっとタマにもすぐに追いつくだろう。

 あんな顔をしたタマを見たのは初めてだ。気掛かりだが、今はタルフに任せしかない。

 俺達はどんどんと先に進むシルバーの後を追うことにした。


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