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041 聖女さんと弾丸

 叫び声を上げるオジサンを前にして、私は何も出来ずに立ち竦んでいた。

 オジサンの体を大きな黒いモヤモヤが包み込んでいく。

 多分、これが魔力ってやつなんだ……。


「下がるんだッ!」


 背後から響いた司祭さんの声に、身体がびくりと震え上がる。

 振り向く間もなく、私の視界一杯に司祭さんの大きな背中が映り込む。

 燃える様な赤い髪の毛がふわりと舞った。


「聖女様、その女を連れて外へ……、ッ!」


 司祭さんの言葉は最後が途切れてしまった。

 前振りも無しに、オジサンが剣を振り下ろしてきたのだから……!


 司祭さんは咄嗟に掲げた両腕を広げ、炎の壁を作り出していた。

 オジサンの剣は炎に阻まれて、司祭さんの頭上でギチギチと音を立てて震えている。


「クラトスッ! 見境なくしてンじゃねぇぞッ……!」


 司祭さんのドスの利いた声に震えながら、私はルナーの手を引く。

 急いでこの場を離れないと、私達が邪魔で司祭さんが戦えない……!

 ルナーの足はまるで地面に縫い付けられたように動かなくて、私は必死にその腕を引っ張った。


「ルナーッ! オジサンの事は司祭さんに任せよう!」

「でもっ、あの魔力の溢れ方は……っ」


 顔面蒼白になってオジサンを見つめるルナーの瞳には、薄っすらと涙の膜が張っていた。

 その様子からも、尋常じゃない事態になってることだけは分かる。

 だからこそ、私は私に出来る事をしないと――。

 少し強引だけど、ルナーの肩を抱いて急いでその場を離れた。


 私達が離れたことで、司祭さんは動きやすくなったのか。

 炎の壁を斜めにして、剣を滑らせるようにして身を避けた。

 オジサンの剣が床に叩きつけられる。



 ドォン……ッ



 見た目からは想像もつかない鈍い音が響き、神殿全体が揺れた。

 オジサンの振り下ろした剣の先、地面が大きく抉れている。

 あんなの、斬るとかそんな話じゃないじゃん……!


「ハッ! 馬鹿力が増してるじゃねぇか!」


 悪態を吐きながら司祭さんはオジサンの頭上高く、軽やかに跳ねていた。

 宙に浮かぶ司祭さんは、オジサンに向けて両手の手の平を掲げていた。

 司祭さんの手が真っ赤な光を纏って、炎の様に燃え上がる。


「火傷しても文句言うなよ?」


 炎は渦を巻いてオジサンに襲い掛かる!

 まるで巨大な炎の竜巻だよ……。全て燃やし尽くしてしまいそう……!


「オジサン!! そのままだと燃えちゃうよッ!」


 炎の中にあっという間に飲み込まれたオジサンの姿に、私はつい声を荒げてしまう。

 一歩前へ踏み出そうとする私の肩を、酷く辛そうな顔をしたルナーが掴んだ。


「止しなさい。あれ程度では、今のクレセントは燃やせないわ……」

「今のって……。オジサンに何が起こったのか、ルナー、知ってんの?」

「言った筈よ。魔力の暴走だって。……魔王の心臓の欠片が、クレセントに力を与えたのよ」

「欠片が? っ、まさかルナー! そのことを知ってて、オジサンに欠片を渡したっての!?」


 私は思わずルナーをきつく睨みつけてしまった。

 そのことを後悔したのは、直後の事だった。

 今にも泣きだしそうな顔をして、ルナーは肩を小刻みに震わせていた。


「知らなかったのよ……っ、欠片にそんな効果があるなんて、本当に……っ」


 嘆くルナーの様子を目にして、私は自分の短絡さっぷりに情けなさが湧いた。

 もしもオジサンを暴走させようって意思が最初からあったなら、いざ迎えたこの状況に苦しむワケないじゃないか――!


「ルナー! ごめん!」


 私はルナーに謝り、彼女を背にして立った。

 正面ではルナーの言葉通り、炎で焼かれても全くの無傷のオジサンが司祭殿に剣を振り回していた。

 剣は振っただけで辺りに斬った跡を残していく。

 黒いモヤモヤが衝撃波ってやつになって飛んで、神殿内部のあっちこっちに傷を作っていた。


 司祭さんは軽やかに跳びまわりながら剣の直撃を避け続けている。

 その足に、剣を振った後から伸びてくる黒いモヤモヤが絡みついた。


「クソッ、気色悪ィ!」


 司祭さんは黒いモヤモヤに向けて魔法で生み出した炎をぶつけるけれど、黒いモヤモヤはびくともしない。

 黒いモヤモヤは鞭の様にしなって、司祭さんを地面に叩きつけてしまった……!


 すぐに起き上がろうとする司祭さんの前に、オジサンが立ち塞がる。

 司祭さんの足に黒いモヤモヤを結び付けたまま、オジサンは手にする剣の先を、司祭さんの胸元へ突き刺そうと――!



「オジサンッ!!」



 私は腹の底から声を上げた。ゴンスケの上から叫んだ時と同じくらい、デカく。

 声が届いたのか、オジサンの動きがぴたりと止まった。

 全身が黒いモヤモヤで包まれていて、その顔がこっちを向いているのかも分からない。

 けれども私は迷わず魔銃を構えて、銃口をオジサンへ向けた。


 心臓の音がやけにうるさくて、噛み合わない歯がガタガタ震える。

 だけど不思議と魔銃を握る手は震えなかった。


 引き金を引く指と、魔銃にだけ意識が集まっていく。

 ふいに、ちっこいサハギンを助けた時の光景が脳裏を過る。

 あの時と同じことをする。ううん、しなきゃならない。だって。



「私は、聖女だから! やれることがあるならやるっきゃないッ!」



 引き金を引けば、今までで一番大きな弾が銃口から飛び出した。

 弾丸と呼ぶには大きすぎる真っ白な弾は、バンッと大きな音と共にオジサンへ向かって飛んでいった!


 光の粒子を巻き散らしながら弾丸は飛んでいく。

 オジサンは迫る弾丸を避けようとも、落とそうともしなかった。

 ただ立ち尽くして、まるで動かない的の様にじっとしている。


 だから弾丸はあっけなく直撃した。

 ドンッ! と大きな音を立てて、黒いモヤモヤごとオジサンの胸元を撃ち抜いた。


 辺りがしんと静まり返った次の瞬間、オジサンに当たった弾丸が激しく光り出す!

 オジサンを中心にして真っ白な光が弾けて、神殿を白い光で塗りつぶしていく。


「うあっ、眩しっ!」

「目が開けられない……っ! お前、何したのっ!?」

「撃っただけ! 聖女の聖なる力とかなんかでどうにか出来ると思ったのー!」

「どうにかって、どうなったのよっ!」

「分かんないよーっ!」


 ルナーの怒った声を耳にしながら、私は薄っすらと目を開いた。

 真っ白な世界の中、膝から崩れ落ちるオジサンの姿だけがハッキリと見えた。

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