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026 次代の魔王と魔物達

 全てを覆い隠す闇の中、邪悪が蠢く。

 荒廃した大地は邪悪な魔の力に満ち満ちて、雲の常にかかった薄暗い空には深紅の月が浮かぶ。

 その暗黒の大地は世界の果てに存在する。

 魔物だけが生きる大地にそびえ立つ、巨大な城。それこそが魔王の居城であった。


 月明かりが王の玉座を照らす。

 そこに座する少女フルムーンは、自身の前に跪く魔物の群れを見下ろし笑んでいた。

 唇の端を吊り上げながら玉座から立ち上がる。

 右手を高く掲げ、高らかに声を上げた。


「みんなぁ~! お待たせっ☆ 余、魔王城に帰還せりっ☆」


 途端。跪いていたモンスターが次々と立ち上がり、拳を突き上げワッと歓声を上げだした。

 割れんばかりの歓声を浴び、フルムーンは歓喜に打ち震える。

 これら全ての熱狂が、自分一人の為だけに向けられている。言い知れぬ快感にフルムーンは心の底から酔っていた。


「ありがと、みんなっ、ありがと~っ! 今日はみんなに大事なお話があるよっ☆ こぉ~れっ!」


 フルムーンは掲げた右手の指を鳴らした。

 すると空中に巨大な魔王の心臓の欠片が現れる。

 術者の念を映し出す幻影魔法を用いて、空中にイメージを投影しているのだ。

 魔物達の視線が一斉に映し出された幻影に向く。


 王の魂、その欠片。


 映し出された幻影であったとしても、血の様な深紅に魔物達の目は釘付けとなった。


「これをねっ、みんなで探して欲しいのだっ☆ 世界中に散らばっちゃって、見つけるのがとぉ~っても大変! でもこれがないとぉ、余は真の魔王になれないの☆ みんなで探そーっ! ……ねっ?」


 フルムーンの口元に、三日月の様な笑みが張り付く。丸く見開かれた瞳から、深紅の輝きが放たれた。

 強烈な力をもってして、空に浮かぶ月に似た輝きは全ての魔物を魅了する。


 魔物の狂乱の雄叫びが上がる中、フルムーンは間近に控えるニュームーンとオーガ。そしてもう一人、緑髪の女に視線を向けた。

 緑髪の女の身なりは酷いものだった。まるで囚人が身に着けるかのようなボロボロの布切れに身を包み、髪もろくな手入れがされずにざっくばらんと切られた状態だ。

 側頭部からは左右で対になる雄々しい角が生えているのだが、どちらも一部が欠け、傷だらけの痛ましい有様だった。その顔に表情と呼べるものは無く、虚ろに虚空を見つめていた。


「分かってるよねっ☆ 貴様達も、探しに行ってらっしゃい! 出来れば三日以内に見つけて来て欲しいなぁ~」

「モチロン! 全ての魔物を動員シテ、欠片捜索にあたりマストモォ~! ネッ、オーガさァん!」


 腕を組んだまま、オーガは無言でその場から離れだす。その瞳にフルムーンの姿を映し出すことは決してない。

 立ち去るオーガの背中に、フルムーンは怒りの声を投げかけ続けていた。


「もうっ! これだからムッサイのはダメダメっ! やっぱり、イザヨイくらいイケメンじゃないとっ☆ でもっ、お仕事熱心過ぎて余の呼び掛けに応えなかったのはちょっとダメダメかなぁ~。でもでもっ、そういう真面目なところも素敵だよねっ☆ だから、ニュームーン! オーガとイザヨイの分もお仕事よろしくねっ☆」

「ヒョエ~ッ! こう見えてもワタシ、魔王様の代行でもありマスノデ、お仕事多いのデスヨォ~!?」

「ちょっとぉ~!? 貴様も余に逆らうの~!? ……じゃあ、消えちゃっても仕方がないよね?」


 フルムーンの瞳から感情が消え失せる。

 ゾッとするほどの冷たい瞳に、ニュームーンは大袈裟なまでに首を横に振った。


「分かればよろしいっ☆ 行ってらっしゃい~! で。ねぇ。なに突っ立ってんの? 目ざわり。邪魔。役立たずのゴミ女★」


 緑髪の女は顔を伏せたまま、物言わずにフルムーンに背を向ける。

 女のその仕草すら気に食わず、フルムーンは顔を憎悪に歪めた。


「魔王の妹だか何だか知らないけど、アンタはただの素材なのっ★ 魔力もぜぇんぶ余に吸い取られたゴミカス。仕方がないから余に生かされてるってこと、忘れないでね?」


 フルムーンの罵倒を一身に浴びながら、緑髪の女はひたひたと歩き出した。

 元魔王の妹でありながら、今はろくな魔力も持てない哀れな女。

 女の頬を一筋の涙が伝う。だが、それを気に止める者は誰一人としていなかった。




「ンモォ~。本当に魔物使いが荒いんデスカラァ……」


 誰も立ち寄ることのない、魔城の地下室。

 月の光も届かぬそこは、魔城において一番闇が深い場所と言えるだろう。

 暗闇の中、ニュームーンは一人佇む。


「まぁ、これも全て魔王様復活の為。イヤハヤ、本当に良き器を見つける事が出来マシタヨ。もう少々お待ち下サイマセ、我が王よ」


 真正面に置かれたガラス瓶を見つめ、ニュームーンはほくそ笑む。

 ガラス瓶の中を満たす半透明な液体の中、赤黒い何かが蠢いた。

 それが三十年前、裏切者の剣士の手で斬られた魔王の肉片であることを知るのは、ニュームーンだけだった。

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