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021 オジサンと大神官と激闘

「クラトス、様……」


 俺の真後ろで倒れ伏したカイルから弱々しい声が上がる。

 視線を前へ向けたままカイルに無事かと問えば、真っ先に女王様を心配する声が上がった。


「貴方には……っ、女王陛下の護衛を頼んだのですが……!?」

「その女王様直々の命令だ。ここで押し切られたらその方がまずいだろ」

「だとしても、です……っ」


 カイルの少し怒りの籠った声に、思わず安堵する。

 ダメージは負っているようだが、それなら大丈夫だ。


「こいつの相手は俺がする。アンタは戦線を立て直せ」

「ご冗談を……。敵将を前にして下がればっ、それこそ士気に関わる!」


 立ち上がったカイルが再び杖を構えたのが気配で分かった。

 カイルの言葉から察するに、本体を率いてきたのはオーガで間違いない。


 オーガはカイルが立ち上がるのを待つかのように、静かにこちらを見据えていた。


 ……最強。その言葉がこれ程似合う男もそうそういないだろう。

 魔軍幹部の一人であり、純粋な力だけでいえば魔王を上回る可能性を秘めている。

 オークという下位種に生まれながら、暴力の化身としての力を宿したその存在は、突然変異としか呼べなかった。


「去ね、反逆者。我はその魔導師と死合中也」

「悪いがこいつを死なせる訳にはいかなくてな。選手交代だ。俺が相手になる」

「ならぬ。その魔導師は強者(つわもの)。強者なれば我が手で殺す」

「相変わらず強情だな。だったら……」


 言って俺はカイルに目配せをした。

 俺の視線に気が付いてくれたのか。カイルは即座に魔法を発動させた。


 幾つもの光弾が曲線を描き飛んでいく。

 俺を通り抜けていく光弾に合わせ、仁王立ちのままでいるオーガへ向けて駆け出した。


 オーガに着弾した光弾が爆ぜ、爆発を起こす。

 立ち昇る煙に紛れるように駆け寄って、剣を一振りした。


「遅い」

「ッ!」


 剣が空を斬ると同時に、背後からオーガの低い声が響く。

 咄嗟に腕で頭部をガードすると同時にブォンッと風を切る音が耳に届いた。

 視界の端に、振り抜かれた巨岩の如きオーガの拳が映り込む。


 体が吹き飛ばされないように必死に踏ん張る。

 掲げた腕に衝撃が走った。

 骨の髄まで痺れる様な痛みに、思わず顔をしかめてしまった。


「ッ! 馬鹿力しやがって……!」

「流石は反逆者。我が一撃、耐えるとは。だが――」


 腰を落とし、低く構えたオーガが拳を握る。

 正拳突きが来ると認識した次の瞬間には、既に拳が俺の腹部にめり込んでいた。


「がっ、……はッ!」


 白く染まる視界。

 内臓が潰されたのではないかと錯覚するほどの激痛に身を丸める。

 事実、オーガの拳に破壊できないものは無い。


 いま俺が生きていられるのはカイルのお陰だ。

 カイルがオーガの背中に向けて特大の光弾をぶつけたことで、オーガの軸が僅かにズレたのだ。

 それと単純に、俺がオーガの拳に慣れていたからというのもある。


「怪物! お前の相手は僕だ!」


 カイルの雄叫びに釣られるように、オーガが俺に背を向けた。

 呼吸を整え、痛みを散らす。

 この怪物相手に並みの斬撃では歯が立たない。

 心を落ち着け、神経を研ぎ澄ます。

 持てる魔力を剣に注ぎ込み、その刀身に纏わせた。


 オーガがカイルへ向けて一歩踏み出した刹那、俺は再び剣を振っていた。


 一撃必殺。


 振り抜いた剣の軌跡をたどる様に、オーガの背から血が噴き出した――!


「カイル! 今だッ!」

「言われずともッ!」


 俺が身を真横に転がすと同時に、カイルの杖の先端を飾るクリスタルが激しい光を放つ。

 今まで見た中で一層激しい輝きは瞬きの間に一点に収束し、十字の煌めきを見せた直後に極太の光線となって爆ぜた!


 人一人軽く飲み込むほどの太さを持った光線は、凄まじい速さでオーガへ向かう。瞬時にオーガの身を貫き、文字通りに身を焦がす。


 地の果てまで届くのではないだろうかという勢いと長さを誇る光線は、やがてキラキラと光る粒子となって消えていった。


 上がる煙の中、俺は息を飲んでいた。カイルの表情も同じようなものだ。

 それも当然だろう……。


「……良い。実に良いッッ!」


 煙を上げながら、光の残骸の中からオーガが姿を現したのだから!

 身に着けていた胴着こそ無残な有様で、肌にも焼け焦げた跡が残っている。

 だが、受けたダメージが大したことがないという事は、狂喜するオーガの顔を見れば一目瞭然のことだった。


 そこからは酷いものだった。

 オーガによる攻勢に、俺とカイルは防御に徹する他になくなる。

 防いだところで軽減できるのは微々たるダメージに過ぎない。


 次第に劣勢に陥っていく中、杖を弾かれたカイルが掌底打ちにより吹き飛ばされ、その体を壁に激しく衝突させた。


「カイル!」

「余所見をするな、反逆者」

「うッ!」


 頭上に掲げられた、オーガの踵が俺の脳天目掛けて落ちてくる!

 これを食らえば頭蓋骨粉砕は免れないと、俺は両手で横に構えた剣で踵を受け止めた。


「クっ、ソ……!」


 その衝撃はあまりにも重く、両腕の骨が即座に悲鳴を上げた。

 ミシミシと剣が、俺の体が軋む音が響く。

 重圧に耐えかねた足元の地面がひび割れ、俺の体が沈みかける。だというのに、オーガが掛ける力は更に増す一方だ。


 まずい――!


 溜まらず膝を着きかけて、視線が地面に落ちる。



「オジサンッ!!」



 聖女さんの声が遠くから響き渡る。だが、顔を上げる余裕がない。


「なん、だ……?」


 霞む視界の中、光が見えた。

 カイルが放った光線の残滓ではない、別の光。

 地を照らし、辺り一面を温かく包み込むような、柔らかな光――。


 目についた光は爆発的な勢いで広がった。

 俺の足元を照らし、果てしなく広がりを見せていく。

 さながら光の絨毯が敷き詰められていくようだった。


 光が満ちた瞬間から不思議と体が楽になった。

 疲労も痛みも消え、力が湧いてくる。


「反逆者……貴様、何をした……」


 対照的に、オーガの力がみるみる内に弱まっていくのが分かった。

 掛けられている圧が減り、とうとう上げていた踵を下ろしたのだ。


「これは……まさか……!」


 ハッとして上空を見る。

 光は天から降り注いでいた。正確に言えば、ゴンスケから流れるように降り注いでいた。


 これは聖女さんの力だ。

 そう確信した俺は、怯んだオーガを蹴飛ばし急ぎカイルの元へ駆け寄った。

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