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017 オジサンと頑固な聖女さん

 ドォンと地響きを伴う爆発音がとめどなく響く。

 城からは距離があるように思えるが、城内に居ては状況が掴み切れない。気になるものの、俺のすべきことは聖女さんと女王様の護衛だ。

 二人から離れるわけにはいかない。と思っていたのに。


「外の様子を見てきます」


 なんて女王様が言い出すものだから、頭が痛くなる。

 押し問答の末、だったら代わりに見て来てねと言われてしまい、俺はたまらず呻き声を上げた。


「そういう訳にはいかんでしょう……」

「あのっ、女王様! だったら私が代わりに外、見てきます!」


 俺の横に立ってる聖女さんがピッ! と勢いよく手を上げた。

 いやいや! どうしてそうなる!?


「私も女王様の力になりたい。一緒にこの国を守りたい……!」


 聖女さんの声には明らかに熱が籠っていた。

 きっと、今さっきの光景を目にして何かしらのスイッチが入ってしまったのだろう。

 だが、申し訳ないがその決意のままに行動させるわけにはいかない。

 聖女さんを制止しようと肩に手を伸ばしかけた瞬間。


「俺も……俺もこの国を守りたい!」

「あたしも! 女王陛下の代わりに状況を見てくるわ!」

「オレもだ!」


 聖女さんに感化された一般人の皆さんが、一斉に声を上げて立ち上がってしまった!

 この流れは非常にまずい。

 だってほら、国民を守ることに全力を注ぐ女王陛下様が黙っているわけがない!


「ありがとう。私は何と幸せな王でしょう。ですが民を危険に晒すわけにはいきません。彼が、私たちの代わりに状況を見て来てくれるそうです」

「ンン!?」


 おっと変化球。そうきたか。


「彼はここにいらっしゃる聖女様の護衛を務めている方です。実力は私が保証致しましょう!」

「おぉ! 聖女様の! という聖女様がいたんか!」

「まぁ! 聖女様の護衛ともなればお強いわ! 頼もしい限りね!」

「おじちゃん、がんばえ~!」


 待ってくれよと女王様の顔を見れば、パチンとウインクを投げられた。

 おい、国民の皆さんの前だぞ自重しろ!

 一般人の皆さんの視線も熱く、これを無視することは中々に難しい。


「い、いや、待ってくれ。俺は聖女さ……様と女王陛下をお守りすることになっていてだな……っ」

「おーい、オジサン! 早く行こっ!」

「聖女さん!?」


 既に城の出入り口の前に立った聖女さんが手を振っている。

 ほっとけば一人でも駆け出しかねない。

 おまけと言わんばかりにもう一つウインクをバチコンと飛ばす女王様が、おもむろに首にかけていた銀の十字架を取って俺に差し出してきた。


「これを聖女様に。きっと役に立つはずです。頼んだわよ、クラちゃん!」

「はぁ……分かったよ。女王陛下の命とあらば、喜んで」


 差し出された十字架を受け取り、俺は覚悟を決めて聖女さんを急いで追った。




 雨はまだ降り続けている。

 しとしとと降り続く雨粒に濡れながら、俺は聖女さんを連れて城の北側まで来ていた。

 カイル達が戦う正門側へ行こうとしたが、北側に魔物の群れが現れたと報せを聞いて駆け付けた。


 北側にも外壁から突出して備えられた塔がある。そこに登り全景を見渡した。

 隣では息切れをした聖女さんがよれよれと壁に背を預けていた。


「階段きっつ……! 魔法でこうっ、一気に登れないの……!?」

「生憎、俺は浮遊魔法が使えなくてね。それに階段の上り下りで体も鍛えられるさ」

「覚えるっ、もう絶対、浮遊魔法覚えてみせる!」


 決意を固める聖女さんの話を聞きながら、俺の視線は一点に注がれていた。

 前方に広がる北の区域。北は工業区域となっていて、元々住んでいる人は少ない。工場や工房、ギルドなどが立ち並ぶ区域の中を闊歩する魔物の群れが見えていた。空には羽ばたく魔物の姿もあり、こちらへ向かって一直線に飛んでくる。


 既に魔法使いたちの遠距離魔法によって迎撃行動が行われているが、いかんせんカイルの扱う光線程の威力も無ければ、敵の数も多い。

 減らしきれないまま迫る魔物に、兵士たちは近接戦を覚悟している様子だった。


「数が多すぎるか。聖女さん、俺も出る。だから下に降りて城内に戻っていてくれ」

「待ってよ! 私、ここで待ってるよ」

「駄目だ。危険すぎる」

「でも……」


 煮え切らない態度の聖女さんには悪いが時間がない。

 体を抱えて一気に飛び降りようとした途端。階下から声が響いた。


「護衛隊長殿ッ!! 聖女様のことは、このロバート・バートンにお任せ下されッ! 命に代えてでも聖女様をお守りいたしますぞ!」

「隊長殿!」


 大きな朱塗りの槍を抱えながら、わっせわっせと階段を上ってきた隊長殿は俺達の前に辿り着くと、どんと力強く胸を張った。


「聖女様も護衛隊長殿のことが気に掛るのでしょう! この場でお守りいたしましょう!」

「俺の事が……?」


 少し戸惑いながら聖女さんへ視線を向けると、聖女さんはひどく嬉しそうな顔をしていた。

 ……さっきのニュームーンとの戦いで、無茶するオジサンとでも思われたンだろうか。それならそれで、若い子に心配かけるとか情けない限りだ……。


「隊長のおじーちゃん分かってるぅ! てな訳で、私、隊長のおじーちゃんとここに残るね!」

「駄目だ。危険だ。城に戻るんだ」

「イヤだよ。危険なのはオジサンも、女王様も一緒。ここで戦ってる大神官サマも兵士のみんなも民のみんなも一緒。私だけ守られっぱなしなのは、なんか違う気がする」

「だからって……はぁ」


 思わず食って掛かりかけて、息を吐く。

 聖女さんなりに思うところが出来たのだとは思うが、今はその主張に耳を傾けてやれない。

 強引に下へ降ろそうと聖女さんへ手を伸ばしかけた刹那、隊長殿にぺしんと手を叩かれてしまった。



「いけませんぞ、護衛隊長殿! せくはらになってしまいますぞ!」



 至極真面目な顔をした隊長殿に凄まれて、俺は思わず吹き出してしまった。肩の力がどっと抜けていく。


「ははっ! それは困るな。……わかった。隊長殿、俺が迎撃に出てる間、聖女さんを任せた」

「はっ! 命に代えてもお守りいたしましょうぞ!」

「聖女さんはここから動かないように。いいね」

「分かった。……ごめん。オジサンの言ってることが正しいのは分かってるんだけど……」

「いいさ。あぁ、それとこれを」


 聖女さんの手を取って、女王陛下から預かった銀の十字架を握らせた。

 十字架を受け取った聖女さんは不思議そうにそれを眺めてから、おもむろに首からぶら下げた。

 胸元で揺れる銀の十字架が、随分と神々しく輝いて見えた。

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