パーティー完成
「……許可が下りた。付いてこい。ミィナが回復魔法を掛けてやろう」
その言葉に、サリスとエアリスの表情が一瞬にして明るくなった。
「本当に!? ですが、回復魔法は……」
「回復魔法は、自分でできます」
エアリスがそう言うと、二人は同時に両手を胸の前にかざした。淡い光が手のひらに生まれ、やがて全身を優しく包み込む。緑と白が混ざり合うその光は、まるで森の精霊の息吹のように柔らかく、傷や痛みを癒していく。落ち葉の上に立つ二人の姿は、光に照らされて神秘的ですらあった。
イルヴァは一瞬だけ目を細めたが、特に言葉を発さずにそのまま森を後にした。
馬車の中では、ミィナとリリスが並んで座っていた。窓の外には木々の葉が風に揺れ、鳥の声が時折かすかに聞こえる。
「……ねえ、イルヴァはいつもあんな感じなの?」
リリスが横目でミィナを見ながら尋ねると、ミィナは口元に微笑みを浮かべた。
「ええ、彼女は少し厳しいところがありますけれど、根は優しいんですよ」
「うーん……でも、今の二人にとっては、かなり手厳しい先生になりそうね」
「それでも、きっと良い経験になるでしょう。エルフの方々は基本的に誇り高いですから、あのくらいの挑発で燃えるものです」
「ふふ、たしかに。背の高い方なんて、完全に闘志に火がついてたわね」リリスはくすりと笑った。
ミィナは視線を窓の外に移し、少しだけ遠くを見るような目をした。
馬車の中には木の香りと革張りの座席の柔らかな感触が心地よく広がっていた。外では木の葉が風にささやき、どこか遠くで鳥の翼が木々をかすめる音がした。
「ゼノン様の差し金かしら。でも、これで、信頼できる仲間が増えるなら、悪い話じゃないわ」
馬車の中には木の香りと革張りの座席の柔らかな感触が心地よく広がっていた。外では木の葉が風にささやき、どこか遠くで鳥の翼が木々をかすめる音がした。
そして、馬車の扉が開く音が響いた。イルヴァが戻ってきた。
「魔王様の許可が下りましたので、リリス様の従者と認めましょう」
ミィナが静かに告げると、エアリスとサリスの表情がぱっと明るくなった。
「二人とも、中に入り、リリス様にご挨拶せよ」
イルヴァがその場を引き継ぎ、手で馬車の扉を示す。そして、ふとリリスに視線を向けると、「よろしいですか、リリス様?」と確認した。
「あらましはミィナから聞きました。本当に、念話って便利ねー」
リリスはにこりと笑い、どこか気楽な調子で感心してみせた。
「そろそろ宿を探すか、野宿か考えてくださいね」
そう続けた声もどこかのんきで、エアリスとサリスは思わず顔を見合わせたが、イルヴァとミィナは何も言わずに馬車に乗り込んだ。
「では、失礼いたします。」エアリスが先に乗り込み、サリスがその後に続いた。
馬車の車輪が小さな音を立てて動き出す。地面に散る小枝がパリパリと砕け、馬の蹄が規則的に鳴り響いた。車内には、淡い木の香りと、揺れる車体の優しい振動が心地よく伝わってきた。
「改めまして、ご挨拶を申し上げます」
エアリスが座席の端に腰掛け、姿勢を正して口を開いた。
「私はエアリス・フェルドリア。エルフの里で魔法を学び、主に風の魔法を得意としています。戦闘の際には補助と攻撃の両面でお役に立てるかと思います。以後、よろしくお願いいたします」
その言葉には、幼さの残る顔立ちには似合わぬ大人びた響きがあった。緑の髪が微かに揺れ、金色の瞳がまっすぐにリリスを見つめる。礼儀正しい態度には、長寿の民ならではの落ち着きが感じられた。
続いて、サリスが口を開いた。
「私はサリス・ヴァルグレイ。ダークエルフの戦士として、主に槍術と近接戦闘を得意としております。身体能力には自信がありますので、護衛や先陣を務めさせていただきます」
褐色の肌と鋭い紫の瞳が、彼女の自信を物語っていた。先ほどの模擬戦での悔しさを残しながらも、その表情には闘志と決意の光が宿っている。
「ふふ、頼もしい二人ね。これからよろしくお願いするわ」リリスが微笑みながら応えると、二人は再び深く礼を取った。
(これでパーティー完成かしら……)
「夕方までには、町に着けるでしょう」ミィナが穏やかな声で告げた。
その言葉を合図に、馬車の中にはほのかな期待感と新たな旅路への緊張が入り混じった静寂が広がった。外では木々の葉が風にささやき、馬車は着実に南の道を進んでいく——。




