ロザリー文書
リリスの母、ロザリー・アルセリオンは、東方の国の孤児として生まれ、旅芸人一座に育てられた。その美貌と才能を活かし、一座の芸の披露で王都を訪れた際、国王レオナルト・アルセリオンの目に留まり、側室となった。彼女は王宮で穏やかな生活を送りながら、同時に特異な予知能力を発揮した。その能力は「予言の詩」として結晶化し、彼女の死後も『ロザリー文書』として王国に残されている。
ロザリーは17年前に側室となり、5年前に病没しているため、予言は側室となった年から彼女が逝去するまでの間に記されたものである。詩は短く、象徴的な表現に満ちており、具体的な意味をすぐには理解できないことも多い。しかし、時を経てその予言が成就するたびに、詩が指し示す出来事が明らかになる。以下に、すでに成就された詩のいくつかを挙げる。
成就された予言の例とその解釈
詩 1
赤き鳥が空を裂き、南へと飛ぶ。王座のある国に戦の影。鉄が燃え、炎が舞う。月が満ちる前に静寂が訪れる。
解釈と成就:
数年前、南部国境付近で反乱が発生した際、この詩が解釈された。「赤き鳥」は反乱軍が掲げていた赤い旗を、「炎が舞う」は戦火を暗示している。王国の軍が月齢の半ばで出撃し、月が満ちる直前に反乱は鎮圧された。
詩 2
黒き雨が降る日、川は溢れ、橋が折れ、行き交う者は戻らず。その夜、鐘が七度鳴り響く。翌朝には、すべてが流される。
解釈と成就:
王都近郊で豪雨による洪水が発生し、主要な橋が崩落。予知通り、鐘が警報として七度鳴らされた夜の後、村々が水に飲まれた。この災害の記録は今でも残っている。
詩 3
灰が空を覆い、陽が隠れる。二つの街が煙をあげる時、北風が猛り、春は遅れる。だが新しい種が撒かれる。
解釈と成就:
王国北部の火山が噴火し、農業に甚大な影響を及ぼした。詩の最後にある「新しい種」は、王室が導入した耐寒性の作物を指しており、噴火後の数年で農業が復興した。
詩 4
剣を掲げし者、影を背負い、その血は戦を終わらせる。三つの山のふもとに立つとき、一つの王国が生まれる。
解釈と成就:
隣国との和平協定を結ぶ際、交渉を主導した将軍が「剣を掲げし者」とされている。協定は三つの山岳地帯で調印され、以後の同盟が王国の安定を支えた。
詩 5
銀の手を持つ者が立ち上がり、群れを率いて闇を超える。黒い冠の者が沈むとき、朝日がすべてを照らす。
解釈と成就:
「銀の手」は、特別な武具を装備して敵軍を撃退した英雄的指揮官を指す。「黒い冠」は敵国の王を暗喩しており、その敗北を暗示していた。
詩 6
白い鳥が大地を横切り、その影が落ちた地で争いが終わる。矢は飛び、盾は砕ける。最後に旗は振られる。
解釈と成就:
この詩は重要な戦場での出来事を暗示しており、使者が平和の条件を伝える際に用いた白旗が「白い鳥」として描かれたものだとされた。結果、和平が成立した。
詩 7
黄金の杯が奪われし時、兄弟の争いは血を招く。夜明けに差し出される杯。それが国を救う鍵となる。
解釈と成就:
王家の財宝が盗まれた事件を暗示。犯人が捕まり、宝が返還される際、領主間の対立が沈静化した。この杯は現在も王室の象徴とされている。
詩 8
大地が割れ、空が燃える。三人の旅人が迷い込む。一人が戻り、道を示す。その後、光が闇を追い払う。
解釈と成就:
地震で荒廃した地域の救援活動において、捜索隊の一人が奇跡的に生還し、その後の復興に尽力した。この人の活動が「道を示す」に該当。
詩 9
二つの鏡が向かい合い、その間に真実が映る。鏡を割るのは愚かな者、壊れた破片が痛みを招く。
解釈と成就:
宮廷での密談が漏れ、外交問題に発展した事件に対応。この詩は「真実を探る」こととその危険性を警告していたと解釈された。
詩 10
氷が燃え、火が凍るとき、山頂に立つ者が選ばれる。その選択は国を変えるだろう。雪解けの音が響くまでに。
解釈と成就:
隣国の新しい指導者を決める会議で、混乱が続く中、現国王が「山頂に立つ者」として選ばれた。この予言により、外交を間違えることがなかった。
これらの詩は、解釈ができた後になってその正確さが分かるものであり、リリスの母の予知能力の凄さを裏付ける要素だった。
未成就のロザリー予言
銀の鳥が舞い降りる時、空は燃え、川は赤く染まる。手を伸ばせば救いがあり、声なき者たちが行進する。
白き花が枯れ果てる日に、黒き影が東より昇る。握る剣が鏡に映るとき、幻は真実と交わる。
黄金の時代は始まりに戻り、矢の雨は土を染めるだろう。その時、青き瞳の者が現れ、闇を切り裂く声を放つ。
七つの星が一列に並ぶ夜、大地は震え、天空が裂ける。温かな手が冷たき手を導き、命は再び巡り出す。
水晶の欠片が割れる時、赤き月が海を覆うだろう。その波に乗るは古き船、忘れられた歌がよみがえる。
三つの灯が一つに消えるとき、遠き声が足音を招く。輪が二つ、重なる頃には、空を裂く刃が現れる。
銀の狼が夜を駆ける。その足跡を追う者たち。彼らが辿り着く先には、すべてを変える鍵がある。
雲なき空に雨が降る夜、獣たちは眠りから覚める。祝福と災厄の狭間に、揺れる心が道を選ぶ。
黄金の風が吹き荒れる朝、二つの山が一つに溶ける。その影に隠されし鍵を、血の契りが暴く。
緑の野が黒く枯れるとき、赤き火が祝福を奪う。ただ一人立つ者の声が、光と闇を分かつだろう。
四つの鐘が同時に鳴り響く夜、眠れる者たちは目覚める。その日、影が輪を閉じ、忘却の扉が開かれる。
深き海に沈む王国。その遺産は眠り続ける。赤き月が昇る夜に、それが再び姿を現す。
宝石の輝きが失われる朝、永遠を求めた者が現れる。その手に握られる光と闇、決断は世界を揺るがす。
氷の川が炎を飲み込む日、冷たき刃が熱を生む。その日、天秤は傾き、新たな軌跡が描かれる。
三匹の狼が空を駆ける夜、赤き瞳が光を宿す。その時、鎖が断たれ、独り者は再び集う。
黒き鳥が三度鳴けば、一つの命が失われる。だがその後には芽生える命、運命は常に回り続ける。
真昼の闇に星が落ちる日、山が声を上げて崩れる。泣き叫ぶ者の言葉に、答えは隠されている。
川が逆流し始める朝、時間は静かに止まる。その間に選ばれし者が、運命を握る手を掲げる。
黒き羽が降り注ぐ夜、空が三つに裂ける。星を掴む者の足跡が、大地に道を刻むだろう。
二つの太陽が空に昇る日、大地は叫び、波が踊る。その時、眠れる獅子が、名もなき王を迎える。
白銀の川が燃え尽きる時、緑の鳥が羽ばたく。その先にある答えを、無垢な者が掴むだろう。
石の森が震える夜、闇の中に一筋の光が灯る。その灯火を辿る者が、新たな章を紡ぐ。
竜の背に乗る者が現れる朝、天空が虹の橋を架ける。その時、言葉を持たぬ者が、世界の扉を開くだろう。
雲が三つ重なりて、影を落とす。黄金の道は、誰にも渡らず、剣は折れ、冠は落ち、その日、鐘は二度鳴る。
燃ゆる星は夜空を飾り、光は海へと散るだろう。赤き翼が舞い降りて、ひとつの町が消える日。
水面に浮かぶ影は五つ。彼らが歌うとき、雨が降る。嘆きの声は途切れずに、その涙、流れを止める。
二つの塔が並び立ち、風がその間を通るとき、古き契約は破られる。大地は再び震えるだろう。
目覚めぬ者を導く者。その手に持つは、銀の灯。一度の選択、未来を裂き、黒き森は静まり返る。
陽は昇り、月は沈む。だがその順が逆となれば、光の戦士たちは迷い込む。闇の中で道を探せ。
金の鍵は深き井戸の中に。手にするのはただ一人、虚ろなる心の持ち主が、その扉を開くとき、何が待つか。
七色の花が咲く丘にて、その蜜を味わう者がいる。だがその蜜は毒ともなり、友と敵を分けるだろう。
川が渇き、鳥が鳴かず、村は廃れ、灰となる。だが東風が吹くその夜に、再び命が芽吹くだろう。
剣を持つ者、冠を戴く者。彼らが交わす言葉は偽り、だが一人の真実を語る者が、未来を織り成す糸となる。
五人の影が並び立つ。その中に混ざる六つ目の影。誰がそれを見抜くのか。闇の中でのみ知るだろう。
嵐の目には静寂あり、その中心に眠るは真実。剣を持つ者は近づけぬ、心を持つ者のみが見る。
音のない声が響き渡る。耳を閉ざす者には届かず、心を開く者だけが聞く。その声は運命を告げる。
森の奥深く、石の宮殿、その扉を開く者は試される。試練を超えし者のみが、隠された宝を手にするだろう。
砂の時計が逆に回り、失われた時を取り戻す。その代償は大きく、誰もがそれを選べぬ。
炎の中に見える影は、未来を語るものの姿。その言葉を聞くには、代償を支払わねばならない。
三つの鐘が同時に鳴るとき、運命の選択は迫られる。選ばれた道の先に待つは、光か闇か、誰も知らぬ。




