王の執務室にて
執務室の窓から見える王都は、大嵐の去った後の清々しい青空に包まれていた。風に揺れる旗が新しい一日を告げているかのように見えるが、部屋の中の空気は重く沈んでいた。
王レオナルト・アルセリオンは、深く息を吐き、鋭い目でレイヴンを見つめる。
「では、ロザリー文書のこの詩が、リリスの行方を示唆していると?」
レイヴンは王の視線を正面から受け止めながら、深く頭を下げる。
「はい、陛下。この二つの詩は、リリス様の状況と一致する点があまりにも多い。魔法省の役人たちも、リリス様が何らかの運命を担っている可能性が高いと考えています」
彼は机の上に置かれた文書を指し示した。その紙には、リリスの行方不明後に起きた異変の記録が細かく記されている。
リリスが魔王の眷属にされたらしい詩
深き闇にその名を刻み、嵐の縁で影は踊る。運命の鎖に囚われし少女、その声は静寂を裂く鍵となる。
解釈例: 「深き闇」は魔王の存在を示し、「嵐の縁」は嵐の夜を指している。「影は踊る」は眷属として取り込まれることを暗示し、「静寂を裂く鍵」はリリスが魔王たちの計画の重要な要素になることを示唆している。
嵐の果てに輝く星、その光は闇に吸われゆく。閉ざされた運命の門が開く時、一人の子が道を選ぶ。
解釈例: 「輝く星」はリリスの象徴であり、「闇に吸われゆく」は魔王の眷属になることを指している。「閉ざされた運命の門」は未知の選択を示唆し、「道を選ぶ」はリリスの意志や役割が重要であることを暗示している。
レイヴンの詩の解釈
「『深き闇にその名を刻み』――これは明らかに魔王を指します。そして、『嵐の縁で影は踊る』、リリス様が消えた夜の嵐を示唆しているでしょう。『運命の鎖に囚われし少女』というのは、リリス様が今何らかの力に束縛されていることを意味するのではないでしょうか」
レイヴンは一呼吸置いて、もう一つの詩に目を移す。
「また、『嵐の果てに輝く星』――リリス様がこの嵐の中で見いだされた特別な存在であることを示し、『閉ざされた運命の門が開く時』は、彼女が今後の選択で世界に大きな影響を及ぼすことを暗示しているようです」
彼の言葉に、王の顔には疲労の色が浮かぶ。
王レオナルトは一瞬目を閉じる。玉座にいる父親である前に、リリスの父親である彼は、娘が見知らぬ危険に直面しているかもしれないという事実に、胸の痛みを覚えずにはいられなかった。
「やはり、蘇生魔術には代償が伴うか……」
低く漏らした言葉は、彼の重い思考をそのまま表していた。
ゼノンは腕を組み、険しい顔をして沈黙を保つ。彼は、蘇生によりリリスの中に別の魂が入ったことを秘匿していた。軽々しくは言えないことだった。
「陛下」
ゼノンは慎重に言葉を選ぶようにして言った。
「ロザリー文書が予言を示しているなら、リリス様が無事である可能性もまだ残されていると思われます」
王はゼノンの言葉に小さく頷いたものの、表情は晴れない。
「たとえば。ロザリー文書には、こう解釈できるものもあります」
リリスの今後を予感させる詩
二つの光が相争う時、影の王国に裂け目が生じる。選ばれし子が手を差し伸べ、新たな秩序が生まれるだろう。
解釈例: 「二つの光」は善と悪の対立、またはリリスの内なる葛藤を示している。「影の王国」は魔王たちの領域を指し、「新たな秩序」がリリスの行動による変革を暗示する。
銀の鳥が月を渡りし時、古き盟約は破られる。その血と涙に咲く花は、新たな時代を告げる鐘となる。
解釈例: 「銀の鳥」は特定の象徴、例えばリリス自身や魔法を指している。「古き盟約」は魔王たちの計画を表し、「血と涙」は犠牲を伴う未来を示唆している。「新たな時代」は変革や希望の暗示。
「ふむ。なかなかこじつけが過ぎるようだが、ゼノン殿のおっしゃることだ。まったくのでたらめとは言えまい」
王は嘆息しながらも、微かな期待をせざるを得なかった。




