王の間
深夜の王宮は普段の静寂を保ちながらも、異様な緊張感が漂っていた。外では嵐が激しさを増し、窓越しに稲光が時折部屋を照らしている。王の執務室に隣接する会議室には、王国の重鎮たちが一堂に会していた。緊急の召集に応じて集まった彼らは、皆一様に険しい表情を浮かべている。
会議室は重厚な装飾が施された空間で、大理石の床に深紅の絨毯が敷かれ、壁には歴代の王たちの肖像画が並ぶ。長い楕円形のテーブルを囲むように、王や大臣たちが腰掛けていた。各席には銀製のランプが置かれ、温かな光が卓上を照らしているが、時折窓の外から差し込む稲光が不気味に部屋を染める。
王、レオナルト・アルセリオンは会議室の最上座に腰掛け、腕を組みながら考え込むように眉間に皺を寄せていた。その目には国王としての責任感と、差し迫る脅威に対する覚悟が見て取れる。
その隣に座るのは宰相のグレゴール・ルディエン。老獪な策略家として知られる彼は、細かい書類が積まれた手元を整理しながら、鋭い眼差しを会議室全体に向けていた。
第一王子のアーサー・アルセリオンは王の左隣に着席し、背筋をぴんと伸ばして座っている。その冷静沈着な表情からは、次期国王としての威厳とともに、緊急事態への準備が整っている自信が感じられる。
第二王子のフェリクス・アルセリオンは、テーブルの端にややリラックスした姿勢で座っているが、その目は真剣そのもので、状況の深刻さを理解しているようだった。
軍務大臣のバルフォード・クレイグは鋼のような表情で、地図が描かれた大きな巻物をテーブルに広げ、嵐の範囲や予想進路について説明している。彼の右には、王国の三将軍が並び、それぞれ状況に応じた軍備の提案を記した手元のメモを確認している。
魔法大臣のセルジオ・フィアンカは反対側に座り、精巧な水晶球を卓上に置いて、何かを占うように操作していた。その隣の次官であるレイヴンは淡々とした様子で、記録を取るペンを走らせながら、時折冷静な口調で意見を述べている。
会議は嵐の脅威についての議論だ。
「嵐がこうも急速にやってこようとは。ただの自然現象ではないことは明らかだ」宰相グレゴールが低く渋い声で切り出す。
「その通り。通常の嵐では、これほど規模が急速に拡大することはない」魔法大臣セルジオが言葉を受ける。
「この嵐は、間違いなく魔王によるものです。自然の力では説明がつきません」
「魔王か……」第一王子アーサーが腕を組みながら呟く。
「この国のどこかに魔力の高い者を隠れ蓑にして、力を蓄えていたのか。それとも、外部からの影響だろうか?」
「嵐の進路を見てみろ」軍務大臣バルフォードが地図を指し示す。
「この範囲の中心は、王都近辺にある。この事実だけでも、我々の防衛体制を早急に見直さねばならん」
レイヴンが淡々と答える。
「魔王の目的が何であれ、まずは直接的な被害を抑えるために、魔法防御陣を張ることが急務です。そのための指示はすでに出しましたが、持続時間が限られているため、迅速な対応が求められます」
部屋の空気は重々しく、時折響く雷鳴がその緊張をさらに際立たせていた。出席者たちは次々と意見を述べ、対策を練り始める。嵐がただの前兆にすぎない可能性も考慮し、議論は夜通し続くことを予感させる雰囲気だった。




